第16話 澄香爆笑(四カ月ぶり二回目)

 一つの結論が一致したタイミングで、素直が合流し、ミスコンが始まった。


 ミスターコンテスト同様、注目度は高く、観客がひしめき合っている。隣の人と肩が触れそうになり、貞彦は体をすくめた。


「いよいよ始まりましたミスコンテスト! 注目株は、なんといっても三年生の紅島まりあさんだ! 男子の部同様、三年連続の栄冠を勝ち取ることはできるのか!」


 司会者が声高に口上を述べる。


 空気全体が震えているように感じる。


 貞彦は、ワクワクと同時に緊張を覚えていた。


 依頼を達成しなければいけないと、プレッシャーも感じていた。


 そのためには、安梨がミスコンテストで勝たなければいけない。


 とはいえ、勝てたからと言って、安梨がお礼を言いたいという依頼を達成できるのかどうか、わからない。


 秋明の物語から現実に零れ落ちた存在。それが安梨だというのであれば、どうしても繋がらないことがある。


 安梨は、どうして弥吹竜胆を見覚えがあると言ったのだろうか。


 秋明について見覚えがあるという話であれば、整合性は合う。


 秋明の物語から安梨が生まれたのなら、安梨を見守り続けていた相手というのは、おそらく秋明になる。


 しかし、秋明に対する言及は、安梨からは一切ない。


 だからこそ、話の真相は見えてこなかった。


「貞彦先輩。なに難しい顔をしてるの?」


 素直に袖を引っ張られた。


 楽し気な雰囲気にも関わらず、しかめっ面をしていたことで、素直はご立腹のようだった。


「ちょっと考え事をしていてさ」


「真面目なのはいいことだけど今はああああさんを応援しようよ」


「……おっしゃるとおりですね」


 貞彦は恭しく同意した。


 考えても仕方がないことは、今は置いておくことにしよう。


 この瞬間は、安梨を応援しつつ、ミスコンの雰囲気を楽しむことに貞彦は決めた。


「それでは、見目麗しい美女たちの登場だ」


 力強く言い放たれ、司会者の紹介とともに、参加者たちが続々と壇上に登場した。


 一人一人が登場の際に、司会者が魅力について説明をしていく。


 カナミは手を振りながら登場した。まるでファンたちにアピールするアイドルのようだった。


 ネコも気持ち悪いくらいに笑顔を振りまいていた。金の力って恐ろしいと、貞彦は思っていた。


 安梨は踏ん反り返って登場したが、表情は硬い。柄にもなく緊張しているようだった。


 七番目にまりあが登場し、会場のボルテージは一気に沸き上がる。


 一つだけ空席が残る。


 この場において、誰もが疑問に抱いていた。


 なぜ一つだけ席が空いているのだろう、と。


「ふふっ」


 澄香から笑いが漏れる。


 我慢しきれずに、笑いがこみ上げてしまったようだった。


「一つだけ席が空いていることには、もちろん理由があります。なかなか参加に同意をしてもらえなかった方がいたのですが、頼み込んでやっと参加してくださいました。皆様、拍手をもってお迎えください!」


 空席の理由が、今になって明かされた。


 そして、澄香が言っていたおもしろいことという理由と、おそらく同じなのだろう。


 貞彦は、なんとなく嫌な予感めいたものを感じていた。


 壇上に、俯きがちの女性が昇る。


 優美に流れる髪に、わずかなクセが遊んでいる。


 優し気なまなざしに、恥ずかしさで染まる頬。


 顔を上げた時に、驚嘆のどよめきで満たされる。


「だれだ?」


「あんな美人、この学校にいたのか?」


 まだその正体は明かされていない。


 しかし貞彦は、その正体に薄々と気が付いていた。


 髪を下ろして、眼鏡を外しているとはいえ、その奥に潜む麗しさについて、貞彦は知っていた。


「生徒会長の、実根畑峰子さんです!」


 驚愕に、会場中がどっと沸いた。


「ええー!? 峰子先輩ってあんなに美人だったの!?」


 素直も素直に驚いていた。


 その一言を聞いて、澄香はついに爆発した。


「あははは、あははははは。ダメです、もう我慢できません」


 澄香は腹を抱えて笑い出した。


 その笑い声が聞こえたのか、峰子は恨めしそうに眉をひそめて、マイクを受け取った。


「……皆様、一つだけお願いがあります」


 普段の凛とした声もどこへやら。聞こえはするが、響きは弱々しい。


 峰子は、ますます顔を伏せながら言った。


「あまり……見ないでください」


 登場後の仮投票結果は、峰子がかっさらっていった。

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