Web小説の闇

達見ゆう

第1話 とあるカフェにて

 あれ? 君も小説を書いてるの? あ、ごめんなさい、いきなり声をかけてしまって。私もそうだからつい仲間のような気がして。

あら? その顔は「こんなおばちゃんが?」と言いたげね。まあ、いくつになっても目指せるのがこの職業のいいところよ。今からスポーツ選手になるなんてより遥かに現実味あるからね。

 君は大学生か就職して二、三年って所かしら。いいわね、私よりも執筆時間は長いから沢山読んで、沢山書いてみれば。チャンスは私より沢山あるわよ。

 今はとても便利よね。昭和や平成初期くらいまでは小説家になりたければ出版社へ原稿の持ち込みや公募への申し込みするなどと、ハードルが高かったのよ。原稿も手書きだけなんてあって、ワープロができた時は嬉しかったわ。ああ、いけない。今どきの人はワープロなんて言われてもタイプライターと同じ骨董品よね。


 でも、平成後期になってネットが普及して小説投稿サイトが現れてからずいぶんと手軽に発表や新人賞に応募できるようになったわ。でもねぇ、お手軽な分、いわゆる駄作も増えたし、裏というか闇も深かったの。


 飲み物を奢るからちょっと昔話をもう少し付き合ってくれないかしら。これは、私が経験した事。あまりにも理解不能なことが多くてあれは夢だったのではないか、彼らは実は存在しなかったのでは無いかと思うこともあるかな。でも、一部の人の本は検索すると出てくるから現実なのよね。

 でも、私も全てを知っている訳では無いので話半分……うーん、ミステリかホラーのネタ提供くらいの感覚で聞いてね。

 元々書くのは好きだったの。でも、文章力は平成のラノベ並み、ラノベはブームの時ですらすぐに絶版して作家は使い捨てられる激戦区。ためらいながら普通に就職してうん十年、その投稿サイトを知って創作を再びしたくなったの。

 たくさんあったけど、一番大手のサイトは異世界転生や異世界転移ものばかりでね、おばちゃんは書けなかった。そんな時に知ったのが出版社が運営している小説投稿サイト「WriteRead」。これは今の名前で昔は日本語だったかな、カク……ま、それは置いといて。って、あら、あなたもそのエディタから「WriteRead」なのね。

 とにかく、こんな手軽な発表方法があるのか、と一般的な小説とWeb小説との違いがよく分からないまま私は会員登録して、宣伝もする為にTwitterアカウントと紐付けをした。

 Twitterも創作アカウントが沢山あってね、「〇〇@創作サイト名」が多かったので片っ端からフォローしたの。

 短編をちょこちょこ書いて発表したり、少ないながらも評価やコメント貰えたり、他の作家さんと交流できて楽しかったわね。特にね、あるグループというのかしら、毎日のようにTwitterでワイワイして創作談義からパロディネタ話まで賑やかで、楽しそうにやり取りしていて自然と彼らの小説を読むようになったわ。


 どれも面白かったなあ。異世界で格闘技で挑んだり、現実世界の知識で異世界で活躍したり。


 特にリーダー格だった「赤原かしわ」さんがいろんな自主企画立てていたから応募してみたりね。

 Web小説って変わった名前が多いわよね。その人も鳥が大好きだから野鳥の「アカハラ」と鶏肉の「かしわ」から付けたんですって。私も鶏肉好きで当時のペンネームは「竜田age」。笑っちゃうくらい単純でダサいでしょ。今は恥ずかしいから改名したけどね。 え? 今のペンネーム? 恥ずかしいから内緒。

 いろんな人がいたなあ。Twitterから会社員している人やコンサルタント、公務員。学生。日常だと知り合わない人達ばかり。かと思えば私よりも年上の人がいてびっくりしたり。

 創作談議に加わらせて貰ったり、楽しかったなあ。

 今? まあ、焦んなさんな。飲み物のお代わり来たし、話はこれから本番なのよ。



 



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