初めて海外赴任したと思ったら...やっぱり地球防衛隊?だった件
MOH
第1話 赴任地 1日目 日本から3時間
篠原千昭、37才、女、独身
これが私の個人情報
地元の電気機器会社に入社して15年、ここ数年は東京支社に勤務している。
会社の売上は、モーションコントローラ、産業用ロボットが大半を占めており、海外売上高比率も高い。
これから上海にある、子会社の董事長(社長)として赴任する。
今まで中国子会社の董事長は、日本本社の誰か(とはいえ、部長クラス)が就任し、董事会(取締役会)の時だけ、中国に出張していたのだが、現地で情報共有と発信が必要という、担当役員からのお達しにより『現地に董事長を置こう! じゃあ、誰を置く? 』の段になって、『せっかくだから、若手に経験させてみよう! 女性社員だとダイバーシティ推進になるし、同業で中国日系子会社の女性社長は未だいないし、話題性もあってイメージアップにもつながるから、それが良いね! 』という、あまり論理的でない意見が通ったらしく、私、篠原昭子に、お鉢が回ってきたようだ。
出向が発表になってから社内では、「同期初の役員じゃないか、出世コースだ、俺も呼んでくれよ!」とか「篠原先輩、上海に(遊びに)行く時は、泊めてください」とか、人ごとだと思って適当な事を言ってくる。
日本企業は、一旦、外に出たら目立った成果を上げないと、なかなか本社に戻って来られない、というのをビジネス雑誌で読んだことがあるけど、実際はどうなんだろう?
上海子会社での実務は、現地のベテラン中国人の総経理が切り盛りしており、今までは取締役会の時にしか上海に来なかった本社の部長クラスの代わりに、若い(子会社の社長としてです、自分の年齢は自覚しております)日本人女性を社長として現地に駐在させてどうなるのか? という疑問は残るが辞令も出て、職場の壮行会も終わり快く上海へ赴任するよう心がけている。
中国と言っても上海だと飛行機で3時間程で、空港も東京からだと成田-
中国子会社のオフィスは新天地の通りの向かい側にある高層ビルの43階で、出張の時に何度か立ち寄ったことがあるが、ビルに地下鉄が直結しており、車回しにはいつもタクシーが停まっていて不便はない。
上海の中心街の中では普通のオフィスビルで、1階にスターバックスがあり、日本では閉店したハーゲンダッツショップもある、以前、秋に訪問した時にはディスプレイに大きく『月餅 冰激凌』と表示されており、ディスプレイの画像から想像すると、おそらく月餅っぽい? アイスクリームだったと思う。
今度、秋になったら食べてみよう。
住まいは、総経理が独身の私に気を遣ってくれたのか、オフィスから2駅となりの外国人向けアパートメントホテルを用意してくれた。
おかげで衣類と身の回りのもの以外は中国へ持って行く必要がなく、都内のワンルームマンションは家財道具他一切をそのままにしたまま。住民票は抜いたけど。
会社の借上社宅扱いだけど、こっち(上海)にいる間の社宅代とかは、どうなるのだろう?
