第75話 番外 邪神チャンネル 後編

「さて、此方はルルイエに単騎突入したババア達の様子です、小脇に抱えて運んで来た相方が運搬時の振動で半死人と言った様子で砂浜に突っ伏して居ます」

 先程跳んで行った少女チームの画像に切り替わった、拡大された銀髪の少女に狐耳が生え、少女と言うには立派に成長して居る事に驚いたが、お狐様だし化けて居るのだろうと納得する、そして移動の際に小脇に抱えていた方の黒髪の少女は、割と雑に砂浜に放り出されて居る、折角の可愛い服なのに勿体無い。

「流石にあの移動方式は無理矢理でしたね? スマートさが感じられません」

「ですが既に此処はルルイエの神殿、その上に海流の関係で砂が溜まっただけの場所です、平たく言うとクトゥルフの領域内、長々と復帰を待って居られる状況では有りません」

「此処でババアが刀を取り出して、コレを使えと渡します、コレは鳴狐、魔物斬りの古刀、概念武双としては中々の業物です」

「対してババアも得物を手にしました、此方は小狐丸、狐が由来の武器としては最古参、千年の時を超えた古刀です、これまた中々の業物ですね」

 次々に業物の名前が出て来る、本物だったとしたら重要文化刀剣だけど、ほんとに本物だろうかとギラギラと刀身やら拵えを確認する。相方の方に渡したのは鳴狐で刀、本人が使って居るのは小狐丸? 比率考えると大太刀? まさかの刷り上げ無しの本物? 確かに国立博物館に置いて有ったのは贋物を示す影の文字が入って居たから、もしかすると最初から本人が持ってた?!

 本編とは関係の無い所で盛り上がる、成程、刀剣ネタでこれだけでも一冊書ける!

 思いがけない燃料に一人で湧く、刀剣女子は伊達じゃ無いのだ。

「刀を持った所で顔つきが変わりました、戦闘モードに切り替わったと言った所でしょうか」

 次の瞬間、唐突に砂の中から生えて来た巨大な触手に対して、予定調和と言った調子で二人の大立ち回りが始まる、

 砂の中から生えて来る触手はもとより、虚空から唐突に生えて来る触手の攻撃にもきっちり対応してかわして斬り飛ばす。

 成程、すり足メインで地面から足を離さずに、足元から生えてこようと立ち位置を変える事で対応して、跳んで躱す様な非効率な動きはしていない。

 殺陣としても資料に出来そうな、文字通り地に足の着いたちゃんとした動きだ。

「中々動きが良いですね?」

 画面の中で一瞬相方の少女と座標が被った瞬間、銀髪の少女がくるりと回って戦闘から離脱した。

 触手は離脱した方を意に介した様子も無く、戦場に残った相方の方に襲い掛かる。

「おおっと、此処でババア、相方の少年にターゲットを擦り付けた、流石ババア、ババア汚い!」

 解説が酷い。と言うか、少年?

「攻撃が集中しますが、少年は中々器用に対応して居ますね、此処まで強かったでしょうか?」

 少年呼びだが、映されて居るのは凛々しくも格好良く刀を振るう、奇麗でおしゃれな女の子だ。

「この少年、最近流行りの男の娘で、抱えた呪いが多すぎて、呪い除けの女装が止められずに今に至るそうです」

 なん・・・だと・・・

 男の娘?! そう言うのも有るのか……

 しかも実写で可愛いだと?!

「成程、中々特殊な特攻要素が乗って居ますね?」

「女装が特攻ですか?」

「あの触手は今現在半分寝ているクトゥルフの触手ですが、クトゥルフの語源を辿ると、この国では九頭竜(くとうりゅう)に行き付きます、そしてこの国の歴史、神話に置いて九頭の竜とは即ち八岐大蛇(ヤマタノオロチ)と成ります、コレを討伐したのは?」

