「私の紡ぐ物語」2人声劇台本

深海リアナ(ふかみ りあな)

【私の紡ぐ物語】

ご使用の際はご連絡頂けたら、

可能な限り聴きに伺いますので、

よろしくお願いいたします。

Twitter ID→@R_DeepSea


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所要時間 20~30 分


男1 女1



○葉月 亜海(はづき あみ)

○水瀬 悠人(みなせ はると)


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亜海

(N)時間の縛りは、時には必要である。

今はそんな風に思う。

私はあなたに夢中すぎた。

時間は、有限だから美しい。


これは私の、未来へ向けて紡ぐ

たったひとつの物語。



亜海

「水瀬 悠人さん、だよね。私貴方のこと

知ってるよ。誠実で人柄もいい、

社内でも将来有望な営業マン、でしょ?」


(N)ただの気まぐれだった。休日に、

しかもなんとなく立ち寄った水辺公園で、

職場の人に会うなんて思ってもみなかったから、つい声をかけてしまった···

それがたまたま彼だった。


悠人

「そういう貴女は、怖いもの知らずで有名 な葉月 亜海さんですね、こんにちわ。」


亜海

「私を知ってるんですか?」


悠人

「大体の人は知ってるんじゃないですか?だっていつも貴女、こんな風に誰にでも話しかけるでしょう?」


亜海

「あれ、そうだっけ。まぁいいや。

かっこいいカメラですね、何撮ってるんですか?景色?」


悠人

「見てみますか?」


亜海

「見ます見ます!」

「わぁ···空ですね、

綺麗!こんな風に写るんだ!」


悠人

「こんな景色のいい所で空だけ写すなんておかしいでしょ。ここは視界を遮るものがないから、空が広くて好きなんです。」


亜海

「私、こういう鮮やかな空色、

好きなんです!···いいなぁ。」


悠人

「写真、出来たら差し上げましょうか?」


亜海

「いいんですか!?

ください!欲しいです!」


悠人

「いいですよ。」



亜海

(N)この出会いがきっかけで、

私達は急速に仲を深めて行った。

意外な面を見つけるたびに、

誠実でいい人と思っていた悠人さんを

恋愛感情で好きになるのに、

そう時間はかからなかった。



亜海

「悠人さん!

次の日曜はまた撮りに行くの?

あの公園。」


悠人

「行くよ。

ただカメラは持っていくけどね、

撮る気分になったら撮ろうかな。」


亜海

「何それ、じゃあ何しに行くの?

お散歩?私も行っていい?」


悠人

「んー···どうしようかな。

次の日曜日は1人で行こうかな。

また今度でいい?」


亜海

「え···?う、うん。」


(N)時々、こうやって悠人さんは、

ふと遠い目をする。初めは「自由な人」

そんなふうに思っていた悠人さんの印象は、段々と「孤独」を匂わせる印象へと変わっていった。



(日曜日・水辺公園)



亜海

「···来てしまった···。もう!

何で私ってこう いつも出しゃばりかな!

だってなんかあるんだもん、

気になるよ、あんな言い方されたら!

うん、私は悪くない!」


「お?いた悠人さん!

え、何してんだろ、ぼーっと座ったまま···

······なんだろ···寂しそう。」


(携帯の音)


悠人

「ん?あ···スマホか。もしもし。」


「(穏やかに)あぁ。うん、

今ちょっと出かけてて。···ここ?

·········。いつもの所だよ、うん。

···二人で?大丈夫だよ 行っといで。

僕も好き勝手させてもらってるし。

···うん、じゃあね。」


亜海

「·········寂しそう。」


悠人

「盗み聞きかな?」


亜海

「はぁ!!!き、気づいてた!!!」


悠人

「見えてたよ、ずっと。

君も物好きだよね、そんな気になる?

こんなつまらない人間の休日が。」


亜海

「悠人さんには

もっと色んな面があると思いまして!

とても興味がありまして!」


悠人

「そんなの、人間は皆同じだよ。

亜海さんにもあるでしょ、

人の知らない裏の顔とか。」


亜海

「裏 亜海(うらあみ)ですか···

あるかもしれないし、ないかもしれない」


悠人

「はは、なんだそれ。」


亜海

「モヤモヤしてるんです、私。」


悠人

「なに、いきなり。」


亜海

「単刀直入に聞きます、

悠人さんは、今、孤独を感じてますか?」


悠人

「本当に単刀直入ですねぇ···

そういうの嫌いじゃないです。」


亜海

「ふふ、性分なんで。」


悠人

「孤独ねぇ···あるのかもしれないね。

亜海さんは···なさそうですね。」


亜海

「ちょっと!それどう意味!?

