第53話 メダカ屋の一日
「お、産卵始まってる」
屋上のメダカ養殖場にて、通年で入れて有る産卵床に卵が付いて居たので思わず呟く、産卵で無限増殖させて稼げる季節だ。
同時に梅雨やら線状降水帯、ゲリラ豪雨何かが多くなって、その方向でも対策をしないといけない時期だが、容器が深ければメダカ自身で空気を読んで底の方に移動するので、今夜も大雨な予報だが、言うほど気にする必要は無い。
「となると、先にアレの選別をやらんと成らんな」
去年の冬越しの際に飼育容器と場所が足りずに、うっかり混ぜてしまった卵や稚魚が有るのだ、基本色が違うだけの同種で有る為、ある程度育って、色や模様が出来上がって居ないとふるい分けが出来ずに、其のままでは雑種、マザリとして出荷することになってしまう為、流通価格がかなり下がってしまうのだ。
卵時点の雑種は更に二束三文だ、黒やヒメダカの様な顕性的に出る形質は兎も角、潜性的に出るヒレナガの形質や背鰭が腹側にも出るヒカリ体系の形質は、ホモ状態、所謂純系で育てないと発現しないので、念入りな選別が必要に成る。
三色系なんかは選別が多すぎて最早何が何だか分からない。
緑色の飼育水を其のまま屋上の床面にぶちまけて、同時に網でこし取ってメダカと其処に貯まって居たヘドロや卵だった物等を分離する、このヘドロは生き餌のミジンコやゾウリムシの培養に使えるのだが、既に産卵が始まって居る事から、卵から稚魚が孵って変な増え方をしてしまうので、別口にまとめて置く、雑種は雑種でメダカ沼の入り口に引きずり込むための撒き餌として重宝される為、安くても重要な物である。因みに、一般、ヒメダカ系の雑種は一匹30円ほど、ギラギラ光るミユキやラメ系の雑種は一匹100円程で売れない訳では無いのだ、尤も儲けが手間に合わないので何ともだが・・・
捨てた飼育水が何とも言えない匂いを発しているが、基本的に屋上に上がってくる人間はモノ好きしか居ないので気にする事も無い。
元から雨曝しの屋上なので汚れもそれほど気にする事は無いと言うのが楽で良い。
メダカは種類が多すぎて、飼育容器が無限増殖するのが困り物で、場所が足りないがメダカ沼に沈んだ者の宿命なので、こうして場所を確保できたのは行幸だ。
ビチビチ跳ねるメダカとヘドロを、更に目の粗い網で分離して、奇麗な水の入った選別容器に移す。
「えーっと、真っ白で背中が光るから白ミユキ、頭まで光ってるから鉄仮面、青っぽいから青ミユキ、灰色ベースで全身金属光沢だから、プラチナミユキ・・・」
元から居たか?そんな品種?と言う位に年々謎種類が増えて行く、だからこそ楽しいのだが。
「真っ黒だからオロチ、真っ黒で鰭が長いから、サタン、赤と黒の模様が出てて背骨が透けて見えるから、三色透明鱗・・・・・」
ブツブツ言いながら選別して行く。
「体色が緑っぽくて、ラメが乗ってるから、緑ラメ、いや、頭の辺りにもラメが乗って居るからグリーンティアラ? 薄いか? いいや緑で」
此処迄種類居ただろうか?
「夜桜ラメの茶、これは青、いや、サファイア?」
背鰭はあったっけ?
と言った感じに只管分ける。
「ん? べにほっぺ?」
透明な鱗で鰓蓋が透けて見えるので、頬が赤く見えるのだ。
「まあ良いや、こっちで」
此処迄来て安い品種には容器が足りないので、マザリに放り込む。
こう言った物は学園祭のメダカ掬いに出すか、近所の小学校に教材として寄贈(おしつけ)るかな? 程度の扱いの一群だ。因みにそこそこ喜ばれる。
「大蛇の横ラメ、ブラックダイヤ、こいつは楊貴妃の横ラメ?」
最早種類も特徴も有り過ぎて何が何だか分からない。
「奇麗に鰭が長いリアルロングフィン、ヒカリ体系の東天紅、おや、スモールアイ? 両目?」
珍し気な変異種が出て来た。目が小さく、視力が悪いので、餌食いや成長効率が悪く、色々管理が面倒な個体だ。緑水状態だったので栄養価は低いが餌は在って無事育ったと言う状態らしい。
「悪魔だったら美味しいけど・・・・・」
スモールアイにだけ発現する、目の色がちらちら変色するのが悪魔の形質だ、赤青緑と信号機の様に色が変わる物は数万単位で取引される。
因みに、色メダカのスモールと言うだけでその時点で数万である。
「流石に違うか」
そもそも、その悪魔の因子持ちは仕入れた覚えが無い、只のスモールアイは因子無しでも時々発現するので、そっちの変異だ。
因みに、透明な水で管理すると上記の理由から高確率で餓死する為、業者的にもかなり難儀な性質である。
「其のまま売るか・・・」
スマホで撮影して其のままオークションに流す、程無くしてお気に入り登録や入札がちらほら入って来る。
そんな通知を尻目に、選別を続ける。
「紅白三色にラメが乗る王華、色が少ない紅白ラメ、黒ミユキ歌舞伎強光ヒレナガ・・・・・」
黒ベースに背中が光る物だ。
「何処が黒だ?」
ほゞ真っ白に成って居る。
気が付いたら選別だけで小一時間過ぎていた。
「中々暇な趣味じゃな?」
葛様が何時の間にか上から見下ろして居た。
「やって見ると楽しいモノですよ?」
「儂には合わん、寝て居る内に全滅するからな?」
「そりゃまた、彼奴位放置しても生きてるようなのじゃ無いとどうしようもと言う事で?」
「そんな訳じゃな?」
「今は一人ですか?」
「何時も一緒に居る訳では無いからな?」
「所で、あいつの対価は足りてます?」
「儂が楽しんで居る内は平気じゃな? 毎日の飯が献上されとるし」
割と安めに運用出来て居る様だ、無意識でも神様の加護や守護には対価を要求される物なので、破綻すると色々怖い。
「所で、私達とは時間軸違いますけど、どれぐらい一緒に居る予定で?」
「そうじゃな? 死が二人を分かつまでかのう?」
「其れは又、ごちそうさまです」
其れなりに上手くやって居る様だ。
「何なら、来世もあるかもな?」
楽しそうに笑って居る。
「探せますか?」
輪廻の転生先を探すのは先ず無理だと思うが。
「探すと言うより、縁と言うか、業を結んだ方が楽じゃな? 後は勝手に引っ掛る」
年数はかかるがな? 的な事を小さく呟いて居た。
「そんなに引っ張れますか?」
「数百年単位で見れば、思ったよりはな? 意外と出会えるもんじゃぞ?」
タイムスケールが長すぎる様子だ。
「所で、あいつの呪いが薄くなってましたけど?」
去年の今頃には人が死にそうな呪いの量だったが、大分落ち着いて居る。
「そんな訳じゃ」
ニシシと笑って怪しい手の動きのジェスチャーをして居る、前回言って居た事其のまま実行したらしい。
「おめでとうございます、でも、そう成ると折角の業が呪いと業が薄くなってませんか?」
「まあ、後でどうにかするわい」
さあて、如何するかなあ? と言う様子で返して来る。まあ、円満そうで何よりだ。
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