03
孤児院の中に入ると、足ふきマットの上で行列ができてて、手洗いで行列、食器を取りに行く所でまた行列になっていた。
低俗な下民と肩を並べて、食事の時間を待たなければならないなんて。
何て劣悪な環境なんだろう。
心がすさんでしまいそうだ。
「あ、お坊ちゃん。汚れが残ってるー。はい、やり直し」
「何だと!」
僕ほど綺麗好きな人間は他にいない。
そんなの、心が汚れている連中にしか見えない汚れなんだ。
なんて思ってたら例の少女が、どこから持ってきたか分からないお玉で、フライパンを叩いてた。
仕方なく、やり直しの列に並び直す。
汚い下民にまざって、身辺を整えていると、珍しい事に個々の孤児院の中にお客さんの姿があった。
お客さんは二人で、若い夫婦だ。
下民が着るような服を着てるけど、それなりに所作が洗練されている。
没落した貴族か、それとも貴族に使える使用人かなんかだろうか。
そんな人が何でこんな所に?
その若い夫婦は、この孤児院の経営者と真剣に何かを話している様だった。
内容は移動ルートについてみたいだから、旅の途中か何かなのかもしれない。
ひとしきり話した後、若い夫婦の人が嬉しそうにする。
「お世話になりました。もうすぐ村に戻ることができそうです」
「これも、カイゼル様がとりなしてくれたおかげです」
対する経営者は不思議そうな様子だ。
「あのオネエ口調のおじさんがねぇ。そんな凄い人だったの」
知らない名前だし、オネエのおじさんも見かけた事はない。
両方ともこちらには関係のない事を話しているようだ
興味を失った僕は、素通りして、孤児院の中を歩いて行く。
すれ違う時、若い夫婦の足元に小さな子供がいるのに気が付いた。
夫婦の体で隠れてたので見えなかった。
「こら、フィー。お世話になったんだからあなたもお礼をいいなさい」
「ちゃんと挨拶しなくちゃな」
人見知りらしい少女はか細い声で何かを言っている。
けど、その場から離れた僕にはその内容は聞こえなかった。
その後。
お昼ご飯は当然のようにおかずのとりあいになった。
うかうかしてたら、僕の分までなくなってしまうのはあっというま。
ゆっくりご飯も食べられないなんて、下民はやっぱり程度が低い人間なのだ。
後で食べようととっておいた、おやつを横取りするなんて。
地獄に落ちてしまえ。
帰る時、しゃもじをもった少女に声をかけられた。
「もう帰るの?」
この少女、いつも炊事の道具を持ってるけど、何やってるんだろう。
「また来てね。皆あんたが来るとっても元気になるの」
ここの下民は、邪魔者を追い出したり、意地悪したりするのがそんなに好きなのか。
「言われなくても僕の正義を証明する為に、何度だって真正面から受けて立ってやる」
「はいはい」
しゃもじをもった少女は、弟をいなすような口調で柔らかく返事。
おかしい、何でそんな受け答えになるんだろう。
僕としては、血眼になっても戦い続けると、己の意思を表明したつもりなのに。
おやつが食べられなかった事がばれたのか、お土産にヒマワリの種をもらった。
僕はハムスターじゃないぞ。
なんて言ったら、「贅沢言わない」としゃもじで脅された。
何で王子様の僕がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。
そういうわけで僕は、貴重な時間を無為に消費し、釈然としない面持ちで帰途についた。
城に帰ったら、すぐに勉強だ。
証拠を隠滅して、一歩も部屋の外に出ていないようにしなければならない。
たまにあいつら、人の背中に張り紙つけたり、ポケットに変な物いれてくるから。
あ、虫だ。
あと、ゴミ。
それと何だこれ、ただの石じゃないか。
背中にはガムテープが貼ってあった。
いつのまに。
チェックが終わったら、ちょうど勉強の時間だった。
「クラン王子、お勉強の時間ですよ」
「はい、どうぞ」
王子らしい笑顔を浮かべて、教師を招き入れる。
「おや、今日は何だか機嫌がよさそうですね。何か良い事でも」
「いいえ。いつもの通りですよ。守るべき民の為の勉強をするんですから、今日も喜んで机に向かいます」
「素晴らしい。さすがこの国を担うだけの王子ではありますね。クラン王子がいればきっと、この国の将来は安泰です」
聞きなれたお世辞を右から左へ聞き流しながら、頭の痛い勉強をこなしていく。
部屋のベッドに下にはひまわりの種。
いつもは下民の施しなんてうけないけど、今日は特別だ。
勉強がつまらないから、刺激をもとめてハムスターの餌でもなんでも食べてやる。
城からこっそり抜け出した王子サマが下町で遊ぶ話 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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