マドカさんの写真
プロの壁か。サキ先輩が挫折した時も、写真の腕だけだったら、まだまだサキ先輩の方が上だったもんな。でもアカネはプロになれた。その差ってなんだろう。今日もマドカさんの写真を見てるんだけど、
「どうですかアカネ先生」
う~ん、やっぱり良く撮れてる。それとツバサ先生が弟子入りを認めたのがよくわかる。だってさ、アカネが指摘したら次は完璧に対応してるんだもの。そういえばアカネの時なんて、
『だから、そうじゃない』
『でも、そんなの言われたってわかんない』
『口答えするな!』
『じゃあ』
『顔でも答えるな!!』
『じゃあ』
『ポーズでも答えるな!!!』
これの延々たる繰り返しだった。今ならツバサ先生の指摘はわかるけど、あの頃はそもそも何言ってるのか、さっぱりわかんなかった。よくまあ、あれだけ付き合ってくれたもんだ。でもさぁ、でもさぁ、ツバサ先生がマドカさんの写真じゃ商売物にならないのもわかるんだよな。
マドカさんは指導が入れば入るほど欠点が削ぎ落されて、どんどん磨きあがっていくんだけど、その先にあるのはなんだろう。それは欠点のない写真。でもでも、欠点のない写真というか、完璧な写真なんてないはずだ。
なんかイヤなことを思い出した。カツオ先輩の写真がそうなっちゃったのかも。カツオ先輩の写真もマドカさんと似てるところがある。サトル先生も丁寧に指導したんだと思うけど、やり過ぎて、削ぎ落され過ぎちゃった可能性がある。
ん、ん、ん、マドカさんの今の写真だけど、アカネが指摘した点ぐらいはツバサ先生ならやってたはず。さらにマドカさんならアカネと違ってすぐに修正するはず。あれは、あえて残している部分じゃなかろうか。
「マドカさん」
「お願いですからマドカとお呼びください」
「アカネが指摘したところは、今までツバサ先生は指摘してた?」
「いえ、さすがはアカネ先生だと」
なんだかんだと理由を付けて、この日の指導を無理やり終わらせ、仕事から帰って来たツバサ先生の下に、
「ツバサ先生、お聞きしたいことがあります」
「いいよ。そんなに聞きたいなら教えてあげる。昨晩も凄くてね・・・」
誰が夫婦の秘め事の実況中継を聞きたいものか、勝手に感じまくっとれ。生々しいほど詳細に話したがるツバサ先生をなんとかねじ伏せ、
「なんだ、こっちじゃないのか」
「あたり前です。マドカさんのことです」
ツバサ先生からさっとノロケ顔が消え厳しい顔に、
「マドカさんは素直すぎます」
「アカネが猛烈に頑固だったのとは対照的だ。それ以前にヘタクソ過ぎたが」
ほっとけ。ヘタクソだったのは認めるけど、
「あのままでは個性が死んでしまいます」
「アカネは個性の塊過ぎて手を焼いたが」
ウルサイわい。ちゃんとプロになってるじゃない。
「これ以上、手を加えるのは危険すぎます。カツオ先輩の二の舞になるかもしれません」
ニタっと笑ったツバサ先生は、
「アカネ、お前は化物だな」
アカネを犬に変えようとしたツバサ先生に言われたないわ。歳取らないのはアカネも同じになったみたいだけど、ツバサ先生は一万年のエッチ経験者だぞ。いったいどれぐらいやりまくってるんだよ。なんか、羨ましい気もするけど。
「サトルの失敗が見えたんだな。あまりに削ぎ落し過ぎるとスカスカになる」
「だったら・・・」
「指導はどうしても見てる写真の欠点の指摘なってしまう事が多い。そうだよ、マドカのレベルになればあれは欠点ではない。ある写真に使えば修正ポイントにもなるが、他の写真に使えば効果的な味付けになる」
やはりツバサ先生は見えてたんだ。
「それと教える方と教えられる方では受け取り方が違う。それに教えられる方も様々なのだ。同じ言葉で指導しても、それで弟子が同じ影響を受けるものでもない」
だよな。学校で同じ授業を受けても、それで理解するヤツ、理解できないヤツ、勘違いするヤツと様々だもんね、
「アカネのように頭から聞かない奴もいる」
ほっとけ、
「それでも、マドカが従順すぎる点を見抜いた点は褒めとく」
珍しいなツバサ先生がアカネを褒めるなんて、明日が雨だと困るんだけど。
「マドカに必要なのはテクの指導ではない。もうそれが十分なのはアカネの指摘の通りだ。しかし今のままでは商売物にならない。タダの上手な写真だ。これをどうするかがアカネの課題と思ったらよい」
そこがプロの壁か。
「でもアカネが間違ってマドカさんを潰したら・・・」
「その時はアカネの責任だ」
「そんなぁ」
「サトルもずっと後悔してる。わたしだって、何人潰したことか。それぐらい難しいんだ。わたしがやっても上手くいくとは限らない」
ツバサ先生は噛みしめるように、
「だから言ったろ、これがアカネにしてやれる最後の指導だって」
ツバサ先生・・・そこまでアカネのことを、
「良かったらまた聞きに来な。詳細に話してやる」
だから、秘め事の実況中継は聞きたくないって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます