第7話 増築

「おはよう」

「うはーーー」

「酒臭い。ジュサ、お前、酒臭いよ」

「キャハハハハ。祝ってやるー」

「祝ってやるって。お前、呪い以外もできるのか」

「冗談よ、冗談に決まっているじゃない。キャハハハ」


 分かったから肩をバンバン叩くなよ。

 食べ物は好きに食って良いと言ったが、朝から酒盛りするか普通。

 あーあ、俺のささやかな楽しみの酒が。


「いいから、お前はマンドラゴラ食って寝とけ」


 ジュサを寝かしつけたので、酒を造る事にした。


「リンゴと蜂蜜よ、とろーり溶けろ。そして、水を纏って美味しいゾンビ酒になれ。【メイクアンデッド】」


 最近のお気に入りなんだよなリンゴ入り蜂蜜酒。

 よしよし、麦は芽を出している。

 エールも造っておくか。


麦芽ばしがとホップ協調し水をまとって、にがみばしった美味いゾンビ酒になれ。【メイクアンデッド】」


 小さい酒樽を小屋脇にある薪が入れてある物置に入れる。

 後片付けが面倒だ。

 俺も一杯飲みたいよ。


 井戸から水を汲んで、鍋や包丁やし布を洗う。

 調理道具を片付けて、小屋の中を覗くと。

 ジュサはベッドに腰掛けて濃い紫の髪をとかしていた。


「どうだ、少し寝てすっきりしたか」

「頭がガンガンする」

「こういう時はだな。汗を流すに限る。漬物作りを手伝えよ」


 スケルトンナイトを護衛にジュサを村まで行かせる。

 ジュサの偽りの職業は付与士だ。

 魔法の詠唱を聞かれたら一発でばれるけど。

 似たような事が出来るから誤魔化ごまかせるだろう。


 俺は村から小屋に戻ってくる時に運んで来た大根を手に取った。

 桶に汲んだ水で洗って葉っぱを切り落とす。

 塩と唐辛子を用意して。


「大根と唐辛子よ、塩の鎧をまとって美味そうなゾンビになれ。【メイクアンデッド】」


 持って来た大根、全ての処理が終わった。

 エールを井戸で冷やして一杯いきたい欲求を堪えて火種の様子を見る。

 おお、そうだ。

 まきってゾンビにならないかな。

 スケルトンでも名前は何でも良いから、アンデッドにならないか。

 でも、動けないんだろうな。

 禁書によれば、スケルトンが動くのは動いた記憶が染みこんでいるのだとか。

 それって魂じゃないのと思わないでもないが。

 霊術の影響を受けないから記憶だとある。

 鎧が動くのも動いた記憶が重要らしい。

 新品の鎧がリビングアーマーに出来ないのはこの理由がある。

 薪のアンデッドに出来るの事は葉っぱと根を出すだけか。

 でもアンデッドは成長しない。

 仕方ない薪アンデッドは諦めるか。


 野菜アンデッドの仕組みは野菜を自然に放って置いても腐るまたは発酵はっこうするよな。

 つまり菌の屍骸がそこらにあるのだろう。

 それで、野菜と一緒にゾンビになって作用しているのではないかと思われる。

 菌は微小すぎて合成アンデッドのくくりに入らないのだろう。


 菌の特徴としてもの凄い勢いで増える事がある。

 菌の屍骸がそこらにあるといって、もの凄く少ないはずだ。

 成長しない菌がどうやって増えるのだろう。

 謎だ。

 それとも魔力を帯びた菌はもの凄い高性能だとでもいうのだろうか。

 とにかく俺は学者じゃないから分からん。


 ジュサが帰って来たみたいだ。


「お疲れ。きゅうりを貸してみろ。美味いもの作ってやる。きゅうりと唐辛子よ、塩の鎧をまとって美味そうなゾンビになれ。【メイクアンデッド】」

「何これ。きゅうりのゾンビ。これを食えって言うの」

「お前が昨日食ったマンドラゴラもゾンビだぞ」

「えっ、嘘。何て物、食わせるのよ」

「大根のゾンビは村の特産品だ」

「ええーい、食えば良いんでしょ」


 ジュサはぽりっと一口。

 それからぽりぽりときゅうりの漬物を食う音が絶え間なく続いた。


「美味しい。歯ごたえといい。塩加減といい。なんでこんなに美味いの」

「さっき考えたが、俺にも分からん。とにかく、これが俺の仕事だ」

「私ここに住む。美味しい酒と美味しいつまみ。極楽だわ」

「服はないぞ」

「そんなの買えばいいのよ。そうだわ、私が手伝える事ってない」


「それなら、虫を殺す呪いを掛けれるのだよな」

「ええ」

「もっと弱く出来るか」

「できるわよ」

「腐らせる菌を殺したいんだ」


「菌って何」

「目に見えない腐らせる者がいるんだ」

「漬物を腐らせる者を殺すのね。腐らせる者なんてのが居るんだ。小さな虫かな」

「そのようなものだ。殺せばさらに味の劣化が止まる」


「呪いが体の中に蓄積しないかしら」

「期限付きの呪いなんて出来ないのか」

「出来るわね」

「よし決まりだ。カワバネ商会の副会頭に任命しよう」

「給料弾んでくれるわよね」

「ああ、勿論だ。寝る所を確保しないとな」


 そうだ薪ゾンビだ。

 樹ってありえないほどくっつくよな。

 他の種類の樹を接木つぎきしてもくっつく。

 じゃあ丸太ゾンビもくっつくんじゃないか。

 それで小屋を増築するか。

 毎日魔力を注がないと壊れるけど、急場をしのぐなら何とかなるか。

 くっつけたら金具で固定するか。

 待てよ。

 金具込みでアンデッドにすれば良いんじゃないか。

 これなら魔力が切れても多少隙間が出来るぐらいでなんとかなるかも。

 組み立てにはオークのアンデッドが必要だな。


 丸太の確保は簡単に出来た。

 ボルチックさんが馬を貸してくれたので村から簡単に運べたからだ。


 さて、やるぞ。


「オークゾンビ、下から積んでいくぞ」

「グォ」

「グル」


 丸太が並べられた。


「いくぞ、丸太は金具の剣を手に取り、強固な壁スケルトンになれ。【メイクアンデッド】」


 よし良い調子だ。

 癒着ゆちゃくした2本の丸太を足でるがびくともしない。


「オークゾンビ、丸太の上に丸太を積むんだ」


 着々と小屋は出来て行く。

 屋根は下で組み立てて上に乗せるか。

 オークなら手が届くだろう。


 建築は素人だが要は魔法が接着剤の積み木だ。

 癒着ゆちゃくするんだから、魔力が切れるまでは大丈夫だと思いたい。

 後で本職に補強してもらうか。


 そんな訳で小屋は増築され、倉庫も出来て万々歳ばんばんざいだ。

 よし、漬物作り頑張っちゃうぞ。

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