第12話 男子高校生のバカ話 誰が一番可愛い?
バーベキューを楽しみ、『りあみゅー』メンバーによる演奏が披露される。本番は二週間後になるため、簡単なお披露目だけだった。
息の合ったサウンドに心は昂っていく。走るギターと低く唸るベース音に興奮は増していく。情熱的なドラムに鼓動はかき乱れる。決して遊びでやっているのではないことが、貞彦にも理解できた。
隣にいる紫兎を横目で眺める。
表情に色はなくて、何を考えているのかわからない。
なんでもない出来事に、普通のようにはしゃぐ紫兎は、またしても隠れてしまった。
竜也は柄にもなくはしゃいでいた。本当に音楽を楽しんでいるのだと思い、貞彦は少し優しい気持ちになる。
全員が押し寄せても余裕のあるリビングで、映画を堪能した。アクションシーンに興奮した、素直による流れ弾が貞彦に押し寄せた。
順番に風呂に入って、男子組と女子組に分かれて部屋で寝ることになった。
男子たちは少し仲良くなり、お互いを名前で呼び合うようになった。
貞彦は布団に入って眠りにつこうとした。
けれど、高校生男子が五人も揃った夜が、すんなりと終わるはずはなかった。
「なあ貞彦。なに普通に寝ようとしてるんだよ。夜はまだまだこれからだろ」
或に起こされて、貞彦はしぶしぶ布団から這い出た。
或は猛々しい笑顔を見せる。真っ赤なタンクトップが嫌になるほど似合っている。
「まだまだって、何をする気なんだ?」
「そりゃ決まってんだろ。男だけしかできない、秘密の話でもしようぜ」
「面白そうだね。ここで集まったのも何かの縁だし、更に親睦を深めるのもいいかもしれない」
満も同調した。
まだ仲が深まってはいないが、一緒にバーベキューをしたことで、男子たちの仲は少しだけ距離が縮まっていた。
「そういうのも、たまにはいいすね」
「俺も賛成だ。最近はネコがべったりだから、男友達と遊びたい時もあったんだ」
光樹は本気でそう言っているようだが、彼に対する周囲の視線は冷たいものだった。
「はっ。彼女持ちはこれだから」
「教室ではみんな、光樹くんとネコさんがいちゃつくせいで、死屍累々と化しているのだから。少しは自制するべきだと思うよ」
或と満に責められて、光樹は肩身が狭そうだった。
「まあいいや。そんじゃさっそく、あのテーマで話し合うか」
「あのテーマって、一体なんなんだ?」
仕切りだした或に、貞彦は聞いた。
或はニヤリと笑う。
「俺たちは血気盛んな男子高校生なんだぞ。今日来ていた子の中で、誰が一番可愛いかに決まってんだろ」
「やっぱり、そういう話になるんすね」
竜也が言った。
竜也はあまりこの手の話題には乗らないような気がしていたが、嬉々とした表情は隠せていない。無気力気味な竜也も、やっぱり高校生なんだなと貞彦は思った。
「まずは誰から言うんだい?」
「それな。じゃあまずは光樹からな」
「俺!?」
最初に指名されたのは光樹だった。
なぜかあからさまに困っている。
「俺に聞いたところで、実質選択肢はないじゃん」
「まあ、普通に考えれば、彼女であるネコちゃんって言うしかないよね。けれどさ」
満は光樹と肩を組んだ。
「ここには男だけしかいないんだ。何を言ったとしても、ここだけの話にしておくからさ、本音を言っちゃいなよ」
満に促されて、光樹は悩むように押し黙った。
そして、恐る恐るといった様子で口を開く。
「……そりゃ、一番可愛いって思うのも、好きだって思うのもネコだよ。一応昔からの仲だし」
「じゃあ、二番目は誰なんだ?」
貞彦も好奇心に負けて尋ねる。自分も案外俗っぽいと思った。
「…………来夢先輩。俺けっこう好みかもしんない」
「おー」
男子一同から歓声が上がる。
貞彦は意外だと感じていた。
「へー。光樹は来夢先輩みたいなのがいいんだな。どんなところが?」
「自信満々に語る姿は凛々しいのに、人前だと人見知り全開でビクビクしているところにギャップがあるっていうか。いいな」
「なんとなくわかる」
貞彦は同意した。
「他には、カナミちゃんや素直ちゃんも結構好きだな。ストレートに可愛い」
「光樹くんってもしかして、ロリコンなのかい?」
「ロリコン!?」
光樹はショックを受けたのか固まる。
貞彦は、光樹が好みだと言った女子たちを思い浮かべた。確かに、全員に共通しているところがある。
「全員、童顔であそこは控えめっすね」
「光樹、お前って奴は」
全員が、光樹のことをゴミを見るような目で見つめた。
「ちがっ、違うんだ!」
「その中だと一番ネコちゃんが大人っぽい見た目だけど、仕草とかは子供っぽいしな」
「違うんだああああああ」
光樹は弁解の叫びを上げて、枕をかぶって落ち込んでいた。
「じゃあ次は竜也くん。君はどうなんだい?」
「俺ですか?」
竜也は悩みだした。
優しく包容力のあるまりあに心を許していた竜也。
貞彦は、竜也がなんと答えるか興味を抱いた。
「俺は、紫兎先輩はいいなって思います」
「マジか」
貞彦は驚いた。
確かに紫兎の奴も整った容姿をしていると思うが、性格は相当厄介な奴だぞと、言ってやりたくなった。
「いや、あくまで音楽が趣味だからこそ、すげえって思ってるだけなんすけどね。だからノエル先輩のことも、綺麗だなって思うし、尊敬もしてます」
「というかお前って、確か愛のバクダン大量バラマキ事件の時、まりあ先輩と抱き合ってたよな」
或に指摘されて、竜也は一気に沸騰した。
「その件は忘れてください!」
「僕も見てたよ。まりあ先輩とは、正直どうなんだい? 付き合っているんだよね?」
満にも迫られて、竜也はますます縮こまる。
「いや、実は、付き合ってるわけじゃないんすよ」
「そうなのか!?」
一番驚いたのは貞彦だった。
公衆の面前でいちゃついておきながら、実は交際はしていない。
貞彦はてっきり、二人は付き合っているものだと思っていた。
「まりあ先輩を落とした一年生って、君のことだって思ってたんだけど。意外だ」
「まりあ先輩にとって、愛しているって言葉は普通すぎるんすよ。俺は決死の覚悟でああ言ったのに、あくまで可愛い後輩としか思われていないんすよ」
貞彦は納得した。
まりあは事あるごとに愛だ愛だとのたまう。
彼女にとっての愛しているという言葉は、きっと個人に対する特別なものではないのかもしれない。
「ぶっちゃけ、竜也はまりあ先輩のことをどう思ってるんだ?」
貞彦が聞くと、竜也は恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「……そりゃもちろん、好きっすよ」
竜也は言うと、もう話はしたくないとばかりに、枕に顔をうずめた。
竜也の苦難はまだまだ続きそうに思い、貞彦は心の中でがんばれとエールを送った。
「さてと、次は誰に話してもらおうかな」
或は好奇心交じりの笑顔を見せる。
この話はまだまだ長くなると、貞彦は感じていた。
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