荒野で呼ばわる者の声

PHILO(フィロ)

第1話 病人

悲しみと苦しみに満ちた人生。それが多くの人たちの人生である。どうして人は生まれてきたと言うのであろうか。

人はこう答えるに違いない。「気づいたら私は生きていた、だから生き続けた。」と。大昔の話なら、と思う。けれども、今現代の話をしているのだ。

一人の精神的な病を持ったものがいた。もちろん病院に通い続けている。薬漬けになって、病自体よりも彼の肉体と精神にダメージを与えていた。

一人の若者が彼に近づき、この精神を病んだ男を見て、言った。

「誰でも問題があるものだ。問題のない人間なんているものじゃない。この問題を正しく理解しないといけない。問題でないことを問題にしたり、関係のないことに関わっていても何一つよくならない。」

すると誰かがそれに答えていった。「じゃあ、彼の問題はなんだと言うんだね。」「彼の問題・・・」そういって青年は天を仰いだ。「医者は病気の原因を考える。そして、その原因を取り除く。そうすれば病は治るのだ。」



多くのものが不幸のどん底にいる。けれどもそのことを人は知らない。現代で最も求められているのは、福音を告げ知らせるものなのだ。なぜなら、福音を告げるものがいなくなって久しいのだから。

「病に苦しむものの問題は、病を悲しむことにあるのではないか。」青年はいった。「そのままを受け入れることが、問題の解決になるのではないか。じゃあなぜ受け入れないのか。それはその人が真理を見ていないからだ。真理はこう言っている。お前の問題は病でも、欠けているものでもない。私を見ていないことだ。私を見ないので、私のことを知らない。そして自分の欠けているものだけを追い求めている。それがあなたの本当の問題であり、あなたの病なのだ。と」


人は幸福にならないといけない。そのために生まれてきたのであり、そしてそのために人は今存在している。幸福とは何か。幸福とはなぜ自分が生まれ、そしてここにこうして存在しているかを知っていることだ。福音とは幸福になるための道を知らせる良き知らせのことだ。

「真理とはなんだね」と一人の老人が嘲りながら聞いた。

「真理とは何かと聞くのか、ご老人。私より長く生きたあなたの方がよく知っているはずではないか。太陽はついさっき登ってきた、しかし今はもう沈んでいこうとしている。人生は早い、あなた方が生きている日数は数えることができるほどに少ない。それで多くの人は有意義な人生を過ごそうとする。しかし、大切なのは、その短い人生の内に真理を見つけることなのだ。」

彼の話を聞いていた人たちは、首を振ってそこを立ち去った。

「生きている内に真理を見つけることができるかどうか。」青年は一人呟いた。「真理はすべての人の前にある。でもそれを見つけることはほとんどの人がしない。やがてそうこうしている内に人生の太陽は沈み切ってしまう。」

青年は自分の住んでいる家へ帰っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る