第41話 暗闇の恐怖

 山の中、きさらぎ駅の結界を抜け、二人で話しながら線路後を歩いて居ると、ぽっかりと口を開けたトンネルに辿り着いた、何と言うか、何でも無い筈の目の前の暗闇が妙に怖い。

「地下って事は、黄泉の国、黄泉平坂(よもつひらさか)か、と成ると、振り返り禁止だね?」

 陽希さんは一人で納得した様子で、此方に指示を出す。

「あとコレ持ってて」

 先程拾った胡桃(くるみ)を大量に持たされた。拾って居るのは知って居たが、コレが出番らしい。

「怖いものが見えたら、コレをぶつけて、多分効くから、なんならこっちに投げても良いよ?」

「何で胡桃なんです?」

 変な事を言うなと思いながら、ポケットに詰め込みつつ聞く。

「本当なら魔除けに使える桃が一番良いんだけど、胡桃でも、名前に桃が付くから多分使えるかなって程度の話」

 いきなり頼りなくなった。

「桃の魔除けって?」

「イザナギとイザナミの黄泉下り、振り返る事を禁ずるって言う誓いを破って、イザナギが振り返って腐った身体を見て逃げ出して、怒ったイザナミが鬼に成って追い駆けた時に、イザナギが其処等辺に生ってた桃をぶつけて追い払う話」

「何と言うか、あらすじで聞くと身も蓋も無いですね・・・・」

 黄泉下りで振り返って呪われる迄は結構有名だが、桃を投げる話まで出て来るのは珍しい、少なくとも私は知らなかった。

「だからこそ桃太郎だし、魔除けの儀式なんかでは、依頼人の瞼に桃の果汁塗ったりもするよ?」

「べたべたしません?」

 的外れな言葉しか出て来なかった。

「濃度薄目だから気にしない方向だね?」

 律儀に返してくれる辺り、真面目で優しい人なのが良く分かる。

「そんな訳で、桃の字が入る木ノ実は、こう言った状態では特攻付き装備に成るよ?」

 自信満々に断言する。そんな物らしい。

「でもコレ、通るんですか?」

 照明も何もないトンネルはただただ暗くて、異様な圧迫感と威圧感を発して居る。

「山道通るよりは楽だね、反対側の出口は見えてるようだから、そんなに長くは無いはず」

 確かに反対側の出口は見えているようだ、ただし、真っ暗闇の先にだ。

 そう言って陽希さんはスマホのライトを点灯モードにして、ポケットに半分はみ出すようにして安全ピンで固定する。本当に準備が良い。

「それじゃあ、行こうか?」

 改めて手を繋いでトンネルの暗闇に足を踏み出した。

 ぞわり

 トンネルの暗闇に足を踏み入れた瞬間に肌が粟立った。

 寒い。

 陽希さんの足が慎重そうにゆっくりに成った、段々と闇に目が慣れて少しずつ暗くても見える様に成って来る、でも、其れでも暗かった。

 スマホ備え付けのLEDライトがある程度照らして居るが、其れでも心細さが勝る。

 明らかに空気が違う、何か居る?

 自分達の足音が狭い空間に反響するのだが、一拍遅れて余計な足音が増えている気がする。

 すぐ後ろに何かがいる気がする。

 思わず助けを求めようと、繋いでいる手を必死に握り締める。

 力いっぱい握り締めているのに、手の感覚が無い、確かに握りしめているし、目で見ても確かに繋いで居ると言うのに。

 何で?!

 思わず足元ばかり見て、俯いていた顔を上げ、私の命綱である陽希さんを顔を確認する。

 ひ!?

 何故か何か恐ろしいモノに見えた。

 其れが何なのかは分からない、ただ怖いと感じたのだ。

 自分でもよくわからないパニック状態に成っている、暗闇が怖いってこう言う事?

 自分の中に有る作家の属性が、そのパニックを一歩引いた所で見ていた。

 コツ

 ポケットに詰め込んでいた胡桃が手に当たった。

(怖かったらコレ投げて)

 同時に先程の言葉を思い出す。

 思わず胡桃を一粒手に取って、陽希さんらしきものに投げ付けた。


 コツン


 投げつけた胡桃が、陽希さんらしきモノに当たった。

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