第64話 居残りサイド 管狐第二形態
部長、保視点
「凄いはしゃいでますね?」
海原に浮かぶ船の上、とんでもない勢いで、漫画か何かならドップラー効果の付いた叫び声を上げそうな態勢で、文字通り跳んで行った二人を他人事の様に見送りつつ呆然と呟いた。
まあ、文字通り跳んで行ったのは他人事なのだが、残った方は残った方で大変そうだ。
「葛様、直接暴れる系の依頼って少ないですしね? 溜まってたんでしょうか?」
一三さんが最早突っ込んで居られないと言う、真面目な様子で呟きつつ、服や鞄等の収納に仕込んでいたペンやら小箱やらを次々に開け始めた、開けた先から管狐がぬるりと出て来て実体化する。
「まあ、こっちもこっちで大変そうですが?」
葛様が威嚇して居た分で、水中から遠巻きに此方を観察していた深き者共(ディープスワンズ)が、プレッシャーの主が居なくなった事に気が付いてか、次々と浅い所に上がって来ているのが、蜂蜜酒で強化された視界と第六感に感じられる。
「かなりの数が……200ぐらいでしょうか?」
「其れ位は居ますね?」
一三さんが同意する、こう言った時の援護系情報処理役なので、その数字に間違いは無いのだろう。
一先ず武器である短槍を取り出し構えるが、曲がりなりにも半魚人、人間が水中で敵う相手では無いだろう、地下で苦労せずに一方的に狩れたのは、純粋に此方のホームグラウンドである地上にのこのこ上がって来たからであって、決して油断出来る相手では無いのだ。
「水中戦なんて出来ませんよ?」
甲板の上にのこのこ上がって来るなら兎も角、水中から金属武器を使ってスクリューやら船底を攻撃されてしまっては手も足も出ない。
「其れでこの子達の出番な訳です」
一三さんが何時に無く好戦的な様子で管狐達を整列させている、現在は小動物に見える管狐、現在の見た目には白兎の様な赤い眼の白いオコジョたちが小学生か軍隊のように75匹が奇麗に7x10列に並んで居る、動物番組か動画投稿サイトに投稿すれば確実に人気物にされそうな光景だ。
「とっておきの水中戦闘形態、行きますよ?」
一三さんが得意気に笑みを浮かべた。
一三視点
葛様が成長して大きくなった辺りで驚いたのか、白い腹を見せてジタバタと良く分からない動きをしていた管狐達が、葛様が居なくなってから『ふう、やれやれ』と言った調子で起き上がって来た。
まあ、この子達元からアルビノみたいに真っ白でお腹と言わずに尾も白いんですけどね?
管狐達が『ふっ、まだまだだな?』と言った様子の感情を乗せた変な笑みを浮かべて此方を見た。
五月蠅い、何がとは言わないけど五月蠅い。
「さあて、コッチはコッチで大変そうですね?」
管狐達を管から出して準備をする、最大数の75匹だ、私は能力的にキャパタシーが足り無い為、こうして全員を呼び出す状況と言うのはかなり珍しい。
「水中適応モード、合体成長オオカワウソさん」
指示に合わせて管狐達がそれぞれ10匹前後で固まって一つに融合する、何時もの常に出しているオコジョっぽい状態のは所謂省エネモード、全力陸上戦闘モードなら九尾成らぬ七尾の狐に成るのだが、水中戦闘モードは体長で1.5mクラスのオオカワウソに成るのだ。
何時もの可愛らしいオコジョの様な小動物系の可愛さは鳴りを潜め、ギラリと光る大きく血走った目と潰れた顔、ギザギザに尖った歯が印象的な、とても攻撃的な顔付きになる。
毛皮は密で、油で艶々で水に濡れても全て弾くので、結局全然濡れないと言う不思議な毛皮をしている。
「……くだ……ぎつね?」
保さんが呆然とツッコミを入れる。
「そのツッコミは100万回言われた位のお約束なので気にしない方向でお願いします」
「「「「「「「ハハハハハハハ」」」」」」」
オオカワウソさん達が揃って笑い声の様な鳴き声を上げる、保さんがビクリとひいた。初見ではびっくりするのも良く分かります。
「防衛戦お願いします、目標、水中のディープスワンズ、この船の防衛を最優先」
「「「「「「「ワハハハハハハハハ」」」」」」
返事するように笑い声を上げ、ポチャン、スルンと海中に身を沈めていく、オオカワウソモードは大きさがあるが、この子達の水音は恐ろしく静かだ。
水中で先発隊として浅い所に上がってきていたディープスの若い個体がオオカワウソ達に捕まる。
手足を噛み砕かれた2m近いディープスが次々と船の甲板に投げ込まれる。
「ワハハハハハハ」
後頼んだと言う感じの鳴き声を上げている。
「止めだけお願いします」
オオカワウソ達は水中で魚類に止めを刺すのは面倒だと判断して、止めは任せたとばかりに、止め刺し前段階の半死半生状態で甲板に放り込んで来るのだ。
「出番は有るようで何よりです……」
保さんが何とも言えない表情を浮かべつつ、半死半生でのた打ち回るディープスを的確に止め刺しをしていく。変な連携だが、人間では水中戦でどうやってもディープスに勝てないのでしょうがない。
因みにこの一連の流れは私の指示では無い、オオカワウソが自分達で考えて非常食として甲板に一時保存して置こうと考えて、こうして動けなくして投げ込んで居るのだ。
だが、何だかんだでちゃんと物に成りそうなので安心した。
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