第22話 輝職同盟支部

 マンドラゴラヴァンパイアの切り離しについて店の倉庫で考えていた。

 輝職きしょく同盟支部の事を忘れた訳じゃない。

 ネズミには情報を集めてもらっている。


「大変よ。コミュニティのメンバーが輝職きしょく同盟に捕まったわ」


 店番のシャデリーが駆け込んで来て言った。


「もう少し情報を集めたかったが、やるか」

「どこに連れて行かれたのか分からないのよ。気休めはいらない」

「施設の場所は全て分かっている。多分メンバーの監禁場所もな」




 支部を壊滅させる作戦を実行する事にした。


「大変だ仲間が襲われている。犯人はデルバジルだ」


 支部の施設の一つにチンピラヴァンパイアと共に俺は駆け込んだ。


「何っ、姿を見ないと思っていたら奴が裏切っていたのか。今、人を集める」


 人が続々と集まって来た。

 百人は居るような気がする。

 輝職きしょく同盟の施設から、かき集めたのだろう。




 チンピラに案内されて輝職きしょく同盟の面々が武装して後に続く。


「お前見ない顔だな」

「最近入ったもので」


 俺を怪しんだ輝職きしょく同盟の人間が問い掛けてきたのでしれっと嘘をついた。


「チンピラの顔なんか一々、覚えてもしょうがないだろう」

「そうだな」


 どうやら疑いは晴れたみたいだ。

 微塵も疑っている様子が無い。


 チンピラは街を出て森に案内した。


「デルバジルはどうした」

「おや、お呼びですか」


 デルバジルが木の後ろから現れ言った。


「お前が裏切っていたのか」

「ええ、シュプザム教会の教義に疑問を覚えまして」


 俺はこっそり集団から離れ詠唱を開始する。


「細菌の屍骸よ、凶悪なグールとなれ【メイクアンデッド】」


 輝職きしょく同盟の面々を黒い霧が襲う。

 細菌兵器、扇子せんす面目躍如めんもくやくじょと言ったところか。


「やはり罠だったか。毒か。治癒師、キュアを掛けろ」

「毒を消失させたまえ【キャア】」

「身体が溶けるなぜだ……」

「嫌だ死にたくない……」


「身体を癒したまえ【ヒール】身体を癒したまえ【ヒール】身体を癒したまえ【ヒール】。ヒールが効く。でも、追いつかない」


 治癒師は懸命にヒールを掛けるが俺も地面から新たに細菌グールを生み出す。

 魔法の綱引きは俺に軍配が上がったようだ。

 全ての輝職きしょく同盟の人間が白骨化して、仕舞いには骨も無くなった。

 シャデリーはメンバーを助け出せただろうか。

 これだけ人数を減らしたのだから上手くいってないと困る。

 後は支部にいるお偉いさんを捕らえるだけだ。


 デルバジルを後ろ手に縛り俺は輝職きしょく同盟の事務所に出向いた。


「デルバジルを捕まえて来ました」


 俺は扉の前の門番に話し掛けた。


「ちょっと待て」


 門番が中に確認を取る。


「縛ったロープを確認させてもらうよ。よし、入っていいぞ」


 デルバジルと俺は事務所に踏み込む。


「本隊はどうした」

「ふははは、おめでたい奴だ。そんな事も分からないとはな。デルバジルやっちまえ」

「はい、ボス」

「お前、敵だな。敵襲。敵襲」


 デルバジルが力を入れるとロープがミチミチと音を立て始めた。




 俺は瓶に詰めた細菌兵器、扇子せんすを床にばら撒いた。

 細菌は軽いので屋内でも瓶に詰めて持ち運べる。


「そいつを除いて。骨にしろ」


 部屋の中を黒い霧が立ちこめる。

 俺はデルバジルに生き残りを任せて、その場を後にした。


「どうだった。褒美ほうびはたんまりもらえたか」

「ええ」


 門番に念の為に復活させたと金ときん一匹を顔に投げつけた。


「何を」


 口と鼻をふさがれた門番はしばらくもがいていたが、やがて静かになった。


 しばらくしてデルバジルが喉をかき切った中年の男を担いで出てくる。

 上手くいったようだな。


「ヴァンパイアになれ【メイクアンデッド】」


 中年の男はむくりと起き上がった。


「まずは血を飲めよ」

「はい、ボス」


 俺は中年の男に血を飲ませた。

 中年男の喉の傷がみるみる治る。

 いつ見てもヴァンパイアの再生力は凄いな。

 血液に含まれる魔力を利用して再生するんだよな。

 日光や十字架やニンニクは大丈夫だが、ヴァンパイアにも欠点がある。

 魔法やスキルが使えないのだ。

 生前の職業は役に立たない。

 運動能力は向上するから、それが魔法やスキルの代わりなのだろう。


「デルバジル、生前の行動には思うところもあるが、ご苦労だったな。安らかに眠れ」

「はい、ボス」


 魔法を解除すると、デルバジルは死体になった。

 犯人に仕立て上げるために、切り傷を幾つか作っておく。


「おっさん、お前の名前は」

「ラスモンドです」

「今日、コミュニティメンバーを捕まえたろ。そこに案内しろ」

「はい」


 そこは俺がシャデリーに伝えた場所のひとつだった。

 扉が開けっ放しになっていたので中に入る。

 死体が散乱する中でシャデリーが一人うずくまっていた。


「シャデリー、首尾しゅびはどうだ」


 シャデリーは顔を上げると無言で首を振った。


「駄目だったのか」

「駄目じゃない。かろうじて間に合ったわ。拷問されて酷い状態だったの。なんであんなに人間は残酷になれるの」

「さあな、俺にも分からん。ただ俺達も同じ穴のむじなだな。殺すのも拷問するのも大差ない」

「生きていくには仕方ないのね」

「生存競争なのかもな」


 俺はマンドラゴラヴァンパイアの事を考えた。

 祈りの声の薬効がそれなりにあるのだったら、マンドラゴラヴァンパイアの薬効は凄いのだろうな。

 なぐさめにはならないかも知れないが、助け出されたメンバーに食べさせてやりたいと思った。

 一介いっかいの漬物屋には心を救うなどできない。

 ここいらが限界だ。


 マンドラゴラ対策は確か犬や家畜にひもをつけて引き抜かせるだったな。

 よく考えたら切断するのに人の手はいらない。

 機械で時限式の小さいギロチンは作れる。

 これなら魔力の叫びは伝わらない。

 なんで機械を使う事を思いつかなかったのだろう。

 なんてこった。

 異世界にかなり毒されているな。


 押し切りの道具はあったので、それを時限式で作動させる物を作ってもらった。

 監禁されたメンバーにマンドラゴラヴァンパイアを食べさせたところ、欠損部位まで治ったという報告をシャデリーから受け取った。

 ふふ、これでエリクサーの需要を奪える。

 教会の人間に一泡吹かせる事ができるだろう。

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