死ぬと何処へ行くのか・・・

昆布 海胆

死ぬと何処へ行くのか・・・

「そうか・・・これが死ぬって事なのか・・・」


俺の名は秀夫、今さっきトラックに轢かれた成人男性だ。

視線の先には即死したのであろう自分の死体が転がっていた。


「しっかし轢き逃げが自分の最後とは悲しいものだなぁ~」


肉体を離れたせいなのか記憶が曖昧になっている、だがそんな事は些細な事だろう・・・

自分の手が透けて見えている事から幽体離脱の様な状況なのだと理解した俺・・・

手は近くのガードレールをすり抜け何も触れない事を確認できた。

倒れたままの自分の死体にも勿論触れる事は出来なかった。


「それでこのまま成仏するってのが普通なんだろうけど・・・成仏ってどうやったらいいんだろう?」


疑問に思いながらも誰かが通り掛かって自分の遺体に気付いてくれないか見回すが近くには誰も居ない。

何故自分がここに居たのかも曖昧になっているので分からないが、近くに住んでいる人も少なそうだ。


「おっ?!」


その時体がフワッと浮かび上がったのだ。

よくよく考えれば、手で物に触れないのに地面に立っているのがおかしな話なのだ。

徐々に体は上へと上がっていく・・・


「これが天に召されるって事なのか?やっぱり天使がお迎えに来るって訳じゃないのね」


そう小さく笑いながら倒れたままの自分の遺体を見詰める・・・

きっと人は死んだらこうやって天へと浮かび上がって行くのだろう、そしてもしも蘇生に成功した場合のみ元の体へ降りていくんだろう・・・

そんな事を考えながら自分の体は上へ上へと上がり続けていた。


グーグルマップを見ている様な景色が広がっている・・・

本当に空から見た景色ってのは面白い、今の自分は飛行機の窓から見ている様な景色を360度パノラマで見ている・・・


「ははっこりゃ絶景だ。死んだ人が最後に見れる景色がこれなら死ぬのも悪くないかもな」


そんな事を口にして小さく生前好きだった音楽を口ずさむ・・・

その曲が誰のどんな曲だったのかも分からないが、悪い気分ではなかった。

天にも昇る気持ちとは本当に上手く言ったモノである。


雲を突き抜け空が少し暗くなってきた・・・

大気圏に近づいているのだろう・・・

きっと風が強く吹いているのだろうけど霊体となった体では何も感じない・・・


「ををっ・・・本当に地球って丸かったんだな・・・」


そう口にした俺の前には真っ暗な空に太陽が一つ、下は全て雲に覆われている様な景色が広がっていた。

何時の間にか自分の体が人の形ではなく手も足も無くなっているのに気が付いた。

それに気づいた瞬間、口と言う概念が無くなり声を発する事が出来なくなった。


(過去に死んだ人は全員これを体験していたって訳か・・・)


そう考えた瞬間であった。

突然物凄い速度で地上へ向けて落下を始めたのだ!


(うっうわあああああああああああ!!!!)


その速度はすさまじく、雲を突き抜け真っすぐに地上が視界に収まった。

このまま地面に激突する?!

そこまで考えた時に思い出した。


(人は死ぬと天国か地獄に行く・・・)


つまり霊体のこの体は地面を突き抜け、そのまま地獄へ行ってしまうのかもしれない。

地獄と言うのが何なのかもう分からないが嫌な場所と言う事だけは直ぐに分かった。


(嫌だ!地獄に行くのだけは嫌だ!)


必死に抵抗をしようとするが、手も足も無いのでどうしようもない・・・

そうこうしている間に地表にまで一気に到達した。

そして俺は地面に激突しバラバラになった・・・

意識が薄れる・・・

散らばった自分と言う存在が消えていく・・・

これが・・・終わり・・・か・・・


俺の意識はそこで完全に途絶えた・・・








神は自らを模して人を作ったと言われている。

だから人の魂は永遠に消えないのかもしれない。

輪廻を繰り返す為に魂は昇天し天へと昇った後に天から落とされ余分なものを全て落とされる。

そして、真っさらになった魂は新しい生命に宿る・・・

神が模したのはもしかしたら肉体ではなく魂なのかもしれない・・・



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