オプション

変太郎

道選び

眩しい光が窓を経て届く。数十個の机の陰のうちいくつかに人の陰が重なる。

「木村!カラオケ寄ってこうぜ!」

教室から出ようとすると、じゃれ合う級友2人のうち一方が、僕を誘う。

 歌うのは好きだし、今日は午前授業のため、体力もないことはない。

「私も行く!ねえ、さやかも一緒に行こうよ!」

女子2人が加わることになった。ちなみに2人は可愛い。2人とも彼氏はいない。ちなみに僕に彼女はいないし、誘ってきた彼らにも彼女はいない。



 進学校だからか、恋愛はさほど盛んではなく、"付き合う"ということが現実味を帯びていないような感覚を皆が持っていると思う。数ヶ月で彼氏、彼女ができるというのもそれはそれで早すぎる気もするが。とはいえ、そういったことに興味がないわけはなく、アニメやドラマ、漫画の中の恋愛を、それぞれが同性の友人らと共有していた。

 夏が近づき、一年の僕らもそれなりに親しくなってきた今日。初めてのプライベートな交流の機会が訪れようとしていた。

 しかしだ。人数に問題がある。このままでは男3女2になってしまう。

 もし自分だけ会話に入らなかったらどうしよう。選曲にも気を遣わなきゃ。そんな思考が頭を埋め尽くす。

「よし!そうと決まったら行くぞ!」

「あ、俺行かないわ」

反射的にそう答える。

「そうか。なら4人で行くか!」

「ごめん」

 僕が小さく呟くと、1人が「全然いいよ」と言って4人とも教室を後にした。


 面倒だった。だからこれでいいんだ。

 

 この日最後に教室を出たのは僕だった。



 

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