「須佐之男命(スサノオノミコト)ですね?」

「はい、八岐大蛇討伐の際に、スサノオはクシナダヒメを櫛に変え、自らの装飾として戦いに挑みます、コレは所謂女装の始まりとされます」

「成程、と成ると女装はクトゥルフ退治の正装と成りますね?」

「特攻が付いて居るにしてもなかなか実行する事は無さそうですが、ここに来てぴたりとハマりましたね?」

「ババアの仕込みかも知れません、えげつないですねえ……」

 適当な事を延々とほざく這い寄る混沌達。相変わらずの爆笑一歩手前の笑みを浮かべて居る、色々楽しいらしい。

「おっと、此処でババアに動きが有りました」

 少女が虚空をぐっと握り締めて、一瞬のタメの後、勢い良く引っ張る動作をする。

『とっとと出てこい!! 引きこもりが!!』

 身も蓋も無い掛け声の字幕に合わせる様に、虚空から目測で数十メートルは在ろうかと言う巨大な緑色の蛸が出現した。

「おおっと、此処でババアがクトゥルフ本体を力づくで引っ張り出した?!」

「そして、何かを投げました、コレは、瓢箪(ひょうたん)?」

 そして、流れるような動きで古ぼけた瓢箪を投げつけると、狙い通りか、瓢箪が蛸の眉間の辺りに当たって割れる、そして、其の瓢箪からは想像できない大きさの赤いオオサンショウウオが現れて、其のまま張り付いた。

「そして、当たって? 割れた?」

「何か張り付きました、アレは一体?」

「赤いサンショウウオ、酒蟲ですね? 触れた液体を全て酒に変えます」

「アレに触れた液体と言うと……」

「体表の粘液と、クトゥルフ本体に傷があった場合、下手すると血液迄全部酒に成りますね?」

「……さっきアレ、八岐大蛇扱いって言いましたよね?」

「そうですね、酒に酔わせるのは特攻が乗ります」

 次の瞬間から、触手の動きが緩慢に、攻撃性と言う物が感じられない方向性の無い動きに変わって行った。

「ババアがガッツポーズを取りました、勝ち確と言う奴です、出てきた瞬間に勝負が決まりました!」

 実況しつつ、這い寄る混沌達が爆笑した。


「セミだって一鳴き位は出来そうなもんですが、之では余りにもアレなので、介入してみましょう」

 笑い終えたらしいチクタクマンがお腹を抱えつつ、これ見よがしに時計を構えてスタジオらしき場所から現場に現れる。

 ドヤ顔で時計を構えて、時計の龍頭を回すと、唐突に暗くなった、日蝕の時間にしたと言いたいらしい。

 まさかと思って外に目を向けると、空が暗く成って居た、まさか生中継?!

 そして、今度は少女が呆れ顔で時計を取り出すと、少女の時計とチクタクマンの時計が砂のように崩れ落ちた。

 驚愕の表情を浮かべたチクタクマンの首が、次の瞬間には宙を飛んでいた。

「ぶ、わはははははははははは!」

 スタジオに残って居た英知のニャルが爆笑する。

 対して、現場では先程より巨大化したクトゥルフ本体が起き上がり、触手を伸ばそうとした所で少女が触手を斬り飛ばし、何か、護符の様な物を張り付けた。

『三昧真火(さんまいしんか)』

 と、表示され。

『いあ! はすたあ!』

 字幕が表示され、竜巻の様な火柱が上がった。

 映像が乱れて、其の火柱が収まった時には蛸らしきモノ、クトゥルフ本体は何処にもいなかった。

「あのババア、仕込みと小細工必要あったんでしょうか?」

 ボロボロと言った様子のチクタクマンがスタジオに戻って来る、首の位置が決まらないのか、外したり付けたり、グルグル回したりと遊んでいる。

 首は取れているが、血は出ていないので、変な生々しさは無く、キグルミと言うかマネキンの首を付けたり外したりする様な気軽さしか無かった。コイツらの身体は飾りか何からしい。

「いやあ、ババアって本当に怖いですねぇ?」

 何処かで聞いたような台詞を吐いて居る。

「ではまた、何処かで、さいなら、さいなら、さいなら!」

 しつこくどこかで聞いたような台詞を吐きながら動画が終了した。


「邪神チャンネルを宜しく!」

 そんな事を言って居るが、投稿者も関連動画も謎状態で、次のリンク等は一切表示されて居なかった。

 とんでもないモノを見た気もするが、動画を見終わって見ると、何を見たのかは思い出せなかった、更に、履歴でもう一度見ようとしても、リピートボタンも何も効かず、履歴も何もなく、キャッシュ迄見つからず、痕跡と言う物は一切見つからなかった、只過ぎ去った時間だけがコレを見たんだと言う妙な実感を持って居た。


 後日、何か凄いのを見たと言う人は次々に話題に上がったのだが、今一内容がかみ合わず、良く分からない集団幻覚か何かだと処理された。

 そして、一部の人々に何か強烈なインスピレーションを投げつけたのか、その後の即売会イベントで、クトゥルフ神話系の島と、刀剣関係、オネショタ男の娘系の島が妙な盛り上がりを見せた事を追記して置く。




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