レッドの覚醒

「おのれ!」




 レッドが顔を上げると彼は恐ろしい形相に変わっていた。目は赤く充血し、髪は逆立っている。次の瞬間、彼は剣を振り下ろすとシャドゥー目掛けて高速で突進した。




(動きがさっきまでと全然違う、速い)




シャドゥーは鉤爪でレッドを受け止めながらそのスピードに驚いた。二人の戦闘を皮切りに、空中にいる兵士たちがそれぞれ戦いを再開する。バードは火の手を上げるヘリコプターから間一髪脱出し、ジェットパックを背負ってメカドの元へと向かった。




「バード、大丈夫か?」


「はい、なんとか」




 バードは動転していたが気丈に振舞い、




「私も戦います」




と腰に下げたブラスターを構えた。




「よし行こう。だが無茶はするな」




メカドがバードを励ますように肩をたたく。その時、下で戦闘中のラークスからメカドの元に無線が届いた。




『メカドさん。聞こえますか?』


「ラークス少佐、聞こえています」




メカドはバードと敵に気を配りながら無線に耳を傾ける。




『ここは私たちで食い止めますから、小隊を連れてシラスナさんを追ってください。このままではホージロ少尉が危ない』


「危ないって、どういうことですか?」


『詳しく話したいんですけど、時間がありません。お願いします』




普段は割と冷静なラークスの焦ったような口調にメカドはただ事ではない気配を察した。




「わかりました。援護をお願いします」




メカドはそう言うと小隊のメンバーを見渡した。横のバードとイメク、ギイト、フダカは無線でのやりとりを聞きつけ指示を待っていた。しかしレッドはシャドゥーとの戦いに集中しており周りが見えていないようだ。




(どうしたんだ、すごい力が体から湧いてくる)




レッドは自身の体に起きた変化をはっきりと感じていた。怒りやもやもやとした感情が体を通して力となって現れ、シャドゥーを斬りつける。シャドゥーは鉤爪で防戦することしかできず、その体は次第に宇宙へと押し上げられていく。




(こいつの力は邪気か……いや、違う)




剣と爪がぶつかり火花が散る。シャドゥーは反撃に出るためレッドが剣を振り下ろした隙を見て後ろへ下がろうとした。だがすぐに風の刃が二度目の攻撃を行いシャドゥーの脇腹を切り裂いた。




「なんだと?!」




シャドゥーは距離をすぐにとったために傷が深く入らなかったが、攻撃を受けた箇所から火花が散り、服が破れてロボットの部品がむき出しになった。




「風の刃か。油断した」




シャドゥーはあくまでも冷静だった。風の刃には風の刃向けの戦いをすればいい。レッドのように二重攻撃ができる剣士は地獄樹海では珍しくなく、これまで何度も戦ったことがあった。それよりも奴が出している力の源が気になった。欲望や憎しみ、恨みを力に変える邪気に似ているが邪気ではない。




(これが邪気の王様が仰っていた≪邪気を持たぬ者たちの覚醒≫ってやつか)


「まだまだ行くぜ!」




防戦一方のシャドゥー相手にレッドが我を忘れかけていた時、ラークスが彼の後ろに飛んできて叫んだ。




「落ち着けレッド!」


「ラークス少佐」




普段は見せないラークスの怒鳴り声にレッドはすぐに我に返ると剣を操る手を止めた。




「ここは私たちに任せてくれ」




ラークスは丁寧に剣を構えるとレッドの横まで近づいた。




『聞こえるかレッド』




無線からメカドの声がする。




「はい、聞こえてます」


『ここはラークス少佐にお任せして、俺たちは皇帝の戦艦へ向かう』


「でも……」




レッドはシャドゥーと何としても決着を着けたかった。アークのことがあったからだ。




『大丈夫。俺たちは一つだ。アークの仇はラークス少佐が討ってくれる』




無線越しのメカドの声には頼もしさがあった。ラークスもレッドの方を見て頷いた。




「わかりました。ラークス少佐、後は頼みます」




レッドは剣を下すとジェットパックの出力を上げる。そしてメカドの合図でイメク、ギイト、フダカは敵を振り払い、そのままダストシュートを目指した。メカドとバードもそれに続く。




「逃がすか!」




シャドゥーはそう言い放つとダストシュート目指して飛ぶレッドを追いかけた。しかしラークスが長い日本刀でシャドゥーの爪を受け止め、彼の動きを止めた。その間にレッドたちメカド小隊は無事全員ダストシュートへ入っていった。




「あなたの相手は私だ」




 ラークスは表情こそ変えなかったが、これまでにないくらい燃えていた。アークの仇は私がとってやる。


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