第10話 街で散策

「見てあそこで紙芝居をやっているわ」


 紙芝居屋は色とりどりの幻を見せて子供達を楽しませてした。

 幻だけで芝居をやったら儲かるだろうに。

 簡単な造形の物しか空中には浮かんでいない。

 パンみたいな雲とか丸い月とかだ。

 制限があるのだろう。

 幻術士は禁忌の職業ではないが、幻が虚偽きょぎだという事で教会からは低く見られていた。

 幻術士が詐欺を働いたなんて話は今まで聞いた事がない。

 教会の差別主義は見ていて気持ち良いものじゃない。


「眠くならないなら見てってもいいぞ」

「遠慮しておくわ。子供に大人が混じっても、きっと邪険にされるわ」

「童心に返るのも、たまには良いもんだと思うがな」

「熱くて濃いお茶が飲みたいわ」

「あそこのカフェで一服しよう」


 飛車ひしゃ角行かくぎょうを給仕に、優雅にお茶をする。


「鎧ってのが玉にきずだけど、かしずかれるのも悪く無いわね」


 ジュサがクッキーを摘まんで言った。


「泥棒だ。捕まえてくれ」

飛車ひしゃよ、懲らしめてやりなさい」


 飛車ひしゃがカフェのテラスから駆け出して、向ってくる泥棒に足払いを掛ける。

 泥棒は宙を飛び道路とキスをする羽目に。

 ざまぁみろ。

 人様の物に手をつけるからだ。


「助かったよ。あんた凄いな」

「いえ、凄いのはゴーレムですから」


 テラスに来た被害者と話をしていたら、何やら人相の良くない男達がやってくる。

 泥棒の仲間が捕まった泥棒を助けに来たようだ。


「私がやろうか」


 ジュサの言葉を手で制して俺は立ち上がった。

 腹ごなしの軽い運動にちょうど良い。

 同じ姿勢で長時間いたので少し筋肉をほぐさないとな。

 俺は肩をゆっくり回しながら男達の前に立ちふさがった。


「やろうってのか」

「ちょっとした気分転換だ」


 俺は言うなりストレートを顔面目掛けて放った。


「ぶへっ」

「こいつ強いぞ」


 俺は蹴りで瞬く間に追加で一人片付け。

 ナイフを抜いてきたので、香車きょうしゃを呼んだ。

 テラスに置いてあった香車きょうしゃが宙を飛び俺の手に収まった。


 剣の平で男達を散々叩く。

 レベルも40ともなればいくら後衛職でもこれぐらいの芸当は出来る。

 全て叩きのめし警備兵に突き出した。


 野次馬が拍手を俺に送る。

 やべっ、目立っちまったか。


 ジュサを急かしカフェを早々に立ち去った。


「気をつけないと。フライングソードを宙に飛ばせたのはやりすぎよ。私に言ってくれれば投げたのに」

「気をつける。見ていた奴はいたか」

「あんたの乱闘に目がいっていたから、気づいた人はいないと思う」

「そうか、喧嘩なんてあまりした事がないから、頭に血が登ったよ」

「仲間を危険にさらしたんだから、お詫びにどこか連れていきなさいよ」

「どこかって。おお、あれが良いんじゃないか。貸衣装」

「服ね。良い選択だわ」


 二人して貸衣装屋の扉をくぐる。


「いらっしゃい。カップルさんには結婚衣装の試着サービスやってます」

「ウェディングドレスはやった事はないわね」


 ジュサの目が光ったのを俺は見逃さない。

 ジュサは呪う気満々だ。

 まあ良いか防虫だからな。

 歩いただけで死にそうな人間がウェディングドレスは着ないだろう。


「さぁさ、旦那さんも。奥さんは既に試着するためのドレスを持って着替え室に行きましたよ」


 俺も着るのかよ。

 このひらひらが付いたぴったりした衣装を。

 くそう、やってやるよ。


 店員に手伝ってもらい婚礼用の衣装を着る。

 着替え室から出るとジュサは純白のドレスを着て至福の表情を浮かべていた。

 きっと、ジュサは良い呪いが出来たとか思っているのだろう。

 少しかわいいかもと思ったのはここだけの秘密だ。


「とろけそうな顔をしているぞ。どんだけ呪った」

「ドレスは全部呪ったわ。魔力はすっからからんよ。レベルも上がったけど」


 そりゃ、ドレスは質が高いだろうよ。

 格も高いのかもな。

 ジュサに洋服屋を開かせてやりたいなんて考えたが。

 高級品路線で失敗するのが目に見えている。

 却下きゃっかだな、これは。


「どうされます。お姿を写し取る転写のサービスもしてますが」

「やろうよ」

「えー、ちょっと嫌だな」

「漬物臭い部屋に我慢しているのだから、これぐらいなんなの」


 倉庫とは壁でへだてられているが、風に乗ってたまにぷーんと匂うんだよな。

 夜までに倉庫を空にしたいと頑張るけど、たまに在庫が残る。

 鎧も高いからアンデッドのポーターも気軽に増やせないんだよな。

 魔力も無限じゃないしな。

 村でアンデッドは作れないから小屋での作業は仕方ない。

 アンデッドの臭いにくらべりゃなんてこと無いから、俺はあまり気にはならないのだけど。

 それに、肥料が猛烈に臭い。

 臭いを気にして、やってられるかってんだ。


「旦那様は奥さんを漬物臭い部屋に入れているのですか。男ならそんな境遇きょうぐうに負けない奥さんにご褒美ほうびをださないと」

「分かった。やりゃ良いんだろ」




 ピンク色の壁の前にジュサと立たされた。


「いきますよ。かの者を写し取りたまえ。【ドロー】」


 くっ、なんか嬉しくなって負けた気分だ。

 魔法で描かれた絵をジュサはホクホク顔で受け取った。

 弱みを握られた気分だ。

 ジュサがその後何着も試着しているうちに日はかたむいて、なんちゃってデートは終わった。

 こんな日もたまには良いだろう

 ぐっすり寝たら、また世界樹の実を運ばにゃならん。

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