赴任前にバタバタしていて聞き忘れていた、今度、人事部に確認してみよう。
社内規定には無いけど、昔からの習慣で海外赴任と赴任終了の時は、行き先にかかわらずビジネスクラスを使えるらしい。
今回は成田-浦東のJALを選んだ。
機内のビジネスクラスの席は、たまたまなのか、
度々来てもらうのは悪いから置いておくように頼んだら、隣座席のトレイテーブルを引き出して、氷の入ったバケットにフルボトルを置いていった。そんなに飲んだら、到着してから現地幹部との歓迎会に出席できなくなるんだけど。
空港に着いたら、現地の社有車で迎えがあるはずだけど、上海の道路事情はますます悪いから、空港から市内中心まで果たして、予定どおりに着くのか分からない。
まあ、アジア圏で日本人のように時間をキチンキチンと守る国はないから、気楽だけど。
2ホイールで使いやすいわけでもないけど、何となく使い続けている。
京都に行ったとき、貴船神社で買ってバッグに張り続けている馬のシール『何事もうまくいく』に、見送りのアテンダントが反応する。
「貴船神社ですね、あそこの川床料理、夏に行くといいですよね」
「あっ、そうですね」
と、差し障りのない返事をする。
たぶんアテンダントは貴船荘のことを言っているのだと思うけど、シーズン中は予約が必要だし、先に貴船神社の方に行ったから、途中の道をお店の人が1人で、往来する車に気をつけながら、両手で料理を運んでいるのを見て、行く気が失せた。
(いやほんと、センターラインの無い狭い道とはいえ、観光客の車がいっぱい通るし、横断歩道のない道を両手に料理を持ちながら、往復しているんです。夏の暑いときも)
預けた荷物もないので、出国ゲートを問題なく(中国大使館でZビザ取得済み)通過して、エスカレーターを降りたところにある、エクスチェンジで2万円ほど両替する。余り使うことも無いと思うけど、何となく現金も持っていた方が安心する。
出たところに名前を書いた紙を持った人が、いっぱい立っている。自分の名前を探すと名前を確認する前に、会社の名前が目立つ看板を見つけた。おそらく会社のドライバーだと思う。
近寄って「
おそらく、私の発音が悪くて、余りよく分からなかったのだと思うけど、自分が迎えに来た人物だと思って、車に向かっているのだろう(会社の看板だったので、人さらいではないと思う)。
200メートル程歩いて空港の駐車場に停めてある、ホンダマークのある濃紺のクーペ風のSUV車にたどり着いた。
この車の生産にも、うちの会社のロボットが関わっているのかな? と考える。
運転手が、テールゲートを開けて、スーツケースを入れてくれる。
『UR-V』のバッジが付けられている。
CR-Vの中国版かと思いつつ、よく見ると幅も広いし、乗ると内装はウッド、レザーっぽい(おそらく、それ風だと思うけど)。
車が動き始めてから、『UR-V』を検索してみる。Googleは使えないので、
検索結果は中文だが、ホンダが作っている中国専用車種であることは分かった。
広州市で大きなホンダの工場を見たことがある、あそこで作っているのかな?
すぐ高速道路に入り、運転手が飛ばす、飛ばす。
乗り心地もよく、パワーもありそう。この車は中国国内専用かな? と思いながら外を見ると、いつもの通り高速道路から建築中の高層ビルがあちらこちらに見えて来る。
中国の他の都市でも見かけるけど、ビルの建設現場の足場が竹なのは、いまだに理解不能。
中国三千年の歴史? 中国人にそれを言うと、必ず『四千年』と訂正されるのだけど。
思っていたより、道路は空いており、歓迎会場所の『
以前、出張で来たときに出入口に有名人(?)の写真がいっぱい貼ってあるのを見つけて見ていると日本人では、中田英寿氏が店長らしき人と写真に収まっていた。
日本の有名人も、海外での撮影は嫌がらないのだろうか?
