第25話 コミュニティ

 遂にお待ちかねの、コミュニティの集会だ。

 シャデリーと宿屋に入った。

 ここが会場か。


 貸切と書かれた札が下がった食堂のドアを開ける。

 そこに居る十数人ほどの視線が俺に集中した。

 隣にいるシャデリーを確認するとその視線は離れて行った。


「こっちよ」


 連れて来られたのは髪を短く切っていかつい顔の男性の前だった。


「新入りか。俺は顔役のジュラムだ」

「死体術士のサクタです」

「気楽にしてくれ。歳も俺とそんなに変わらないはずだ」

「ならそうさせてもらう」

「死体術士か。参ったな。準備が手間だ」

「なんの準備だ?」

「職業を証明してもらう為に魔法を使ってもらうのが、コミュニティ参加の決まりだ」

「あんたの剣で証明してやるよ」


 ジュラムが腰の剣を差し出したので、魔法を掛けてフライングソードに。

 剣が空中を舞いダンスを見せて鞘に収まった。


「お前、レベルはいくつだ」

「たしか、52だな」

「シャデリー、物騒な人間を連れて来たな」

「仕方なかったの。あの子を助けるのに世話になったし」

「そうか。なら仕方ないな」

「言うほど物騒じゃないぜ。レベル上げするのにやったのは漬物を作った事ぐらいだ」

「ほう、漬物でレベルアップねぇ。フランダルとシュガイ、こっちに来い」


 少年が二人椅子から立ち上がりこちらに歩いてきてペコリとお辞儀した。


「サクタだ」

「フランダルだよ」

「シュガイです」

「この二人は死体術士だ。レベルが上がらなくて困っている」

「俺にレベル上げを手伝ってほしいという訳か」

「そうだ。頼めるか」

「それよりも俺は教会打倒の仲間を探しに来た」

「それは望みうすだな。ここにいる奴らはみんな平和主義だ。争い事は望んでいない」


 その時、俺は少年達の胸にあの八芒星はちぼうせいのペンダントが掛かっているのに気づいた。


「創造神は自衛のための戦いを認めて下さる」


 俺の言葉を聞いて、そうだという声があちこちから上がる。


「お前もあの胡散臭いネオシンク教の信者か」


 ジュラムが吐き捨てるように言った。


「まあ、信者と言ったら信者なのかも」


 俺が創設者だという事は黙っていた方がよさそうだ。


「コミュニティの人間の大半があの宗教にかぶれてやがる」

「禁止はしないのか」

「寄付も受けないで毎日一人を無料ただで治療する。胡散臭いにもほどがあるだろ。でも言っている事はまともだ」

「信者でも教会に楯突くのは恐いか」

「そういう問題じゃない。悪人善人を問わず、人は殺したくないのさ」

「仕方ないな。二人のレベル上げは手伝おう」

「悪いな。埋め合わせはする」


「シャデリー、俺が漬物の作り方を教えたら、その後は面倒みてくれ」

「ええ。フランダル、シュガイ、漬物を一緒に作りましょ」

「「はい」」


 ドアが開いて六歳ぐらいの女の子を連れたアマゾネスみたいな大柄な女が入って来た。


「やっほー、シャデリー久しぶり。ジュラムは相変わらず辛気臭い顔をしているね」

「よけいなお世話だ」

「おや、新顔だね」

「サクタだ。死体術士だ」

「ビーセスだよ。魔獣使いさ」

「私、ミディ」


 ミディの顔には怯えの色がある。


「ミディは病み上がりなんだ。優しくしてやってくれ」


 なるほど。


「もう病気はいいのか」

「ああ、シャデリーが持って来た根っこを食わせたら治ったよ」

「一応聞くが教会転覆の仲間になる気はないか」

たぎる話だね。詳しくおしえとくれ」

「手始めに各地の輝職きしょく同盟の支部をぶっ潰す。森の奥に拠点を作り教会の攻撃に備える。決まっているのはここまでだな。この場で言えない事もいくつかある」

「気にいったね。考えが合う間はメンバーになってやるよ」

「ミディもやる」


「勧誘したけど良かったのか」

「コミュニティは互助組織だ。やる事に制限はつけない。逃げる為に聖騎士を殺した人間もいるしな」


 よし、帰って増築だな。

 フランダル、シュガイの二人が居れば増築もはかどるだろう。


 俺達は家に帰って、話し合いを始めた。


「まず、最初に言っておく。ネオシンク教に幻想を見るのは辞めろ」

「えっ、信仰を捨てろというのですか」

「ふっちゃけると、ネオシンク教はシュプザム教会を倒すために俺がでっちあげた。このことは内緒な」

「へぇー、凄い事するね」


 口笛を吹いてビーセスが感心したように言った。


「えっ、神は居ないのですか」


 シュガイがそうなげいた。


「やっぱりな。俺もそう思っていたよ」


 諦め口調でフランダルがつぶやいたのが聞こえた。


「さあな、神がいるかは分からないが、禁忌持ちなんていう不完全な存在を神が生み出す訳はないと思っている。だから、禁忌持ちは完全な存在なんだよ。要するに職業の全ては世界に愛されている」

「その意見には賛成だね。あたいの操る魔獣だって世界に愛されている」

「ネオシンク教を信仰するのを辞めろとは言わない。ただ本質を見失うなって事だ。信念を持て」

「分かりました」

「俺は信者を辞める。だけど、全ては平等だ」

「まあ、実際は格差があるけどな。若いうちは理想を追い求めるぐらいがちょうど良い」

「ミディはネオシンク教に入る」


「好きにするさ。これからの予定だけど。増築が終わったら、少年二人は漬物を作ってもらう。ビーセスには狩りに行ってもらう」


 増築はオークゾンビの働きもあってすんなりと進んだ。

 少年二人は漬物を上手く作れるようになってレベルがガンガン上がった。


 ビーセスにはと金ときん三匹を貸し与えて送り出した。

 魔獣にオークを襲いかからせると内臓とか損傷して肉が大部分使えなくなる。

 それでと金ときんを投げつける戦法を教えた。


 ビーセスは手なずけた狼魔獣の助けを借りて、危なげなく狩りを成功させたようだ。

 そろそろ次の段階に進んでもいいかな。

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