私にだってありますから!

孤独の一つや二つ!馬鹿にしてる!?」


悠人

「ははは、ごめんなさい。

で、あるんですか?例えばどんな?」


亜海

「大事なとこには触れずに

質問返しするなんて、性格悪いですね!」


悠人

「そうでしょう?

亜海さんも意外と頭いいじゃないですか」


亜海

「やっぱりバカにしてるでしょ!」


悠人

「いやいや。」


亜海

「もう···

最初は誠実でいい人と思ってたのに!」


悠人

「人を見かけで判断しちゃ

ダメって事ですよ。」


亜海

「そうですね。

·········悠人さんは···

···本当は寂しかったりしますか?」


悠人

「······え?」


亜海

「見てて思ったんです。

たまに見せる悠人さんの表情は、

何かに悩んでる顔じゃない。

どちらかと言うと···

孤独とか諦めみたいな 顔してるなって。」

「あ、深読みしすぎてたらごめんなさい!」


悠人

「···すごいね、亜海さんは。

人をよく見てるんだね。誤解してた。」


亜海

「あ···そんなつもりは···」


悠人

「·········正解。何もないんだよ、僕には。」


亜海

「悠人さん···」


悠人

「欲しいものは沢山あるんだ。

けれどね、誰かが諦めろと言えば諦めれてしまう。その程度なんだ。

悩んで嫌だと思いながら、何でも手放すことの出来る自分は 本当は心から欲しいもの

なんてないのかもしれないなって···

···時々思うんだ。」


亜海

「············。」


悠人

「逆にこれをやれって言われたら、やりたくなくても、やらなくちゃいけないって

上手く切り替えられてしまう。

そしていつの間にかそんな僕を皆、

誠実だとか真面目でいい人だって言う。」


亜海

「あ······私······」


悠人

「いいんだよ。今ではそれが僕だってちゃんと受け入れてるから。

変な気使わせてごめんね。」


「だからいいと思うよ。

亜海さんみたいに自分に正直で

真っ直ぐな人。」


亜海

「いいじゃない!切り替えられるって

私には出来ないもの。真面目の何が悪いの?そういう人尊敬するし憧れる!悠人さんはそのままで充分だよ!私はそのままの悠人さんが好きだなぁ!」


「えっ?あっ、ちがっ···そういう悠人さんみたいな人が好きだなって···いや、同じか?

あぁっ···何言ってんだ私!」


悠人

「あははははは!」

「やっぱりいいな、

亜海さんのそういうとこ。」


亜海

「あーもー笑わないで!」


悠人

「こんなこと話したの、君が初めてだよ

世の中捨てたもんじゃないね。」


亜海

「それは、

ちょっと大袈裟じゃないかなぁ。」


悠人

「そんなことないでしょ?」


-亜海・悠人、仲良さげに笑う-



(平日・職場内)



悠人

「葉月さん、お疲れ様です。」


亜海

「あぁ、水瀬さんお疲れ様です!」


悠人

「コーヒーと紅茶、どっちにしますか?」


亜海

「じゃあ···こっち!」


悠人

「はい、どうぞ。」


亜海

「わぁ、ありがとう!」


悠人

「亜海さんは、よく公園行くんですか?

なんというか···亜海さんは公園というよ

りカラオケとかボウリングの方が

イメージ強いんですけど。」


亜海

「あぁ、最初のあの日実はカラオケオール

した帰りでして。飲んでたもんで、

ちょっといい空気吸いに行きたくて

たまたま立ち寄ったんです。」


悠人

「なるほど。イメージ通りだ。」


亜海

「···ん?」


悠人

「いえ、気にしないでください。」


亜海

「で、それがどうかしたの?」


悠人

「いえ、毎週公園ばっかりで、

楽しいのかなぁと。無理してません

か?」


亜海

「いえ?楽しいですよ?

私の意思でついて行くんです。

基本私、誰かといられればどこでも

楽しめる人なんです。···ご迷惑ですか?」



悠人

「いや、とんでもない。」


亜海

「そうですか。楽しいですよ!

知らない世界を知れていつもワクワクし

てます。」


悠人

「それなら良かった。」


亜海

「···?」


悠人

「···明日も空、見に行きませんか?」


亜海

「喜んでーっ!」


(N)あれから、私の中で悠人さんの存在は

かけがえのない大切なものになっていった。「空を見に」。それは、二人の間では

「いつもの水辺公園へ行こう」という意味を示す暗号のような言葉になった。

皆の知らない悠人さんを私は知っている。

それだけで自分が一番彼に近い気がして、毎日がキラキラして見えた。

誰よりも先に、私の名前を呼んでくれることがこんなにも幸せなことなんだと、

生まれて初めて思えた。



(日曜日・水辺公園)


悠人

「待たせてごめんね。これを取りに行って

たら遅くなってしまって。」


亜海

「悠人さん!

