第20話 「真の勝者は……」

「なんでっスか、団長……。なんで来てくんないんスか……。いつでも仕掛けるチャンスはあったはずなのに……」


リルトは俺の蹴りを食らって、泥土に横たえながらうわ言をつぶやいている。

リルトとの戦闘中にシャルレットが奇襲してくると思ったんだが、ハズレか……。

では奴はどこにいるんだ……?

そう思った矢先――


「でかしたぞぉ、リルトぉ! やっぱ、お前は最高の囮だ!」

「なっ、団長!?」


シャルレットが大きな戦斧バトルアックス片手に現れた。

おそらく、こいつもリルト同様、馬の腹に隠れて俺のところまで接近したんだろう。


「俺はこいつが手の内を全てさらして、ついでに護衛が全滅するのを待っていたんだ。そのうえで一対一にならないと、俺のスキルは発動しないんでな」

「スキル……? お前も貴族だったのか?」

「まあ、そんなとこだ。それよりも今から、俺とお前の一対一の決闘になるんだ! もっと昂れよ!」


そういってシャルレットは戦斧を振り下げる。

だが、戦斧が頭に達するより前に――


「あっ?」


リヴァイアサン・ブレードがシャルレットの腹を貫いていた。


「リルトと戦ってるときはお前がいつ仕掛けてくるか、ずっと警戒しながら戦っていた。だが、こうして姿を見せたからにはその必要はない。結局、俺の実力がお前を上回っていたということだ」

「そうかよ……、でもな――」


腹を貫かれ、本来、瀕死であるはずのシャルレットがなおも戦斧を振り下ろし、肩をぱっくりと切り裂いた。


「勝つのは俺だ」


体はベチャッと泥の上に倒れ、意識は遠のく。

いつの間にか奴の腹に空いた大穴は塞がっていた。


「かぁ~、やっぱたまんねぇな! 己が持てるすべてを以て強敵を屈服させるこの優越感がよぉ! 金も女も名声もコイツの前には全部かすんで見える、これだから戦争がやめられない!」


勝ち誇るシャルレットを見上げながら……。

意識は暗転する――。


「冥土の土産に教えてやるよ。俺は勝利者、<ヴィクター>スキルの保有者さ」


<ヴィクター>、一対一の勝負で勝利するスキル。

それは因果をも歪め、相手を殺すまで死なないという強力なスキルだ。

① 一対一で相対していること。

② 相手の能力が半分以上わかっていること。

この二つの条件を満たした時点で、スキルは発動し、シャルレットの勝利は確定していたのだ。


屍者たちが屍に戻る。

傭兵団に生き残りはなく、戦場に立っているのはシャルレットただ一人だ。


たとえ何を犠牲にしてもシャルレットは勝利してきた。

彼の傭兵団はすべて彼の勝利のための生贄でしかなかったのだ。


「全く理解に苦しむぜぇ! なぜあの馬鹿どもは、俺からおこぼれをあずかれると思う? なぜ、俺についてきさえすりゃ、生き残れるとか信じられるんだ? 自分の運命は自分でつかむもんだろ、ふつー?」

「そ、んな……! なんでっスか……、団長……」


「生き残るのは俺一人ってことだ。結局のところ、誰かに自分の命を委ねちゃなんねぇのさ……」

「あたしは……、団長に拾われたから……。だから恩を返そうと戦ってきたんスよ…………! なのに――」

「リルト、てめぇも含めてバカばかりで助かったぜ! 俺の華麗なる勝利のための布石になってくれてよぉ!」


「お前、さっきから勝ち誇ってるみたいだが、俺を殺せてはいないぞ?」

「なにっ!?」


俺はシャルレットの胴体をリヴァイアサン・ブレードで両断する。


「がぁぁぁ…………!」

「さっき、お前は自分の仲間を囮だといったよな? だが、囮に騙されたのはお前の方だったな」

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