神の存在

「ユッキー、円城寺家と新田家の追加調査報告書だよ」

「ありがとう」


 ユッキーは読みながら、


「倉麿って子どもが多そうな感じがあったけど三十三人って」

「化物みたいや。最後の子どもなんて、七十七歳の時に生れてるもんね」


 こんな化け物みたいな男を相手にすると楽しいかな。もっとも子どもを作る能力とアレが上手なんは必ずしも比例せえへんし。これだけ子どもを作れるってことは、ムチャクチャ早漏の可能性だってあるやんか。


「もっと凄いというか、すっごく不自然なのは息子は三人だけで、娘が三十人なのよ」

「そりゃ、いくらなんでもやろ」


 そりゃ、いくぶん偏るのはよくある話やけど、それも十人ぐらいまでの話。三十三人もおって、この偏りはひど過ぎる。


「うわぁ、北田家もすごいことになってる」

「そうやねん、源兵衛の孫息子が五人いて、その嫁が全部倉麿の娘。そいでもって生まれた十七人全員が娘ってありえへんやろ」


 これが北田家の運命を決めることになるんよね。まず倉麿の三男の四歳の久麿が北田家の養子になるんやけど、北田家と円城寺家にスペイン風邪の猛威が吹き荒れるんや。倉麿の長男と次男、さらには源兵衛の孫息子まで死んでまうんよ。


「それにしても、よう死んでるけど。日本じゃそこまで死亡率高くなかったんじゃなかったっけ」

「スペイン風邪の死亡率が高かった原因は諸説あるけど、北田家も円城寺家もおカネがあったからじゃない」


 とにかく高熱が出るから、アスピリンをバンスカ使うのがポピュラーな治療法やったらしい。ただ使いすぎると肺水腫とか起こすらしい。これだけが死亡率の高い理由じゃあらへんけど、これも死亡率を押し上げる原因の一つになってるとされてるんやて。


 ところがアスピリンはドイツの特許やってん。日本は輸入しとってんけど、第一次大戦で特許無効になって国産化してるんよね。ただやけどスペイン風邪の時にはまだまだ生産量が少なかってんよ。つまりは高かったってこと。そのうえ自費診療時代やから、アスピリンをバンバン使える患者は限られとってん。


「でも子どもは死んでへんな」

「子どもには使わないのが当時のスタンダードだったの」


 結果として跡取り息子が久麿だけになった北田家と円城寺家は協議の結果、久麿を円城寺家に戻すことになったんよね。


「この辺はどうしたかはわからんけど、北田本社の社長に倉麿がなり、やがて北田家の財産ごと円城寺家に吸収されてるわ」

「タネはこれじゃない。ほら倉麿の娘の嫁ぎ先。バリバリの政略結婚じゃない」


 倉麿が剛腕なのはよくわかる。さて話は戻るけど、なんであないに娘ばっかり出来てんやろか。


「息子は殺してもてんやろか」

「時代的には男尊女卑よ。家の跡取りは重要だったじゃない。それに息子を殺してたら、倉麿の子は六十人超えることになっちゃうよ」


 それもそうだ。


「こっちも不自然過ぎる気がしない。倉麿の娘で子どもを産んだのが十四人、源兵衛のひ孫娘で子どもを産んだのが八人よ」


 半分しか子どもを産めてないんよね。これもいくらなんでもやもんな。


「思うんやけど、倉麿は息子が不要だった訳じゃなく、娘が必要だったと見れへんやろか」

「そりゃ、あれだけ政略結婚に使ってるから、いくらいても良かったかもしれないけど」

「だったら息子を娘に変えてたんとか」

「無理よ。性転換手術はあくまでも成人対象だし、手術跡も残る。それに男らしく、女らしくあるためにホルモン注射も欠かせないよ。まだ戦前の話だよ」


 そらそうやねんけど、


「でもユッキー、こうは見れへんか。円城寺の三十人の娘のうち十四人が本物の娘。北田の十七人の娘のうち八人が本物の娘やったと」

「統計的には合理的な解釈だけど、技術的には不可能よ」


 そう人ならばね。


「神なら出来るかも」


 ユッキーが考え込んでもた。


「コトリはやったことある?」

「ないよ。男を経験したかったら、前にカズ君にユッキーが宿ったみたいにすればエエやんか」

「容姿の変化の応用だから、外見はそれほど難しくないと思う。性器は難度が高くなるけど不可能じゃない。でも中身までとなると超難度よ」

「だから子どもが出来なかったんちゃうか」


 ユッキーはまたもや考え込んで、


「それと人の性転換手術と同じで、成人相手ならそれ以上の変化がないからイイけど、生れたての赤っちゃんからとなると、成人するまで常に手を加えていかないといけないよ」

「倉麿なら出来る位置にいるし、手を加えると言っても一年か半年に一回ぐらいでエエんちゃうやろか」


 二人で黙り込んでしもた。それからユッキーが、


「トンデモないものを掘りだした気がするわ。これは女神の仕事だね」

「その神やけど、おったとしても一代おきの気がするねん。久麿の次の敏雄の子どもも気になるんよ」

「息子が一人で娘七人だものね」

「そのうえ、子どもを産めたのが三人」


 なにかが起ってるし、神が関わっていそうなことだけはわかる。でも、これをどうするかが問題。もっとも神相手なら相手も不死だから、滋麿さんや綾麿さんの無念を晴らせるかもしれん。


「今の栄一郎は子どもが二人、兄が洋一で、妹がまどか」

「新田の方も存在確実の和明」

「そっか、そっちも関わってる可能性もあるのか。執事の新田が実在の時は円城寺の子どもはノーマルな構成で、不在の時は娘に極端に偏ってるとか」


 さてどうするか。

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