大丈夫、待つの好きだから!

って···これ、この間の空の写真!?」


悠人

「そう、あげるって約束してたやつね。」


亜海

「うわぁー!すごーい!綺麗!嬉しい!」


悠人

「気に入ってもらえて光栄です。」


亜海

「部屋に飾ろ!あぁ、もう私、

悠人さんの撮る写真が一番好き!

アルバム!アルバム作ってよ!

高値で買うよぉ?私いいカモになるよ!」


悠人

「カモって···もう少し言い方あるでしょ。」


亜海

「悠人さんのカモなら構わないかもっ!」


悠人

「なにそれダジャレ?」


亜海

「え?何の話?」


悠人

「ぶっ、あはははは!」


亜海

「え?なに?」


悠人

「亜海さんはそのままでいいよ。あはは」


亜海

「はぁ!?

意味わかんない、なになに??」


悠人

「いや説明面倒くさいから、もういいよ」


亜海

「え!?

これ もしかしてディスられてる!?

なんで!?」



(悠人、一呼吸置いて)


悠人

「気のせいです。亜海さんといると

飽きないよ。いや、楽しい!

亜海さんはね、この空みたいに広くて

大きくて············いいね。」


亜海

「(笑う)えー?」


悠人

「亜海さん···」


亜海

「ん?」


悠人

「ありがとう。」


亜海

「へ?」


悠人

「毎日楽しいよ、本当に。」


亜海

「な、なんか今日の悠人さん変!!

なんか照れるからやめてください!

そういうの!」


悠人

「あはははは」


亜海

「あ、あー!風が気持ちいいなー!

それにしてもいい天気ですねー!」


悠人

「棒読みだねぇ。


うん···気持ちいいね。景色って、

こんなにカラフルだったんだね。」


亜海

「(息を飲む)」



亜海

(M)うまく、息が出来なかった。

こんな風に胸を突き上げてくるような鼓動や隣にいるだけで、身体中の細胞が沸き上がり満たされていくような幸福感···

何より今この瞬間、この人の瞳の中に

私がいるというだけで 私は1人ではない···

何も怖くないと思えてしまう不思議。


いつも見ていた彼のその遠い目には今、

孤独が感じられなかった。


ただその横顔を永遠に見ていたい、

この人のそばに、ずっといたいと、

心の底からそう思った。


亜海

「悠人さん!

私、この空をバックに悠人さんと2人で

写真撮りたい!」


悠人

「いいね、撮りましょうか!」



亜海

「タイマーとかなの?これ。」


悠人

「いや、これだよ、リモコン。」


亜海

「今のカメラってリモコンとかもある

の!?便利!」


悠人

「スマホにだってあるでしょ。

ほら、もっと寄らないと

景色が隠れるよ。」


亜海

「えっ!?あっ···」


(写真を撮る)


悠人

「はい、オッケー。

···あれ?亜海さん?」


亜海

「あ···あの···ちょっと···わ、私···」


悠人

「大丈夫?」


亜海

「は、はい。」


悠人

「亜海さん!すごく綺麗に撮れてるよ。

見てみる?ほら。」


亜海

「ひゃっ!は、悠人さん···っ!

か、肩···っ。」


悠人

「あ、ご、ごめん!つい夢中になって

しまって······肩を抱いてしまいました。」


亜海

「言わなくていいから!」


悠人

「あ、ごめん。」


「写真、きっといい出来になるな、これは」



亜海

「(独り言のように)

···子供みたい。可愛い。」



亜海

「悠人さん。」


悠人

「ん?」


亜海

「あのね、」


悠人

「うん。」


亜海

「悠人さんが、好きです。」


悠人

「···!

···········。」


(間)


「ありがとう。」


亜海

(M)

それ以上、悠人さんは何も言わなかった。

そして、何も聞けなかった。

この頃から私の中は、忘れかけていた

黒い塊が目を覚まし、うねうねと動き出していた。



亜海

『 水瀬さん···、

次の日曜も空、見に行きますよね。』


悠人

『···そうですね。行きましょうか。』




亜海

『水瀬さん、空、見に行きたいです。』


悠人

『いいですよ。』




亜海

『水瀬さん···水瀬さん!』


悠人

『············。』




亜海

『······悠人···さん···。』


悠人

『···葉月さん、

会社では苗字にしましょうか。』



亜海

「どうしてですか!?

