シャドゥーとデス
――地獄樹海――
ここは地獄樹海の中心部、邪気の王やザイガードを支える≪地獄樹海七神官≫の宮殿だ。七神官をまとめるのは最高神官のガゼフ。彼は恐竜の骨を模した頭のロボットで邪気の王に忠実な人物である。
ザイガードは中華様式の応接間でガゼフと話をしていた。
「あなたが直々に来られるとは」
とガゼフ。
「訳あってしばらく七神官を借りたい」
「全員ですか? 樹海の警備のこともありますし、全員は厳しいかと」
「では手が空いている者はいないのか? 強い方がいい」
「そうですねえ……。ああ、そうだ。シャドゥーがいますよ」
シャドゥー。ザイガードはその名を耳にしたことがあった。七神官のなかでは目立たない存在だが大柄で冷酷な男だと聞く。だが一度も会ったことはなかった。
「シャドゥーか。連れてきてくれ」
「わかりました」
そういうとガゼフはシャドゥーを呼びだした。応接間に入ってきた彼は噂通り大柄なロボットだった。左腕にはかぎ爪があり、右腰には鞘を覗かせる。そしてガゼフと同じく恐竜の頭骨を模した顔をしている。
「ザイガード様はじめまして。シャドゥーと申します」
「突然すまない。実は頼みたいことがある」
「なんでしょうか?」
「ある男の、暗殺だ」
ザイガードは邪気の王の意志を二人に伝え、暗殺部隊のメンバーにシャドゥーを加えたいことを話した。
「わかりました。やらせていただきます」
シャドゥーは結論まで早かった。邪気の王への忠誠さが滲み出ているなとザイガードは思った。
「これで一人か……」
ザイガードは安堵とともに頭をかかえた。七神官全員を暗殺部隊に加えるつもりだったのだ。部隊のメンバーは四人以上ほしい。そうなると残り三人だがアテはない。
「暗殺部隊のメンバーですか?」
その様子をみたガゼフがザイガードに声をかけた。
「ああ、そうだ。あと三人はほしい」
「それでしたら私に心当たりがあります。地獄樹海の奥深くの廃寺院に、≪デス≫という強い修行僧がいるときいたことがあります。全身にお札を纏った赤い目の男です」
「わかった、行ってみる」
ザイガードは立ち上がった。
「シャドゥー、時が来れば迎えに来る。それまで宮殿で待機してくれ」
「承知いたしました」
シャドゥーはなんて命令に忠実な男だろうかとザイガードは思った。こいつには自我がないのだろうか。
「さて、その修行僧とやらに会いに行くとするかな」
☆☆☆
ガゼフに言われた通り、ザイガードは樹海奥深くの廃寺を訪ねた。
「ここか」
朽ちた寺門がそびえたつ。ザイガードは強い邪気を感じた。
『ここに何しに来た?』
境内に一歩足を踏み入れると低く不気味な声がどこからか響いた。
「お前がデスか?」
『そうさ。てめえは誰だ? 強い邪気を感じる』
デスの声はあたり一面から聞こえてきた。ザイガードから音から彼の位置を探ろうとしたが難しかった。
「私はザイガード。地獄樹海の統括長だ。邪気の王様から貴様に話がある」
続けて邪気の気配から居場所を探ろうとした。するとデスの邪気が不安定になってそれを妨害した。こんなことができるのは相当な使い手だけだ。
『そろそろだとは思っていたが、やっとオレも認知されたようだ』
デスは小さく息を吐くと静かに気配を消していった。そして次の瞬間、ザイガードの前に一瞬で現れた。
「よお」
驚くことにデスは人間だった。全身にはお札が張られ、顔には刺青がある。忍者の装束に似た黒い和服を着ていた。
「デスか?」
「ああ」
「話がある」
「手短に頼むぜえ。修行で忙しい」
「邪気の王様が機械皇帝カルナの暗殺を企てている。ぜひ私たちと一緒に来てほしい」
「嬉しいねえ。ついに邪気の王様がオレを認めてくださった! 喜んで参加させてもらうぜえ。オレもオレの刀も早く血を吸いたくてうずうずしてんだ」
デスは背中の日本刀に手を付けた。濃い紫色の血のようなものが鞘から溢れている。
「これでふたりか」
ザイガードは笑った。シャドゥーといい、こいつといい地獄樹海にはまだこんな使い手がいたとはな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます