第28話 無軌道に転がる物
前置き
うっかりこっちに投稿するのを忘れていたので結果的に順番が合ったと言うオチです。
「おはよ」
「おはよう」
「ぱんころー」
「ぱんころー」
?
紬と琥珀が謎の挨拶を交わす、いや、挨拶?
「何それ?」
「パンジャンころころだよ、流行ってるんだよ?」
「ぱんじゃん?」
「パンジャンドラムか? そんな英国面の失敗作を何で今更・・・・」
葛様が首を傾げる、何の事なのかは分かったらしいが。こちらには何の事だかわからない。
「ほらコレ」
紬がスマホでツービーの画面を出して再生を始める。
画面の中では誰もいない夜中の道路を悠々と転がる花火付きで直系3m程の巨大ボビンの様な物が映し出されていた、画面の中でソレはあっちにコロコロ、こっちにコロコロと火花を散らしつつガードレールにぶつかったりフラフラと移動していた、最終的に路肩に停まっている車に乗り上げ、横倒しになった所で爆発四散して跡形もなくなった。
周囲に火花が散り小火騒ぎと成り人々が集まってきた所で動画が終わった。
「今?」
呆然と呟く、背景が現代だ・・・
「投稿時間が昨日の深夜だからね、何だかこの頃深夜に毎日更新されてるの」
「これがパンジャン?」
「パンジャンドラム、第二次大戦の頃に海岸線に建てられたドイツの要塞に火薬満載でぶつける為に作られたエゲレス産の失敗兵器じゃな?」
葛様が記憶頼りと言う様子で解説してくれる。
「その通りです、詳しいですね?」
琥珀が感心した様子で正解と笑みを浮かべる。
「昔からネタにはなっとったからな」
当然と言った様子で胸を張る。
「姿勢制御装置も何も無しで火薬の推進力で転がすもんだからそもそもまっすぐ転がらないって言う愉快兵器です」
紬が補足説明を入れて来る。
「これが流行・・・・?」
かなり謎な流行だ。
「実際に被害が出てるから警察沙汰に成ってるってネットニュースで回って来てるの」
「なるほど・・・」
迷惑系配信者なのだろうか?
と、そんな会話をしたのが昼間の学校の事で・・・
放課後にどうしてくれようと言う表情で転がるボビンから二人で逃げ回る羽目に成って居た。
「あれってどういう処理すれば良いの?!」
「爆発すると道路痛めるから、極力空地まで誘導して斬り殺せ」
涼しい顔で横を走る部長がそんな質問に答えてくれる。
今回一緒に仕事をしろと組まれた相手が部長だった、同じ学校の学生が同業者と言う事には驚いたが、向こうは特に驚いた様子も無く、葛様とも知り合いの様なので、知らないのは自分だけだったのだろう。
重心移動が上手いのか、走って居るのに上半身がブレない、ナンバ走りの類だろうが、熟練度が高い。
「ほれほれ頑張れ♪」
上機嫌な調子で車を運転する葛様が無責任に声をかけつつ横を走り抜けていく。
かなり違和感の有る風景だが、免許証は持って居たので突っ込みを入れる必要は無い・・・
このパンジャンドラム、恐らく日本妖怪の輪入道が時代の流行と英国面に乗り、西洋かぶれした結果として変異した物で、妖怪として知名度が低過ぎると力と存在が薄まってしまう事から、ある程度目立ちたいと言う事が本能で有るので、時代に合わせてこうした妖怪も変異して行くものらしい。
因みに現象的な妖怪らしく、意思疎通は出来なかった。
で、近くに程良い速度で動く物が有ると、それに釣られる様に転がる為にこうして囮に成って居るのだ。
今回葛様は只の賑やかしである、そもそもよっぽどのことが無い限り手を貸してはくれない、自分から一撃入れたくなった時以外、気が進まない案件で実働隊としてカウントすると料金を取られるのだ。
この事から、本家の連中も葛様に頼ると言う事は最終手段としている。
因みに契約上は甲種の上の特種1級と言う一番上の扱いの為、仕事料がかなり高いらしい。
そもそも神様が気軽に神気を使う訳にも行かない事も有り、強いからと言って気軽にあてにすると酷い目に遭う。
結局、数キロ単位で追いかけられながら走り回り、市街地を抜けた所のカーブで空き地に向けてコースアウトさせ、問答無用で横一文字に一刀両断すると小規模に爆発して消えてなくなった。
どうやら炎の様に見える飾りの炎、陰火(いんか)と言う物だったらしい。
「爆発落ち何てサイテーと言うらしいな?」
葛様がニシシと言う感じの笑みを浮かべつつ、直ぐ近くに立って居た。
どんなツッコミを返すべきかと思ったが、ゼイゼイと息が切れて肩を上下させるのが精一杯だった。怪我も何もしていないのに口の中に血の味が広がっている。
「其処だ!」
片や息が上がって居ない部長が、不意に棒手裏剣を投げる。
「え?」
キン!
