第12話 相談支援部にできること

「それでノコノコ帰ってきちゃったんだね」


「……おっしゃる通りです」


「……ですわー」


 白須美家を追い出された二人は、敗北感一杯で素直に報告した。


 その結果、矢砂家のリビングで正座させられる羽目になった。


 諦めたことを責められて、貞彦と安梨は何も言うことができなくなっていた。


「貞彦先輩もああああさんもあきらめちゃダメだよ。せっかくの手掛かりを掴んだんだからさ」


「素直の言うことはもっともだ。でもな、向こうからすれば、俺たちは全く知らない不審者ってことになるんだ」


「警察に突き出されないだけでも、温情に満ちた措置だと思うのですわ」


 貞彦と安梨は言い訳をした。


 というか、安梨が警察とか言い出したことに、貞彦は驚いていた。


 現代に馴染みすぎである。


 こんなに現代慣れしてしまって、物語の中に帰った時に、上手くやっていけるのだろうかと、貞彦は心配になった。


「言い訳は聞きたくないんだよ。澄香先輩に繋がるチャンスを逃すわけにはいかないよ」


 素直はそう言って、力強く胸を張った。


「しょうがないな。わたしが行って来るよ」


「スナスナ。大丈夫ですの?」


「大丈夫! 本気の想いは相手にもきっと届くはずだよ」


 素直は勇敢に言い放ち、どんっと胸を叩いた。


「貞彦先輩にああああさん。わたしの活躍をきちんと見ててよね!」


「素直!」


「スナスナさん!」


 貞彦と安梨は、素直のことを頼もしく思っていた。


 特に根拠はない自信。


 だからこそ、頼もしく思える。


 素直なら何かやってくれるかもしれない。


「待っててね澄香先輩! 今から会いに行くよ!」


 素直は意気揚々と駆け出した。











「あなたはいったいなんなんですか!? 他者の敷地に足を踏み入れることは犯罪に抵触しますよ!」


 素直は普通に捕まって、普通に怒られた。


 貞彦は思った。


 でしょうね。






「なまいきいっでごめんなざいざだびごぜんばい……」


 怒られた素直は、泣きながら貞彦に謝っていた。


 極めて常識的なことを言われて、普通に怒られたことが、相当心にキタらしい。


「誰だよその濁音に満ちた奴は……よしよし」


 貞彦は、ボロ泣きしている素直を慰めていた。


 話すら聞いてもらえず、素直はこっぴどく叱られた。


 柔軟な対応をしてくれてもいいのにとは思うが、向こうが正論なので何も言えない。


 あくまで部外者でしかない貞彦たちにとって、取り付く島もないという事実は当然と言える。


「スナスナが失敗した以上、次の手を考えないといけませんね」


 安梨は腕を組んで、考え込みだした。


「なあ安梨、掃除や修繕にかかる時間がどのくらいかはわかるか?」


「おそらく、今日と明日の二日間くらいだと思いますわ」


「そっか。あまり時間はないな……このタイミングを逃すと、次は約半年後か……」


 貞彦は歯噛みした。


 今回のチャンスを見送ったとして、次のチャンスが訪れるのかどうかもわからない。


 相手は、こちらのことを知る由もない赤の他人だ。


 となると、相手に自らの素性を打ち明けることで、話を聞いてもらえる可能性は上がるのではないかと思う。


 けれど、澄香の後輩だと真正面から説明をしたとしても、信じてもらえるかどうかはわからない。


 どれだけの事実を説明できたとしても、証明する方法は思いつかない。


 説得力のある話をしようにも、やはりすぐに思いつかない。


 貞彦の胸には、ひたすら焦る気持ちだけが募っていった。


「あの……わたしみたいなダメな子が言うのもとてもおこがましいんだけど……」


 怒られたショックなのか、素直はとても自虐的なことを言った。


 あまりにも見ていられないので、貞彦は素直に優しくすることにした。


「そんなことないぞ。素直はいい子だから、大丈夫だ。言ってみろよ」


「えっと……わたしたちだけで考えていてもいいアイデアが思い浮かばないことはあると思うんだ」


「まあ、そうだな。実際どうすればいいかわからんしな。じゃあ、素直はどうすればいいと思うんだ?」


 まるで子供に意見を聞くような口調で、貞彦は言った。


 少し安心したのか、素直は涙を拭いつつ、表情を和らげた。


「相談支援部は今まで、色んな人と話をしたり、とりあえず一緒に何かをやってみたりしてきたよね」


「ああ。確かにそうだな」


「一人じゃできないことも誰かとなら成し遂げられるんだよ」


「急に良いセリフっぽいことを言い出したな……それで、素直はどうしようと思うんだ?」


 貞彦が聞くと、素直は手をかざして、自由の女神のようなポーズを取った。


 聖火の如く、スマホを握りしめている。


「みんなの知恵を……借りればいいと思うんだよ!」

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