第4話「俺は大学生時代をやり直す」
4月になった今日、俺は再び大学生としての人生をやり直すこととなる。
正直この大学生としての4年間はそれなりに楽しかった。少なくとも中学や高校の時以上に色々好き勝手やれた、ぬるゲーの4年間だったと思う。
まぁそのぬるゲーに浸っていたせいで失ったものも色々あったのだが、今となってはそのことには別に悔いてはいない。
当時の大学生時代についてだが、それはそれは大層充実したボッチスクールライフを過ごしていた。
高校時代で自分の限界を痛感したことで、大学での陸上競技は諦めて部活には入らなかった(その代わりに高校の仲間と一緒にクラブチームに入って少し活動していたが)。
もちろんサークルにもどこにも入らなかった。入る気なんて初めからなかった。
その結果、大学で新しい出会いも繋がりもほとんど作らなかった俺は4年間、それはそれは独りの時間が多いものだった。
まぁせいぜい一人くらいは友と呼べる奴はいたかな。1回生の時にクラス編成があって、その時に知り合った男だ。そいつもポケモンガチ勢な奴で、他にも色んな娯楽趣味で気が合って、ちょくちょく遊んだ仲だった。
でもそれだけ。それ以外での大学での横のつながりは皆無。俺の交友関係の広がりの勢いは、高3が全盛期だったのだ。
別にそのことについては人生の汚点とは思っていない。考えたこともなかった。
では何が悪かったのか?
俺がかつて大学時代でやらかした汚点は、主に金と家族関係についてだ。
金については俺の世間知らずから生じたしょうもない事案だ。
ロクに人と関わらなかったこの頃の俺は、まだ世間のことに疎いところがあった。そのせいでしょうもない架空請求や出会い系サイトへの課金にひっかかってしまい、数十万もの金をどぶに捨てる羽目になってしまったのだった。
騙された相手はアダルト系のサイト。少し考えてみれば分かることだった。架空請求については無視すれば良かっただけのこと。裁判とか訴訟とかの単語にビビッてしまった世間知らず過ぎのガキは、夜の時間にまんまとコンビニやATMへダッシュで駆けこんで金を振り込んでしまったのだった......クソ馬鹿過ぎるわマジで。
出会い系サイトの方も、俺はサクラ業者に引っかかってしまっていたことに気付きもしないでずっと浮かれた気分で課金しながらチャットしていたのだ。で、いざ待ち合わせのところに行くと誰もいない。いくら待っても女は現れない。連絡しようにもメールやLINEの情報はもらっていないので課金チャットでしか連絡が取れない。そこでやっと騙されていることに気付いて、その日は枕を濡らす羽目になったっけ。
あの時の自分ほど殺してやりたいと思った奴はいなかった。なんてことやらかしてくれやがったんだと、あんなふざけた業者どもに落とした金でいったいどれだけもっとマシな物を買えたと思ってんだと、顔の形が変わるまで殴りつけたい気持ちだった。
やらかしてしまった後で俺は思い知った。ぼっちでいるのは構わないけど、もっと世の中の汚いところを学んでおくべきだったのだと。
世間知らずの無知な人間を餌にして騙して金を巻き上げる種の人間がこの国だけでも腐る程にいるということを。インターネット上で少し話しただけで体を許してくれる女なんかほぼ存在するわけないということを。向こうから寄ってくる女には必ず裏があるということを。サイトで数回クリックしたことで「〇〇万円お支払いして下さい」と出たり、「期日までにお支払いしなければ法的措置を取ります。訴訟します」とか出ても、そんなものは全部ブラフだということを。
ぼっちでやっていくのだったら、自分でそれくらいの知識と知恵は仕入れておくべきだったのだ。
あの時の俺は何もかもが無知過ぎた。やっぱり所詮は学校の勉強しかできなかったクソ馬鹿野郎だったんだ。
受験に失敗してからの春先でやらかした事件だったから、その年はずっと失敗続きのことを引きずって生きていたな...。今思い出しても自分が恥ずかしくなる人生を送ってきてしまったと思わされる。
だからまず修正すべきところは、あの時の無知で愚かだった自分との決別だ。
やることは簡単だ。アダルトサイトの請求はよく吟味すべし。というか無視する。数回のクリック程度で出る請求は確実に正式なものではない、ブラフだ。100%そうだ。
出会い系サイトも、あれはほぼ全てがサクラサイトだ。中身は機械か気持ち悪いオッサンと思えば良い。あんなので好みの異性が手に入る確率は、ゼロだ。断言して良い。経験者の俺が言うのだから違いない!!「マッチングしました」とかレビューしてる奴もどうせサクラ業者だ。あんなのを信じる必要は欠片も無い。だから一切手を出さない、目を向けない。
以上を心に刻みこんでいれば、もう金を捨てるようなことには決してない。そもそも今の俺には大金がある。出会い系サイトとかにかまける理由も無い。
金があるから心に余裕が生まれる。焦ることもない。あの時の俺は受験に失敗して、やることなすこと全て上手くいかずで心に余裕が無かった。だからあんなふざけたものに引っかかってしまったのかもしれない。もちろん無知だったせいもあるが。
最初の修正を達成したところで、ここからがいよいよ...俺が一切経験しなかった世界が来る。
何せ進学先は以前とは違う大学。さらにそこの陸上競技部に入って陸上競技を楽しんだり成り上がったりしていく。人間関係が一新されて環境が全くの別物となる。ここからは知らないことばかりだが、俺には最強の武器がある。
過去のことは何でもお見通し。これから何が起ころうとも俺は瞬時に対応して対処できる。どうすれば効率良く鍛えられるか、単位を取れるか、金を稼げるか、全てその答えが分かる。そんなチート野郎だ。
怖いものは何も無い。俺はもう勝ち組の枠内にいる。約束された勝利がその先にある。さぁ修正を始めよう!!
