第247話 終焉④
次々と輸送機が着陸し、亜人や魔物が雪崩れ込むように進撃する。
最早一国の軍隊と呼んでも過言ではないほどの戦力、総力。山ほどの銃火器を構えて突進し、中には爆弾を抱えている者までいる。輪からの攻撃地上に撃てないようになっているのか、レーザーは放たれて来ない。
ただし、それは連合軍に限った話ではない。こちらの気配を察した怪物達が、黒い濁流のように押し寄せてきた。
「五番隊、前へ! 各隊員は巨人の後ろに付き、援護しつつ前進!」
マシンガンを携え、最前線で指揮を執るベルフィの命令に従い、爆弾を手にした巨人が前に出る。爆弾を投げると、爆風と共に怪物が吹き飛ぶが、全体で見ればごくわずかな数だ。巨人が敵を蹴飛ばし、薙ぎ払っていなければ、被害は更に増加していただろう。
「『明星』ゾンビ部隊、全軍出動するのじゃ! 手足がもげようとも、何としてでもハーミスを守れい!」
向こうは死を恐れない軍隊。ならば、こちらも死を恐れない存在が必要だ。巨人の後ろから、ゾンビ達が集中砲火を浴びせる。首がもぎ取られる瞬間まで、彼らは戦う。
決死のゾンビ軍団。器工に長けた亜人達。圧倒的な野生で敵を食い千切る魔物。少しずつ、少しずつではあるがそれらが噛み合い、一同は前に進んでゆく。
尤も、ハーミス達も中央で仲間達に囲まれてばかりではない。
「守られてばかりじゃねえぜ、俺も! 『砲撃形態』、『拡散』!」
ハーミスが空に向かって、義手から赤い光を放つと、それらは枝分かれして従僕達に降り注いだ。一度に二十から三十の敵を焼き払う攻撃で、一層仲間の勢いは増す。
エルが魔法で瓦礫を投げ飛ばし、クレアがグレネードランチャーを放つ。ルビーも炎で敵を塵へと変えながら、仲間達の直ぐ真上を飛ぶワイバーンに指示を下した。
「ワイバーンの皆、空からルビー達を援護して!」
「グルォ……ギガァッ!?」
ところが、ワイバーンが命令通り燎原の火を放とうとするよりも先に、一匹がどこからともなく撃ち込まれた黒い球が、顔にめり込んだ。弾丸の如き勢いで飛来した球は、体を貫通し、ワイバーンはいとも簡単に絶命した。
何が起きたのか、と仲間達は僅かに戸惑う。そのほんの数秒程度の隙をつくかのように、またもやワイバーンが墜落する。
「ど、どうしたの!?」
ルビーですら状況を把握できていない中、最も早く異変を察知したのはエルだった。
「ハーミス、あれを! 化物達が……!」
彼女が指差した先は、従僕達の群れの、少し後ろ。そこにもまた、彼らはいた。
ただ、姿かたちはこれまでとまるで違っていた。人型でのっぺりとはしておらず、どちらかといえば鷲や鷹、もっと言えばワイバーンに近い。巨大な口の奥からは、飛竜を貫いた黒色の球がこみ上げてきている。
口から球が発射され、今度は命中したゾンビが爆散したのを見て、ハーミスは唖然とする。威力も理由の一つだが、もっと驚いたのは、空を飛ぶ従僕の後ろの、巨大な影。
人型のそれは、巨人ほど大きい。というより、ほぼ巨人である。のっそりとしか動かないが、ちょっとやそっとの銃撃ではまるで動じない。こちらの亜人や魔物の姿を真似したかのような敵を目の当たりにして、新劇の速度が少し弱まる。
「……あれは、ワイバーンを……模した、のか……!?」
「それだけではありません、巨人のような怪物まで……さっきまで、あんな敵はどこにもいなかったはずなのに……!」
おまけに、巨人が口を開くと、従僕達が漏れ出てくる。飲み過ぎたお酒を吐き出すかのように生み出された怪物は、生まれたてであろうと構わず跳びかかってくる。
「しかもあの巨人、口から化物を吐き出して……気持ち悪っ……!」
