第21話 「戦いの終わりに」
奴は今度こそ血の泡をはいて瀕死の状態だ。
いくら<ヴィクター>スキル保持者でも、意識外の攻撃に対してスキルを発動できない。
上半身だけになりながらもなおも、無様にのたうつシャルレットの目の前に立つ。
そして肩から胴体の骨がバキバキに崩れた骸骨を剣で示す。
「ばかなっ……!? あれが全部
シャルレットは胴体から上だけの状態で、なおもしゃべり続ける。
なんてしぶとい奴だ……。
「そう、俺は水を操った段階で、すり替わり、ダミーの屍者に最大限の強化魔法をかけてもらっていたのさ。そのうえで接続魔法で意識をリンクさせてもらった」
「強化魔法!? たかが死体にあの動きをさせるには、高度な魔術が必要なはずだ! しかも接続魔法と同時使用だと? そんなことできるわけが……!?」
「出来るさ。なんたって彼女は未来の賢者様だからな」
すると、草で巧妙に隠された窪地から、リアがひょこっと頭を出す。
その顔は照れているようだ。
「くそっ……! 認めねぇ……。認めねぇぞ……! この俺が負けるなんて……!」
「お前が勝利宣言した時点で、お前は負けていたんだよ……」
そう冷たく言い放つ。
やつは悔しそうに顔をゆがめながらこと切れた。
胴体をくっつけてネクロマンスしてやることもできなくないが、しなかった。
こいつは今まで戦争で何百人も殺してきた悪党だ。
そして何よりも、戦争に快楽を見出しているやつだ。
死んでも戦いを続けられるというのは、こいつにとって喜びでしかないだろう。
こいつが死してなお存在し続けることは許されない――殺されたハンスをはじめ、村人たちのためにも――そう思ったからだ。
戦争屋らしく、泥の中で無様な屍をさらして風化していく―そんな末路こそふさわしい。
「はぁ~~」
ため息が出る。
それにつられたように、ぐ~とおなかが鳴る。
もうお昼の時間だった……。
そういえば、今日は何も食べてなかったな……。
いきなりドッと疲れが襲ってきた。
昨日からずっと神経を張り詰めていたのがよくわかる。
村人たちに勝ったことを伝えて、彼らとともに村に戻ろう。
帰ったら戦勝祝いでもするかな――。
「よーし、リア、ご苦労様!」
俺は葉っぱをどけて窪地からリアを抱っこして引き上げる。
「戦場で怖い思いをさせてしまったかい?」
「いえ、アレク様のお役に立てて何よりです!」
抱っこされてリアは嬉しそうにしてる。
「先に行ってみんなにもう安全だって伝えてきてくれ。それからお昼の準備もお願いしてきてくれ。俺はまだ戦後処理しなきゃならない」
「はい、私たち二人の勝利を皆さんに伝えてきます!」
トトトっと駆けていくリアを見届ける。
――さてと。
「リルトといったな? 蹴りを入れたことは詫びる。立てるか?」
「な、なんで手を差し伸べるんスか!? あたしはあんたを殺す気だったんスよ!?」
「それがどうした? 誰であれ俺を殺すことはできない」
「いや、助ける理由にならないっスよ、それ……」
「お前はあの男にいいように使われていた被害者だ。だから助けるんじゃだめなのか?」
リルトはその猫目を丸くする。
「はぁ……、なんかいろいろ誤解してたっスよ、ネクロマンサー。あたしはあんたが血も涙もないサディストだと思っていたっスけど、どうやらただのお人好しだったみたいっスね」
「お前の仲間を皆殺しにしたのに、お前だけ助けるのは偽善だってわかってる……。けどほっとけないんだ」
「正直、傭兵団にはそんなに愛着が無いんスよ。みんな略奪と戦争しか興味のない連中だったっスから……。あたしが戦ってきたのは団長のためだけだったんスよ。でも、もうそれもどうでもいいっス……」
リルトは俯いて自嘲気味に言う。
「俺はお前を裏切ったりしない――そう約束する」
リルトはしばらく考え込んで――
「いいっスよ。どうせ行く当てもないんスから、とことんついていくっス。でも裏切ったら許さないっスよ~。猫を裏切ると末代まで呪われるっスからね!」
「猫なのか……」
俺の手を取り立ち上がるリルト。
その体は泥まみれだ。
あとで川で洗うように言うと「それ、セクハラっスよ」とあきれられるのだった。
戦場に朽ちていくはずの屍が、ぞろぞろとアレクに続き、激戦の跡地には泥しか残らなかった。
その様子を林の中から監視する人影があった。
「あれは……、まさか、アレク・バーデン=ブロッホが生きているなんて……」
漆黒のフードを深々とかぶり、望遠鏡で屍者の行進を覗くその少女は、トランスヴァル直属の密偵だ。
「侵入してきたシャルレット傭兵団の動向を追跡するだけのつもりが、まさかこんな収穫があるとは……、予想外でした。早くこのことを報告しなければ」
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