KILLER × KILLER FALLs 【キラー×キラーフォール】

赤澤阿礼

プロローグ あなたに出会う五分前

自分がどこにいるかもわからなくなってきた。


 延々と続く暗闇の中を進んでいると、まるで自分の心の内を覗いているような錯覚に陥おちいる。半なかば悟りでも開けるかもな、と思った矢先、待ち望んでいた青く輝く星が見えてきた。

 わたしが乗っているこの船はキラキラと輝きながら、もうすぐこの星に落ちようとしていた。


「あぁぁ〜、マズったなぁ。あんまり降りるときのこと考えてなかったよ」


 船内にエマージェンシーを伝える音が響く中、わたしは呟く。


 どうやら、この船には地面に降り立つ備えがないらしい。具体的には重力調整装置が備わっていないと見える。


 確かに考えなしに飛び出してきた。ここまで自分が冷静でいられなくなっていると思うと、やはり『あの家』は、『あの星』は、自分をおかしくさせるのだと再認識する。


 ーー遠くへ、行かなくては。


『あの家』から離れなくては。


『あの星』の、外へ行かなくては。


 目の届かないところへ、逃げなくては。

 それでも追いかけてくるだろうか。

 己の役割からは逃げられないと、運命には抗えないと、わたしに現実を突きつけるのだろうか――。


 それでもーー少しの間だけでもいい。この青い星で、錆びた鉄のような血の匂いを嗅ぐことなく、穏やかな時を過ごせたら。

 誰かと出会って、楽しい話ができたのなら。それはどんなに素敵なことだろう――。


「穏やかなひとときを過ごすためには! まず! この状況をなんとかしなくちゃ!」


 わたしは周りを見渡す。ゴチャゴチャとした船の中はそう広くはない。人一人がようやく寝転がれるような造りになっている。

 その中で生きる手段を探す。非常用の乗り物なのだから、脱出装置のようなものがどこかにあるはずなのだ。



 ーー落ち着け。落ち着け。生きるんだ。


 幸せを知る前に、死ぬわけにはいかない。


 そう、誰だって死にたくない。死にたくないはずだ――。


 そう考えて、心にチクリと棘が刺さる。冷たさのような感覚が体中に広がっていった。


「死にたく、なかったよなぁ……みんな」


 思い出してしまう。皆が自分を見るあの目が、恐怖の声が、頭の中にこびりついて消えない。

 やはりもうあんなことはしたくないと思った。

 そして少しだけ、自分は死んだ方がいいのかもしれないと思うのだった。


 ーーだけど、生きたい。ごめんなさい。


 自分勝手なのは分かっている。

 それでも願った。願ってしまった。償いができるかすらわからないけれど、だけど、少しでいい、ほんの少しだけでもいい。


「幸せに、なりたい。」


 それは本当に我が儘で傲慢だけど、どうしようもない願いだった。

 呟いて船内をまさぐるうちに、生きる手段を見つけた。脱出の手段。体に装着するタイプの脱出装置だ。説明書を見ると、装着すれば周りの重力を調整し、落下の衝撃を和らげてくれるもののようだった。

 しかし、非常用だけあって安全とは言えない。しばらくは生身で空を落ちていくことにはなるだろう。 だが「わたしなら」死ぬことはない。


 少し安心できた。そしてわたしはしばらく、無理やりに楽しいことを考えて青い星を見た。深い黒の中に浮かび上がる青い星は、沈む心を躍らせる。


 この星に降り立てば何かが変わると期待してしまう。


 何の根拠もないけれど。

 ただの夢想かもしれないけれど。

 わたしはここでーー誰かに、会える気がした。

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