運転手の仕事はここまでらしく、スーツケースを下ろされた。
載せていることを忘れて、そのまま帰られるより良いけど、ここの古くて足下が悪い通りで、キャスターバッグを引くのは結構大変。
店に入ると、総経理の
店員と話をして、スーツケースは店が預かってくれるとのこと。
久しぶりに来たけど、店の様子は相変わらず。
広々とした吹き抜けのホールはそのままで、全体的にガチャガチャした雰囲気が、この店では気にならないのが不思議。
窓際の個室を用意してくれていた。
部長クラス4人と挨拶をする、上海の事務所で見覚えのある人もいる。
上海子会社の事務所には、若い日本人駐在員も数名いるが、今日は出席していない模様。
ステータスごとに、はっきり分けるのは日系企業とはいえ中国の会社っぽい。
出席している中国人は、全員、私より年上(中にはかなり上の人もいる)だけど、私の肩書きが董事長のためか、みなさんとても丁寧に接してくる、しばらくは、お客さんモードが続くのだろなぁ。
上海は
内陸に入ると、かなりの頻度で、
お決まりの「
肩書き文化のせいか、そういった席でビジネスパートナーとして見られると男性女性関係なく、遠慮せず干杯や英語での会話が進む。ビジネスライクでスッキリするけど、それに対応できる気力と体力(酒力も)が必要だと出張から帰国するたびに感じていたけど、今回は出張ではないのでペース配分が未だ分からない。
ただ、
王さんは、メニューをパラパラめくりながら、
少しすると、
王さんたちは、一応それを見て、足のタグも確認して「
前も思ったのだが、あの樹脂タグは意味があるのか? あれには上海製? と書かれているのか、未だに分からない。
それを聞いてから、
この店はちゃんとした上海蟹で料理をしますよ、という店の宣言みたいなものかと。
王さん以外の出席者も、私に気を使い「どこに住む予定ですか?」とか「中国料理は大丈夫か?」とかを日本語で聞いてきてくれる。
中国赴任まで、即席の中国語勉強しか出来なかったので(会社指示で2時間、週3日、1ヶ月間ベルリッツに通ったのだが、発音が…)、ゆっくりとした日本語で受け答えをする。
明日から毎日顔を合わせることになり、込み入った話をしても、先々やりにくくなると困るので差し障りのない受け答えに留める。
料理も一通り出て、時間も9時を過ぎたところで、散会することとなった。
日本人駐在員がいると、私も二次会に誘われるが(さすがに日式カラオケへの誘いはない、行ったことはあるけど)、今日は私以外、全員中国人なのでその予定は無いようで助かる。
王さんがタクシー呼んでくれて、今日は予約してあるホテルに泊まる。
赴任一日めから、アパートメントホテルでは勝手が分からないから。
店の前で、みんなに見送ってもらう、彼らは、このあとどこかに出掛けるのかな?
20分ほどで、花園飯店に到着した。
タクシーの支払いは、上海Suica、で。
正確な和訳は『上海交通カード』と言うらしいのだが、面倒なので、上海Suicaと読んでいて、現地従業員にもそれで通じる。
日本に行ったことのある従業員も多く、彼らのほとんどは『東京Suica』を持っていると思う。
フロントで予約のシート(王総経理が事前にemailに添付してきたPDFをプリントアウトしたもの)とパスポートを提出し、パスポートと部屋のカードキー、朝食券を受け取る。
待っているボーイにカードキーとスーツケースを渡し、あとをついていく。
エレベーターで17階へ上がり、ガーデン側の部屋に案内される。
随分前になるが北京オリンピック開催中に上海へ出張した時、ここは関係ないだろうと思っていたら、花園飯店のエレベーターホールに人民軍が長い銃を持って立っていたのには驚いた。
その日は遅くまで飲んで、ホテルに着いた時、足がふらついていたのに、それを見て一気に酔いが醒めた。
後で知ったのだが、上海も競技会場になっていたらしい。
北京と上海では遠すぎると思うのだけど。
コートとスーツをクローゼットにかけ、シャワーを浴びる。
バスタブにお湯を貯めるのはパス。
日系ホテルなのに、前に泊まったとき、バスタブに貯めたお湯が茶色かったのは何でだろう?
バスローブを着て、冷蔵庫のミネラルウォーターを飲みながら、壁掛TVをつけて、NHK BSでニュースを見る。
今日、上海に来たばかりなので目新しいニュースはない。
ベッドにあるパジャマもどきに着替え、スマートフォンの目覚ましをセットしてベッドに横になる。
今日は、そんなに飲んでいないけど、明日から部下になる現地スタッフとの懇親会で少し緊張したのか、急に眠くなり、部屋のライトを全部消す前に眠ってしまった。
(夜中におトイレに起きた時、足元灯以外は全部消しました)
* *
部屋が明るい? 昨晩は厚いカーテンを閉めなかったんだった。
スマートフォンの目覚ましが鳴る10分前なので、起きることにする。
レースのカーテンを開けてみる。
えっ! チョット待ってよ。
ここはどこ?
昨日、寝る前に見た、遠くまで続く高層ビルの夜景、下を見るとライティングされてホテルの庭、だったはずの景色が、一夜明けると……
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