澄んだ金属音がして棒手裏剣が地面に落ちる。
「おや、バレた?」
軽い感じの女性らしい声が響く。
声の方を見ると、細いシルエットだけが確認できた。
「輪入道のアレ単品じゃ動画の撮影は出来ないだろうが・・・・」
当然と言った様子で部長がその存在にツッコミを入れる。
「そりゃそうだね? でもまた今度、ばいばーい」
何故か楽しそうに返事を返すと、其のまま居なくなった。
「ああいう阿呆も居るな?」
葛様が呆れ顔で呟いた。
「終わりですか?」
気が抜けて内心で崩れ落ちるが、此処で膝を付いたり地面に寝転がる様では、常在戦場の心構えが無いと言う無様を晒す事に成るので、精一杯のやせ我慢で立ったまま呼吸を整える。
何と言うか、身体が熱いのに指先が冷えて行くような良く分からない感触が有る。
「ほら、これでも飲め」
葛様がピトリと冷えた飲み物らしい缶を頬に押し付けて来る。
リアクション取る体力も無いので息を荒げながら飲み物の缶を受け取る、暗くて良く見えないが、色合いが青いのでスポーツドリンクだろうか?
「あり・・・がとう・・・ござい・・・ます・・・」
息も絶え絶えと言った様子の返事しか出なかった。
「ほれ、こっちも」
葛様が無造作に缶を放り投げると、部長も無造作に受け取っている。
「有り難うございます」
部長の方は特に息も切らして居ない、強いなこの人・・・
パキリとプルタブを起こして飲み始める。
一気に流し込むと、思ったより強い甘みと、どろりとしたのど越しに変な驚きが有るが、其のまま飲み込む。
何だこれ? と改めて手に持った缶の文字を確認すると、冷やし甘酒だった。
「甘酒だったんですね・・・」
呆然と呟く。
「糖分と栄養補給には最適解じゃぞ?」
当然じゃろう? と言う様子で自分も飲んでいた、特に珍しい事でも無いらしい。
部長の方も特に違和感も持たずにシャカシャカと良く振って開けて一息に流し込んで行く。
「飲む点滴ですしね」
部長も肯定している、そう言う物らしい。
「良く効くじゃろう?」
葛様が得意気に言う。
何が? と言おうとした所で、身体中に血液が行きわたる様な感触で体温が戻ってきて、頭がすっきりと動き出す。
呆然と手をにぎにぎと動かす。
「ハンガーノックですね」
部長が納得した様子で呟く。
「じゃな、純粋な栄養不足じゃ、二人共奢ってやるから飯でも食って帰るか」
葛様がほら乗れと車を指差した。
深夜だったのでご当地チェーンのさわやかなハンバーグ専門ファミレスに入り、揃って二人前の上食べた。
葛様が何の迷いも無く500g平らげたと言う事は追記して置こう・・・
更に「さらばパンジャン又会う日まで」と言う謎動画が動画配信サイトに上げられた、誘導しつつ脱げ回っている動画を無駄に壮大に謎編集されていたが、誰か特定できる感じのアングルでは無かったのと、気が済んだのか、その後は野良パンジャンは発生しなかったので。最早気にしない事にした。
追伸
葛様は正規ルートで依頼すると一現場何百万~青天井とかそう言うノリです。
局地的災害級の呪詛やら祟り神、大妖怪なんかの時に呼ばれる大物担当。
占いなどの細々としたのに呼ぶと話を聞くのを面倒くさがって不機嫌に成るので、依頼料が跳ね上がります。
出撃する羽目に成りそうな具体例は、両面宿儺(りょうめんすくな)や、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)、九頭龍(くとうりゅう)、ワルプルギスの夜、等のイメージ規模と成ります。(そこまで出るか、そもそも書けるかはアレですが・・・)
その時以外は、気分が乗った時だけ目立たない様に口止めして一撃入れる程度のタダ働きなので、陽希の初陣に手を出したのは割と珍しかったりします。
人死にを放置で見殺しとかは流石にしませんが、分をわきまえて居る為。ちょっと押せば助かるな? 程度なら兎も角、助けるのに手間がかかる物や、知らない所で死ぬ分にはほったらかしです。
乳児期の陽希助けたのは純粋な身内補正。
前回の馬鹿共に関しては本気で塵芥程度の認識なので、何も気にしてません。
因みに、車は葛様の持ち物です、持ってるマンションの地下駐車場に無造作に置いて有ります。無駄にごついスポーツカーとかに乗せたい所ですが、あんまり高いのもあれですので、トヨタセリカの最終型MT辺りでどうでしょう?
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