スメル男――原田宗典

◎東京全都を嘔吐させる臭さ?

◎ユーモア+後半は生きるか死ぬかの大活劇


 肉親を失った精神的ショックにより、嗅覚が麻痺した主人公。独りきりで、生きる気力も失った彼に、追い討ちをかけるようにさらに非情な事態が襲う。

 彼の体から、近づいた者を容赦なく嘔吐させるほどの異臭が漂い始めたのだ。

 匂いを感じない彼が、都内全域に及ぶほどの異臭を発生させる。自分が傍にいるだけで、周りの人間は顔をしかめ、苦しんでいく。この特異体質を記事にしようと意気揚々と乗り込んできた記者まで、嘔吐させる。


 原因不明の事態により慌てふためく主人公の様子が面白可笑しく描かれる前半部だが、後半は親友の死の謎を究明していくことにより事件に巻き込まれ奔走する。

 彼の救いは、こんな体になってもまだ味方でいてくれる、数少ない仲間たちがいることだ。仲間のため、そして体から発せられる異臭を消すため、鼻の利かない彼が立ち上がる。

 苦しい時にこそ傍にいてくれる人が本当に大切な存在だと、思い出させてくれる。生きる意味を見い出し、「匂い」を取り戻すまでの、一人の男の冒険物語。

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