第38話 発覚
間違いない。クレアとルビーは、駐屯所からいなくなっていた。
大方、話の一分だけを聞いて、ルビーが移動してしまったのだろう。マントが脱げないようにクレアもついて行って、そうしてハーミス達から離れていったのだ。
(屋敷にいるってだけ聞いて、とっとと行っちまったのかよ! 場所も聞いてないのに、勝手な行動しやがって……!)
呆れた顔を隠し切れない彼に、隣に並んだシャスティが聞いた。
「どうした、ハーミス?」
「二人がもう、屋敷を探しに行ったみたいだ。まだ場所も分からないのに……」
「おい、何をぶつぶつと話してるんだ?」
隊員に疑いの視線を向けられ、ハーミスは慌てて手を振り、誤魔化した。
「あ、いや、何でもない。それより、さっきの奴らがエルフを狙っているなら、ベルフィってお姫様も危ないんじゃねえのか? 奪い返されるかもしれないぜ?」
「その心配ならないだろう、あの姫はバント様のお気に入りだ。三階の部屋でいつも可愛がられているんだ、こっそり忍び込みでもすればたちまち捕らえられるだろうな」
隊員の話を聞きながら、ハーミスは玄関ホールの真ん中から上の階に向かって伸びる、鉄製の螺旋階段を見上げた。それは二階を飛び越え、三階まで直結していて、その先には大きな扉がある。あれがきっと、幹部の部屋だろう。
「三階……あの螺旋階段の先、一番上の階だな」
「バント様なら今は部屋にはいないぞ。さっき、逆賊が暴れたと聞いて外に出て行った。忠言するならすればいいが、相手はあの『選ばれし者』だ。発言には気を付けろよ」
「分かってる。ありがとな、行ってくるよ」
軽く手を振って、二人は隊員と別れた。そうして、螺旋階段のほうに歩いて行って、ぎしぎしと音の鳴る階段を上り始めた。ハーミスはしきりに、
この先に、仇敵と守護するべき相手がいる。
そう思うと、自然にシャスティの腕に力が篭る。ハーミスは落ち着いている方だが、バントの顔を思い浮かべると、どうしても内臓を引きずり出し、顔面の皮を薄く削ぎ取ってやりたい衝動にかられた。
「この階段の先に、ベルフィ姫が……必ず、必ず助け出してみせる……!」
だが、だからこそ使命を全うするべく、自分だけは冷静になるべきだとも思った。
「シャスティ、部屋の扉をこじ開けたら、ベルフィを助け出して先に逃げろ。俺はバントを外で見つけて、きっちり殺してから戻る」
さっきの話の通りなら、バントはここにはいない。ならば先にシャスティをロアンナの街から脱出させ、自分達は目的を果たし、後で街を出るのがベターだ。
今後の予定を定めているうち、遂に三階の巨大な扉の前に辿り着いた。
「無事を祈る、ハーミス。私達も必ずエルフの同胞を見つけて――」
シャスティが彼の成功を願い、二人で一気に扉を蹴破ろうと、足に力を込めた時。
「――動くな、逆賊め。両手を上げて、こちらを向け」
がちゃり、と。
二人の背後から、剣が突き付けられた。ちっとも油断をしているつもりはなかったのだが、作戦を果たす高揚感で、知らない内に注意が散漫になっていたのだろうか。
言われた通り、ハーミスとシャスティは両手を上げた。剣を突き付けた人数、即ち二人だけが相手ならば殺してでも扉を破ったが、彼らは相手が二人でないと知っていた。
振り向いた二人の前には、すぐ背後に二人と、階段から十人、二十人の援軍がやってきていた。『通販』を使えばやれなくはない人数だがシャスティを守りながら、となると、そうはいかない。しかも、ここは敵の拠点で、どう考えても不利だ。
「……何のことだかさっぱりだな。仲間に向かって、いきなり逆賊なんて……」
ハーミスは出来る限りしらばっくれたが、それが通用すれば世話はない。
「ついさっき、外で隊服を剥がれた隊員の死体が見つかった。加えて玄関ホールで、妙な奴らを見たと告発があってな」
「酷い言われようだな。俺は仲間に敵の狙いを教えに来ただけだぜ」
「いいや、私はお前達のような奴に見覚えはない。特にこんな、耳の長い奴はっ!」
隊員の一人が乱暴にシャスティの髪を払うと、長い耳が露呈した。
「……っ!」
人間に触れられた嫌悪感で、彼女は露骨に嫌な顔をした。隊員達もまた、人間だけの聖域に亜人が入ってくるのを嫌っているようだった。
「やはりか。情報ではエルフが仲間の一人にいると聞いていたが、これで間違いないな。そっちの人間は聖女様が賊と見做した人間だろう。よもやバント様の部屋に忍び込もうとは、愚か者め」
「別にいいじゃねえか、中にはいないんだろ? ちょっと入り込むだけだぜ」
「本当にいないと思うか?」
「……それは、どういう……」
そう言ったのは、ハーミスと話していた隊員だ。剣を持つ男の後ろでにやりと笑っている彼の言葉で、ハーミスは全てを悟った。どこからが真実で、どこからが虚偽か。
「……成程、最初からばれてたってわけか。俺達の正体が」
「さあ、入れ。バント様がお待ちだ」
剣の冷たさを首筋に感じながら、二人は開けられた扉の内側に突き飛ばされた。
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