私、何か悪い事しましたか!?

あんなに近くに感じてたのに···

···悠人さんが···今は···遠い···。」


悠人

「···亜海さん。」


亜海

「好きになって···ごめんなさい。

調子に乗ってごめんなさい。」


悠人

「···亜海さん。

次の日曜日、空、見に行きましょう。」


亜海

「···え?」


亜海

(N)あぁ···終わる。幸せだった時間が

終わるんだ。なんとなくそう悟った。

今まで彼は「見に行きませんか?」と私を

誘ってくれた。そして今初めて、

「見に行きましょう」という彼自身の気持ちで声を聞いた気がした。


(日曜日・水辺公園)


悠人

「今日は僕が早かったですね。」


亜海

「···はい。」


悠人

「今日は、ずっと引き伸ばしてた返事を

しようと思って。」


亜海

「······はい。」


悠人

「ごめんね。僕は亜海さんとは···

一緒になれない。」


亜海

(M)あぁ···やっぱり。


「はい。」


悠人

「···何故か聞かないの?」


亜海

(N)聞ける状況じゃなかった。

私の心の中は「もう一緒にはいられないんだ」「また独りぼっちなんだ」という感情が

全身を縛り付けて もう1人の真っ黒の私が

絡みついて私を離してくれなかった。


悠人

「じゃあ、独り言を言うね。

僕にはね、奥さんと子供がいるんだ。」


亜海

「·········え······?」


悠人

「普通に幸せで、どこか空っぽで、

何事もなく、そして何もない。

幸せなはずなのに···モノクロだった。」


「うまくやれてしまう僕は、世間からも

いい旦那さんだって言われてた。

でもね、全然そんなことなかった。

うまくやれるだけで、大して誰にも

興味がなかっただけなんだ。

そんなギャップやジレンマで本当は

押し潰されそうで。

そんな時、キミに出会った。」


「毎日に色が付いて、楽しくて、

本当の自分らしさがわかった気がした。

ちゃんと向き合わなきゃいけないって

ことも、君に教えられた。」


亜海

「悠人さ···」


悠人

「僕は、僕の場所に帰ろうと思う。」


亜海

「(泣く)」


悠人

「君の気持ちに応えられなくて

ずっと知らないふりしてて···ごめん。

居心地がよかったんだ。

···壊したくなかった。」


亜海

「······っ、

···孤独···なくなりましたか···?」


悠人

「···うん。やっと···やっと解放されたよ。

亜海さんのおかげで。」


亜海

「よかったです。

少しでも私なんかの存在が

役に立って。」


悠人

「わかってたよ。

亜海さんも僕と同じだって。なのに···

本当に······ごめんね···っ。 」


亜海

「気づいて···くれてたん···ですか···?」


悠人

「ずっと一緒だったから。

皆に笑顔で話しかける

怖いもの知らずの亜海さんは、

きっと、ずっと誰かに

気づいて欲しかったんじゃないかって、

なんとなく。」


亜海

(M)私の孤独に気づいてくれる人がいた。

見つけてくれた。この人が···

大好きな人が見つけてくれた···!

それだけで、私に絡みつく真っ黒の私が

スッと離れてどこかに消えた。


亜海

「私、悠人さんに出逢えてよかった···」


悠人

「亜海さんと過ごした時間、

短かったけど、一生忘れない。

本当に楽しい時間をありがとう。」


亜海

「···っ、悠人さん···っ、悠人さん···!」


亜海

(N)悠人さんの胸の中で、大声で泣いた。

2度目に触れた彼は、優しくて温かくて、

どこか懐かしい匂いがした。


だから私は決めた。

顔を上げて、また笑って

誰かに会いに行こう。


亜海

「大丈夫です!私、今の言葉で

一生分頑張れるから!

悠人さんも!ちゃんと幸せにならない

と今度こそ口説き落としてやるんだから

ね!」


「···幸せになってね。」


悠人

「ありがとう。」


三日後。

悠人さんは自らの希望で職場を辞め、

帰ると私の家のポストには、

彼からの文字のない手紙が届いていた。

そこには、写真が1枚。


あの日の空の下で笑う

私達が写っていた。


亜海

「ありがとう、さよなら。」


ふと見上げた空は、

今まで見たことのない鮮やかな青だった。




~完~

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「私の紡ぐ物語」2人声劇台本 深海リアナ(ふかみ りあな) @ria-ohgami

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