大学生になったことで親が俺に色んなことを一任してくれるようになった。口座の自己管理。外泊の自由。不純異性交遊。パソコンの所有等。これで堂々とパソコンを出したり宝くじで大金を当てて振り込んでもらうこともできるようになった。この年からはいよいよ億単位の賞金もゲットできる。あっという間に親を超える収入が発生しそうだな。
最高のスタートだった。早速数百万円を当てて好きなものを買いまくったり、18才だから風俗にも行けるから好きな女を指名して遊びまくったり、本当に何でも意のままに堪能してやったぜ。毎週高級ソープにも通ったりもしたなぁ。初めて行ってみたけどあれは良いものだ。
「君、まだ学生みたいだけどこんなところに来て大丈夫?お金ちゃんと管理できてるの?」
「ご心配なく。俺には絶対的な収入源があるので。それよりさっさとおっぱじめさせろォ!」
「きゃああん!?もう、若くて可愛い顔してるくせに乱暴なんだから...💛」
もはや大学生に相応しくないレベルの豪遊をやりまくり、大学生として外れた遊びをしまくっていたが、遠慮とか手加減とかは全くしなかった。
“やりたいようにやる”
本来のこの頃の俺もそういうことを決意して過ごしていた。勉強とかは必要最低限のみ。就活セミナーとかインターンシップとかも一切手をつけず。やらなくていいこと、やりたくないことはとことん避けて過ごした4年間だった。
そんな怠惰で堕落した自分になってしまったのは、やっぱり高校生時代の反動が原因だったのだろう。元々勉強行為が大嫌いだった俺が、あんなにも長時間勉強を毎日やっていたのだ。とことんやりまくっていた。この努力は無駄じゃない、必ず俺を成功に導いてくれると、あの頃の俺はそう思い込んでいた。
だが結果は無惨なもの。俺は自分に失望し、燃え尽きてしまった。そして今までの嫌々積み重ねてきた努力の反動で、俺は何に対しても頑張るという気持ちが欠如する人間になってしまった。
あんなにたくさん時間を費やしたのに自分の思い通りにならなかったから。自分は精一杯努力したのにその努力が実らなかったから。
努力しても結局時間の無駄だった。俺は才能もセンスも無さ過ぎるからどれだけ時間をかけても無駄だったと、あの大学受験で思い知ったのだ。
だったらもう努力するのは、頑張るのはもう止めよう。そういう考え方に至ったことに、俺はなんの抵抗もしなかった。これからの時間を無駄にしないように。送ることが出来たはずだった幸せな時間がこれ以上無くならないように。無駄に傷つかないように。もう背伸びして色々頑張って努力するのはもう止めよう。
たいていの他人がそんな俺をおかしいだろと批判するだろうな。けど俺はもう頑張れない。頑張りたくない。楽に行きたい。あのクソッタレな3年間の分を帳消ししたい、なかったことにしたい。そうするには今後は一切努力しない、頑張らない。手を少し伸ばして届く範囲で良い。それ以上は行かない。行きたくない。自分の短いであろう時間を浪費したくない。やりたいことしかやりたくない。
そこからは25才の俺と同じ人格のまま生きてきたっけ。大学生時代は、最初こそ盛大にやらかしてしまってやり直して修正したいと思わされるところはあった。
けどそれ以降の自分は割と気に入っている。やりたくないことや努力から目を背けて避けて、目の前にある快だけを求めて堕落に浸る自分。そんな自分を俺は気に入っていた。許せていた。心地よかった。
よって、今回の大学生としての俺もそんな感じで行く。人格はあの時のままで良い。欲のままに生きよう。楽しければいい。
ただ...このルートでは俺はかなり走らなければならないけどな!
良いさ。俺は元々全力で走るのが好きな性分。とことん走って鍛錬を積む。やりたいこと・やってもいいことだから逃げようとは思わない。やってやる。
レッツダッシュ・ノースタディだ!楽しもう!!
5月。大学陸上の最初のインカレシーズン試合...関西インカレにレギュラー出場した。去年の俺のインターハイでの活躍を知っている顧問や部員たちだったから当然の配慮だった。大学では私立だろうと国公立だろうと完全に実力主義だからな。実績が無い者にはステージなど用意されない。厳しい現実だ。
今まで通り、200mでてっぺんを目指すことにしてそれに出場。そして余裕で関西チャンピオンとなった。
輝かしい俺のデビューレースは、20秒59を出して優勝という結果で締めた。2位とは0.5秒以上も差をつけてやった。
その後の西日本インカレも優勝。20秒50。
さらに6月末、二度目の日本選手権大会にも出場。この大会で優勝あるいは2位に入れば、アジア大会に出られることとなっている。
結果は優勝。去年勝てなかった選手たち…深瀬、飯井塚、藤平、高原全員に勝利してのゴール。
この俺が、世界の決勝舞台にも進出した日本のトップアスリートたちを追い抜く時がくるなんて、「強くてニューゲーム」をする前の俺からは想像できないことだ。
優勝が決まった瞬間、競技場の観客席から大きな歓声が上がった。その光景が堪らなく快感で、良い気分だった。
妄想世界でずっと求めていた光景。それを現実のものにしてやったぜ。最高だ。やり直してズルしているとはいえ、理想の自分が叶うのは本当に良いものだ。何でも出来る気分になれる。
俺のバラ色の大学生ライフはまだ始まったばかりだ…!
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