不思議の国のマドカ

シオリからの依頼

　さてサトルと結婚してから初めて女神の集まる日への出席だ。そう言えばコトリちゃんも復帰してるから楽しみだ。リビングに入ると、

「シオリ、おめでとう」

「だいぶサトルを待たしたやんか」

　でもサトルは待っていてくれた。わたしもどうしたってカズ君へのこだわりがあったが、ここまで待ってくれたからサトルのプロポーズは素直に受け入れることが出来たのだ。

「取ってたんでしょ」

「まあな。やっぱり男は初めての方が嬉しいだろう」

「で、どうだった」

「正直、新鮮味はイマイチで、久しぶりって感じだった」

「それはしょうがないよ」

「だがな、ユッキーの言ったとおり、最初から全開って感じになっちゃってさ、あれはあれで恥しかったよ」

　結婚式の夜に麻吹つばさとして本物の初夜をやったのだ。この日は式、披露宴、二次会と長丁場だったから、サトルは気を使ってくれて、ハネ・ムーンに行ってからにしようかっていってくれていた。

　だが、サトルをみたら限界だったし、わたしも初夜をちゃんとしたかったから、しっかり結ばれた。最初にサトルが入る時にはさすがに緊張したし、少し痛かった。サトルは何度も、

『痛くない、だいじょうぶ』

　こうやって声をかけてくれた。でも、サトルも耐えきれなかったんだと思うよ。途中からグイッって感じで入って来たのだ。その瞬間に吹っ飛んだよ。全部甦ってしまった感じ。後は夢中だった。

「初夜は一回だけ？」

「さすがに疲れてたし、ははは、わたしも飛んじゃって、気づいたら朝だった」

「その後は？」

「ホントに凄いぞ。結ばれれば結ばれるほど、どんどん良くなってしまい、もうサトルに夢中だよ」

　仕事が終わって家に帰るのが待ち遠しくてしかたなくなった。休みの日なんて素っ裸でひたすら求めあってたぞ。だがな、その時にハッと気づいたのだ。こんな状態になったことが前にもあったのだ。

　あの時は生理の時以外は朝から夜までひたすら求めまくって、カズ君がほとんど死んでいた。いや殺されそうになったと言ってたからな。だから、今はそれなりにセーブしてる。焦らなくたってサトルとはずっといるのだから、休みの日も作るようにしている。

　アレは最高だが、アレ以外の時間もしっかり楽しまないと意味ないではないか。デートして、外食して、一緒にお買い物して、やりたいことはアレ以外にもたくさんあるのだよ。今度は子どもだって欲しい。

「やはり子どもは元の麻吹つばさ似になるのか」

「そりゃ、そうよ。神は体を借りてるだけだもの。加納志織じゃないからね」

「そこだけは残念だな」

「なに、言ってるの。だからアカネさんで練習したんでしょ」

「バレてたか」

　アカネを綺麗にしたかったのはホントだ。美醜が女のすべてじゃないが、やはり美しい方がなにかと便利だろう。あれほどのライバルに育ってくれたアカネへの心からの御礼のつもりだ。ついでに自分の子ども用の練習台になってもらったぐらいかな。

「ユッキー、アカネの感度を上げるのは出来ないのか」

「どうして」

「そりゃ、アカネにもこの世界を味あわせてあげたいじゃないか」

「シオリはアカネさんをホントに可愛がってるんだね。でも、それはちょっと難しいわ。やったことないし、自信も無いの。でもね、心配しなくとも、その時になればアカネさんも感じるよ。シオリみたいにいきなり全開は無理としても、愛する男の腕の中でしっかり花開いていくよ」

　そうかもな。その方が男も嬉しいだろう。サトルはある程度理解してくれていたから、わたしがああなっても、そんなには驚かなかったと思う。でもアカネを最初に抱く男が、いきなり全開になったアカネを見たら幻滅するかもしれないな。

　それはとりあえず置いといて、今日はユッキーにお願いがあるのだ。こんなことを頼めるのはユッキーしかいないし、出来るのもユッキーしかいないだろう。

「ユッキー、頼みがあるのだが」

「な～に」

「ちょっと調べ物をして欲しいのだ」

　気になるのはマドカのことだ。写真のことじゃない。マドカの才能は本物だし、アカネが与えるに違いない課題をクリアして、必ずプロになってくれると信じている。わたしが気になってるのはマドカの目。

「･･･そのマドカさんの目が、女を見る目に見えないってこと」

「そうだ、わたしやアカネを見る目が、恋する瞳にしか見えないのだ」

「さすがはフォトグラファーね」

「これでメシ食ってるからな」

　あれはレズの目で良いのだろうか。とにかくこの仕事は長いから、レズ女性の写真の仕事もしたことがあるのだ。マドカの目はそれに近い感じがしてならないのだ。

「別にレズでもかまわないんだが、アカネが襲われたら可哀想じゃないか」

「ちょっとぐらいはイイ体験よ」

　あちゃ、ユッキーもコトリちゃんもレズ経験あるのだった。アラッタの女官時代にかなりやられたって話だからな。

「でもシオリ、レズと言っても色々あるよ」

　さすがユッキーは元医者。そりゃ、木村由紀恵時代は凄腕の救命救急医だったからな、

「レズもホモも同性を愛するけど、だからと言って性まで変わりたいとは思わないのよ。レズならあくまでも女性として女性を愛するぐらいかな」

「なるほど。じゃあ、ホモで女装するのは」

「あれも男なのに女として男に愛されたい表現かな。ネコの一つの行き着くところかもしれない。それでも女装してもあくまでも男として愛されたいのが基本だよ。レズが男装しても同じ」

　なるほどな。

「じゃあ性転換手術までやったのは？」

「そこまでいくと、病的になってくるかな。ここも微妙だけど二つに分かれるぐらいで見てイイと思う。一つは男ならネコの極致。ネコは受け身だけど、男として受けるのじゃなく、気持ちは女として受けるぐらいの感じの説明でイイかな。これが高じて、体も女に作り替えてしまったぐらい」

「かなり複雑だな。もう一つは？」

「こっちは完全に病気になる。たとえば体は女なのに心は完全に男と言うケースがあるのよ。もちろん逆もある。心と体がまったく一致しないから、自分の身体に苦しみ抜くって感じだよ」

「それって性同一障害のことか」

「それぐらいの理解で良いわ」

　さすがはプロ。かなりの猥談になりそうな話題を整然と分類して説明してくれた。

「話を聞く限り、マドカさんはお嬢様みたいだから、可能性としてはレズかもね。まあ、女に少しぐらいレズっ気があるのは、それなりにいるからね。わたしも少しならあるし」

「コトリはゼロやからな。いやあんなものマイナスやで」

　これも前に聞いたことがあるが、ユッキーは上位女官として先輩女官に初物として愛されたみたいだが、コトリちゃんの場合は上位女官のオモチャとして、どこまでも女が感じることが出来るかを余興でやられたそうだ。この辺が二人のレズっ気の残り方の差だろう。もっとも五千年前の話だがな。

「イイよ、調べといてあげる。でもね、最近調査部がイマイチだからね」

「そうやねんよ。近いうちにコトリが締め上げる予定」

　おお怖い。コトリちゃんも本気で仕事となると、ニコニコ微笑みながら、相当どころじゃなぐらいキツイらしいからな。ご愁傷さまとしておこう。