ホットサンド
@Jing1
第1話 ホットサンド
「否定も肯定もない世界より、否定と肯定が等しく存在する世界の方がずっと良いわ。」
彼女はそう言うと、最後のホットサンドにサクりとかぶりついた。
何故そんな話になったのか、今となっては思い出せない。
しかし、パン屑を無邪気に食べこぼしながら、昨日見たゴシップニュースのことでも話すかのように、世界へ文句を言う彼女の歪んだ美しさは、私の海馬へと鮮明に刻み印されている。
彼女が死んで1か月。
この店のアイスコーヒーは随分と甘くなった気がする。
これじゃ前のようにシロップは必要なかったな、などと反省しつつ、グラスの底にたまった無色の液体をゆっくりと攪拌した。
グラスの汗でコースターがふやけ始めたころ、1人の女性が私のいる席へと突進してきた。
その女性は座るやいなや私に捲し立てた。
もう1か月にもなるのに何故まだあの子がトップにならないのか、いくら出したと思っている、とかなんとか他にも色々と叫んでいたが、あとの絶叫は人語の体をなしていなかった。
女性は一通り喚き散らしたあと、私のアイスコーヒーをガブガブと飲み干し、甘すぎる、と吐き捨ててグラスをテーブルに叩きつけた。
私は周辺から投げかけられる好奇の視線に居心地の悪さを覚えつつ、その女性に告げた。
「ご本人の努力もそうですが、そういう世界ではマネジメントも非常に重要なのではないですか?」
それを聞いた女性はグラスを私に投げつけ、喉からよくわからない音を発しながら店を後にした。
私は胸元でキャッチしたグラスの中が空なのを確かめ、安堵のため息をついた。
そういえば、あのとき彼女が飲んだアイスコーヒーも甘すぎたんだろうか。
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