ただ降りしきる雨に

人間 越

ただ降りしきる雨に

 駐輪場の屋根を叩く激しい雨音に目が覚めた。

 窓に面して配置されたベットで寝ているものだから、窓を開けて寝ていればその音はダイレクトに入ってくる。

 時刻は午前四時半。もちろん、予定にない起床だ。やるせない。


「……あー、昨日は涼しかったからな」


 梅雨入りがニュースで報じらたのが三日前。梅雨入りしたとはいえ、四六時中雨が降り続けるわけじゃない。現に昨晩、雨はやんでいた。ボチボチ夏が近づいてきたなと感じ、エアコンフィルターの掃除を済ませ、連日稼働。しかし、本番は間違いなくこれから来る夏真っ盛りだから、それまでの小休止と実家では梅雨時期にエアコンを使わないようにしていた。おかげで、じめじめした不快感が梅雨にこびりついたのだが。

 とはいえ、今は実家を出て一人暮らし。

 もう一度眠る気もしないので、窓を閉めるとベットから這い出し、エアコンの除湿機能を付ける。

 休ませてやるだとか、モノに対してまるで人のような気遣いをすることのなんと馬鹿馬鹿しい事だろう。心無い感想だ。分かっている。であるならば、雨のせいだ。人様の安眠を妨げた雨の。

 戸を開けて外に出る。

 大学進学に伴い始めた一人暮らし。借りたのは小さなアパートで、廊下の先には騒音の根源である駐輪場の屋根があった。あれが雨音の増幅器だ。まあ、元を辿れば悪いのはすべて雨だ。


「――――!」


 不満をぶちまける。

 しかしそれは激しい雨音にすべて掻き消された。

 雨にはいい思い出がない。

 それは俺の人生の悪いことが全て雨の日に起こっているからだろう。

 留年が決まった日も、彼女にフラれた日も、バイトがクビになった日も、不合格を言い渡された日も、全て雨だった。


「――! ――! ――!」


 思い出せる不満をすべて吐き出す。

 その悉くが誰かに届くことなく掻き消された。


「――はぁ。はぁ、はぁ……」


 頬を拭う。これが汗なのか、手すりに弾かれた雨なのか、分からない。

 汗か涙か、いずれにせよ俺の感情に起因した生体反応の有無すらも掻き消す。

 気が付けば雨は止んでいた。


「通り雨かよ、まったく」

 

 不満も苛立ちも、全てを受け止めて持っていく。

 そんな雨のことが俺は『嫌い』だ。

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