美大生

@no-yuki

«桜道»  ~プロローグ~

 何かをつかめるはずだと思ってここへきた。希望もあったし、未来への展望もあった。それに見合うだけの、努力をする意気込みだって。

 20XX年度。新入生総数、千二十一人。

この中に埋もれて、腐ってゆくつもりなんてなかった。

 同じ年頃の、似たような理由で集った、近しい感興を持つ人間の群れ。

 そんな中でも、自分は輝けるはずだと信じていた。


 四年あれば、何とかなるだろうという甘い考えもあった。社会に出るのが億劫で、急に大人になることにたじろいで、子どもでいられる猶予がほしかった。

 どこかに属していないと不安だった。今すぐ何かをやれる力がなくて、かといって力ない自分につり合う仕事につくのが嫌で、くだらない人生を歩むのが嫌で。

 だから、体のいい学業という回り道を選んだ。

 四年もあれば見つかるだろうと。

 自分にしかできない何か。自分しか成し遂げられない何か。自分だけの特別な何か。

 他人に誇れる何か。他人が羨む何か。他人が容易には手に入れられない何か。


 大学四年目の九月。

 俺は何者にもなれぬまま、学生生活最後の半年を迎えようとしている。

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