so2三題噺
@pocketwatch
「爆発」「優待券」「トパ街民」
「参ったな、こりゃ…」
今にも破裂しそうな倉庫を見つめて、青年はため息をついた。
青年はここトパーズ街で店を構えて商売をしている。最近は店も軌道に乗ってきて、つい先日より多くの商品を保管できるように改装したばかりである。
彼のスタイルは「商人」であり、「職人」であった。素材から道具まで、あらゆるものを極力自分で用意し、求められている品を作り上げる。そのぶん価格も抑えられるし、イチから作り上げたと言う達成感が何より彼の自尊心を満たすのだった。
そんな彼は今、遠くない未来に訪れるはずの商機に備えて商品を準備している最中だったのだが、 ついうっかり 呼び出す妖精を間違えてしまったのだ。それに気付いたのは、倉庫の中で響く爆発音に驚き振り返り、すっかり膨らんだ倉庫を見た後だった。
しばし呆然としていた青年だったが、やがて事態を立て直すために戦略を練り始めた。
(まず状況を整理しよう。今指示を出せる妖精は1妖精のみ。次の作業をするには材料が足りないし、棚は埋まっている…)
せめて販売棚に1枠の空きがあれば。そんな彼の願いが届いたのか、僥倖が舞い降りた。さわやかな笑顔を浮かべたダンディなおじさんが、店頭に残された最後の木製家具を手に取ったのだ。
「これください」
「マイドアリー ウリキレダゾ」
(成った…!)
自分の技術が認められた事実に小さな喜びを感じながら、素早く状況を判断し、行動を決める。
(一旦道具を並べるしかないか、仕方ない)
次の作業で使う予定で作った炉を、一瞬で値をつけられる10000Gで素早く販売棚に飛ばす。
予定していた妖精を呼び出し、成果物を受け取った瞬間。
ふと、嫌な予感がした。
急いで炉を回収しようと販売棚を見た、その時。
さわやかな笑顔を浮かべたダンディなおじさんが、店頭に並べられたばかりの炉を手に取ったのだ。
「これください」
「マイドー」
(馬鹿な…!)
自分の技術が認められすぎた事実に軽く絶望を感じながら、とりあえず炉を回収し、状況を見つめ直す。
(どうなってんだ、この街の住民の金銭感覚は…っ!)
次の作業で使う予定で作った炉は、一瞬で1基だけ買われてしまい、生憎材料は保管庫の中である。
予定していた作業を行えば、中途半端に残った材料が倉庫を圧迫し、その後の妖精を受け入れることができなくなる。
他の商品が売り切れる気配は、ない。
(どうすればいい、どうすれば…!)
彼の思考も今や爆発寸前であった。
商品を必要以上の捨て値で売ることも。目指した完成品でない、材料の段階で売ることも。何もせず指を咥えてみすみす商機を見逃すことも。勿論、商品を廃棄することも。
彼の商人としての、あるいは職人としてのプライドが許さなかった。もししてしまえば、自分のアイデンティティが崩壊してしまうような気さえした。
だが、状況はそのどれかを選ばざるを得ないように思えた。再び僥倖が舞い降りるような、神の加護でもなければ、もはや選択の予知などないのだと。
(何か、何かこの状況を打破できる、起死回生の一手になる手段は…!)
そして彼が選んだ道は…
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