「……ローラの言う通り、増殖して、進化したんだ……!」
あれが、ローラの言う進化。
「ぎゃああああ!」「喰われる、喰われるうぅ!」
悍ましい進化の最終系は、群れを成して亜人を喰い散らかす。
「なんだよ、あの化け物!」「どうすりゃいいんだ、あんなの!」
武器の有難みが急に弱まり、及び腰、逃げ腰にまでなってしまう。
数が増える。大きさのメリットも失われ、恐怖も知らずに突っ込んでくる。こんな敵と、どうやって戦えと言うのか。
「――ええい、怯むな、怯むな! 『ゼウス』、先陣を切ってカチコミじゃあーッ!」
果たしてその答えは、奇しくも敵と同じだった。
つまり、恐れを知らず、突撃するしかないのだ。練られる策はすべて練り、集められる武器は完全に集めたのだから、残るは目的を達するべく、リヴィオと後に続いたギャングのように敵に挑みかかるだけだ。
恐怖に縛られない声に、周りが鼓舞される。ニコも同じだが、彼の場合は、目的をすっかり忘れてしまったリヴィオを制する役割が残っている。
「不用意に突っ込むのが目的じゃないぞ、全く! 仕方ない、僕がリヴィオを援護しながら塔までの道を切り開く! 残りの組員はハーミスを援護しろ!」
こうなれば、『明星』も己が身を犠牲にしてでも、ことを為そうとする。
「『ゼウス』に倣ってください! 『明星』は総力を挙げ、ハーミス様を死守!」
「「六番隊、了解です!」」
ベルフィの最終指令を聞いたモルディ達が、魔物に乗って敵に突っ込む。巨人達も怪我を負いながら、我が身を挺して全員の壁となる。
「わらわも防御壁に加わるぞ、オットーよ!」
「どこまでもお供します、お嬢様!」
アルミリアとオットー、そして死の闇を一度味わったゾンビ軍団は、前者よりもずっと前に躍り出た。首が千切れる今わの際まで動き続ける軍勢は、従僕の予想を超えて暴れ続け、血路を切り開く。
「そうだ、絶対にハーミスを守るんだ! 塔までそう遠くない、必ず辿り着かせるぞ、俺達の命を賭けてでも……ぐぎゃあああぁ!」
ゾンビ兵の一人の頭がもげたのを見て、クレア達も今一度覚悟を決める。
屍を乗り越えて、先へ進む。誰であろうと、何であろうと、増えた敵がとてつもない脅威であろうと、ハーミスが世界を救うのだと信じて往くのだ。
「行くわよ、ハーミス! どんな目に遭ったって、こいつらが何の為に死んだか分からないくらい、間抜けじゃないでしょ!?」
檄を飛ばされ、ハーミスも頷く。
「……分かってるっての! 絶対にローラを倒す、その為に俺はいるんだ!」
言うが早いか、彼は右腕の義手に魔力の刃を纏わせ、近くの従僕を切り刻んだ。
次いで、だっと駆け出して手当たり次第に敵を斬ってゆく。疲れ知らずの男だけを進軍させてなるものかと、クレア達も汗を拭い、前線へと加わる。
「よーし、あたし達も全力で援護するわよ! ルビー、エル、ついて来なさい!」
「うん!」「当然です!」
弾切れとなった銃火器を捨て、アサルトライフルを構えて乱射するクレアの姿を見た仲間達は、今こそとばかりに叫んだ。
「「突撃いいぃぃ――ッ!」」
敵は恐怖しない。だが、味方も同じだ。
こちらは死ぬが、死を乗り越えたのであれば、立場も同じ。ならば、後はただ無感情で全てを破壊するか、決意して全てを守るか。戦線は拮抗から、僅かながら再びハーミス達の方に傾きつつある。
面で押せずとも、ハーミスを囲むようにして、楔を打ち込むように連合軍が前に進む。犠牲は増え続け、皆を守り続けた巨人も血塗れ。
しかし、とうとう聖女の塔は目と鼻の先までに近づいてきた。
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