第22話 曝け出せ




「なあ、田口?」


 ぼんやりと保住に見入っていると、自分の名前が耳に飛び込んできて、はっとした。


「すみません、なんでしょうか?」


「お前、聞いてないな?」


 渡辺は目を細めて田口を睨んでいる。


「すみませんでした」


「渡辺さん。田口も結構頑張ったし。疲れているんじゃないっすか」


 矢部が間に入ってフォローしてくれた。


「すみません」


「あ~あ。お前も、もっと自分を曝け出さないとダメだぞ!」


 今度は田口に絡む気らしい。渡辺は目が据わっていた。酔うとタチが悪いようだ。


「しかし」


「いいか。ここでは、素の自分を曝け出してなんぼだ。それができなくちゃ、まだまだ仲間とは言い切れないな」


「素の自分、ですか?」


「そうそう。素の自分」


 谷口も興味津々。


「田口の生い立ちから、なにからすべて聞かせろ」


 ——そんな……。


 田口は心底困った顔をした。


「お、表情に出たぞ。困った顔」


「まじか。いつも同じ顔でなにを考えているか、わからないくせに」


「そういう顔もするのか」


 三人にいじられるのは不本意だ。自分を守ることで精いっぱい。保住のことなんか気にしている場合ではなくなったのだ。

 三人との攻防を繰り広げているうちに、時間はあっという間にに過ぎて、十一時を回ったところで渡辺がお開きの声を上げた。


「そろそろ帰らないと。怒られる」


「本当だ。明日は金曜日。まだ仕事あるし。係長、帰りましょうか……」


 谷口が声をかけると、彼は机に突っ伏して寝入ってしまっていた。


「なんだか静かだと思ったら」


「寝ちゃったのか~……」


 隣にいた渡辺は苦笑して、保住の頬をつつく。


「可愛い顔しちゃって」


「本当、本当」


 谷口や矢部も苦笑だ。昨日も澤井に付き合っていたようだし、疲れもたまっているに違いない。田口は気の毒そうに保住を見下ろした。


「係長は、若いのに係長で。なのに。みんなに愛されてますね」


 田口がそう呟くと、急に矢部は田口のほっぺを両手でつねった。


「イタタタ」


「やっとわかったか。このどんくさい奴め」


「やべしゃん……」


 つねられたままでは、うまく話せない。しかし矢部はニヤニヤしている。


「おれたちはな。この年下上司にぞっこんな訳」


 彼がそう言うと、渡辺と谷口も苦笑して頷いた。 


「こんな細い身体で、柔なタイプなのにさ。局長との間に立ってくれているし」


「結構、好き勝手させてくれて」


「おれたち、守られて仕事しているんだよね。こんなやりやすい部署ないくらいだ」


 ——確かに。

 

 それは自分もそう思う。しかし——。


「別に。年下だからバカにしたりなんかしない。お前はさ。最初バカにしていただろう?」


「まあ、当然の反応だがな」


「それに、だらしない上司だって好きじゃないだろう?」


 矢部はよく見ている。そして他の二人もだ。だが自分にも言い分はある。言われっぱなしでは癪に触った。

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