桜と死
あいうえお
桜と死
桜の舞い散る季節に、僕は双子の妹を亡くした。秋月井華。享年十五歳。あまりにも早すぎる人生の幕引きだった。
半年経った今もなお、井華の死に様を夢に見る。
樹立百五十年を誇る桜の樹が威風堂々と立っている校舎裏。そこにあるベンチで、眠るように死んでいた妹の姿を、僕は未だに忘れることができない。そしてこれからも——。
ところで本日は月曜日である。
見事に引きこもりとなっていた僕らは、カーテンを開け放った部屋の中でテレビを見ていた。
同居人である彼女は今、恋愛ドラマの主人公役である人気俳優が映った画面を指でなぞっている。つぅ、と色を滲ませた指遣い。
「ねぇ見て! 三回ほど折った袖の隙間から覗く血管の浮かんだこの右腕。百点満点中一億点くらいかしら」
そう言って、彼女は恍惚とした溜息を漏らす。
「——おい我が妹よ」
「なあに? ……あ、ごめんね。兄さんはどちらかと言うと白ブラウスから透けたブラのホックが好きなのよね。気遣いができない不甲斐ない妹を許して?」
頬に手を当ててぶりっこぶる彼女に、寝起きのかすれた声で言う。
「……涎、垂れてるぞ」
焦げ茶色の双眸が瞬きをひとつ。そろりそろりと、青白い唇に細い指が添えられた。
「おっとこれは失礼」
最愛の妹を失ってしまった僕の世界が、灰色に染まる——ことはなかった。
「一回死んだってのに女子力は変わらないんだな。あと体型も」
「おだまり!」
二本の指が僕の目に勢いよく突き刺さり、そのまま後頭部まで通り過ぎていった。
桜と死 あいうえお @re-na
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