第10話 厄日が十日間で圧縮されて起きる
気が緩んでしまったのよね。当時、コンテスト参加のためのエッセイを書いていてね。その騒動を個人特定をぼかして感想を書いたの。
「不正は無かったのに、こんなことになって残念です。誤解させるような発言をした管理人も、流出させた人がいたことも、突然Slackを閉鎖してしまったことも」みたいな感じで。
すると、また速攻で赤原さんから連絡がきたの。アップして二時間もしていないし、閲覧数も十か二十かってタイミングで。
「藤井さんから連絡を受けてエッセイを拝見しました。荒唐無稽な内容に断固抗議し、削除を要求します。
『ここにいる皆が読んで評価を入れれば単純計算で数十個になります。頑張りましょう』
『複アカにより評価が消えた方は申し出てください、皆で助け合いましょう』
私も他の参加者もこのような発言は一切しておりません。
むしろその逆で、私はいわゆる相互評価の相談がSlack内で一切生じないように耐えず目を光らせていました。
事実を恣意的に捻じ曲げ、参加者全員をおとしめる設認を拡散させるなんて言語道断です。
即刻削除して頂けないのであれば、貴方を掲示板住人側に与して私の周囲のユーザーを攻撃する人物と認定し、藤井先生と連携して問題提起を行います」
……また嘘をついている、と思ったわね。うろ覚えで書いた部分もあるけど皆で助け合い云々は言っていたのに。しかも脅迫すれすれの削除要求。
これは逆らってはいけない、私がユダと認定されてしまうと即刻削除してTwitterにも「抗議があったため、さきほどのエッセイは削除し十五話は欠番になりました」とだけお知らせしてね。
わずかながら読んでくれたユーザーは「あの内容で抗議?」「ずいぶんと神経質だね」と言ってくれたのだけど。
で、削除直後に赤原さんから連絡がきたの。本当にパソコンに二十四時間張り付いているのではないのかしら。
「貴方がどういう人物であるのかは、先日の件と今回の件を経て十分に理解しました。
今後は藤井先生と連携して貴方を要注意人物としてマークするとともに、今後私が主催する交流の場には貴方は一切立ち入らせません。
互いの信用で成り立っているはずの創作仲間の集まりよりも、悪意ある者達の匿名の声の方を優先的に信じる方とは交流は出来ません。
私や藤井先生、その周りの方々を批判・中傷するツイート等が見られた場合、それが名指しであれ伏せてのものであれ、直ちに我々への攻撃とみなし対処しますのでお含み置き下さい」
いや、絶縁はいいのよ。なんで二人ともこんなに攻撃的なの。先日の抗議にだんまりだったのに、恨む要因にすり替わっているし。むしろ掲示板の『赤原と藤井はヤバい奴』だけは真実だったと悟ってね。
その二日後にね、掲示板に書き込みがあった。
『四条のオフ会に出た白い服に眼鏡の小太りのドラッグストア店員。赤いチェックのテーブルに居た女。赤原は許しても先生は許さない。震えて眠れ。貴様の後はつけて住所は特定してある』
平日だったけど、「急用ができた」と早引けして警察へ駆け込んだわよ。「殺害予告された」って。
でもねえ、警察はだめね。IT相談なのに「手元のパソコンから観ることはできないからURL言われても困る」「小説投稿サイト? Slack?」というレベルでね。私より若い警察官も知らないのよ。
日本のサイバーセキュリティが駄目な理由の一端が垣間見えたわ。
なんとか一部始終を話したら担当さんも上司さんもポカーンとしていたわ。
「恨まれた理由がそのフォックスハウンドさん関連とエッセイだけ? 本当にそれだけ? また変な人に狙われましたね」と言ってくれたけど、「はっきりした脅迫ではないから動けない」と言われて。今は法律も警察もずいぶんと改善されたけど、本当に当時はダメだった。
運営にも通報はもちろんしたわよ? でもテンプレートのお返事すら来なくて握りつぶされたような感じ。
巻き添えくらわすといけないから四条さんと鴇田さんに事情を話して。
でも、二人の反応が変だなって。鴇田さんはこのことを知っていたの。「知り合いからスクショ送られて心配されたけど、私ではなく竜田ageさんとすぐわかった」って。脅迫されているのを知りながら忠告せずに放置されたの? って。まあ、こちらが思うほど仲が良くなかったのね、きっと。
時系列的にオフ会に出てSlackにいた人はほんの二、三人なのにと私が言うと「で、でもシンパがスクショして回したのかもしれないし」といやに赤原さんを庇うようなことを言うの。
四条さんも警察へ行く旨を話して「注意喚起だけして貰えませんか」と頼んだら「犯人が誰か分からない以上、それは難しいです」と。
直感でしかないけど、この人達も赤原さんとズブズブの関係だ、関わるのをよそうと思って。表向きは「しばらく隠遁生活に入りますから」とTwitterに鍵をかけたの。一時的にフォロー外したり。
すると掲示板には「竜田ageは鍵をかけやがった。裏で何を話してるのだ」「竜田ageは小太りの女。赤原のSlackに潜入したスパイだがバレて追放された」とか粘着が始まって。「竜田age、ここに書き込むなら堂々と言え!」などなど。だから掲示板はウイルス拾いそうだから書いてないのに。反論すら書けない。
しかも容姿攻撃しているということはあちらには顔割れしてるし。
悪いことは重なるもので、相談しようとした上司が職場で心筋梗塞で倒れて亡くなって。
それを目の当たりにしたから、流石に参ってしばらく精神科へ通ってたわ。
でも、そのままかつてのユーザーたちみたいに追い出されたり、逃げるのは負けだと謎の対抗心はあってね。被害者いっぱいいたのよ。批判したら粘着されて退会した人は数えきれないわね。
だから『不正に立ち向かうプロ作家たち』という作品を書いたわ。
それがささやかな抵抗だった。少なくとも心は折られてないぞというアピールもあったかな。それは短編部門の1次は通ったのだけど、最終はダメだった。赤原さんのは怪しい評価の長編は通ってたけど、複アカを題材にした短編は落ちてた。なんとなく一矢報いた気になったわね。
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