第26話 事後処理

 葛様からの電話連絡による叱責を受けて、呆然とする頭を切り替える。

 因みに私は土御門多津沙(つちみかどたずさ)と言う、本家筋の後押しもあり、情報部と人事の責任者を任されている

「所で、この三門陽希ってどれ位見習いやってたんだ?」

 現在地は陰陽師の仕事を統轄する場所、六壬(りくじん)と言う会社の事務所である。

 名前の由来は占いに使う道具、六壬式盤(りくじんしきばん)と言う物から取ってある。

 因みに非上場株式会社で、一族が株式を抱え込んで居るのだが、葛様が自分の神社名義で3割保有して居る事と、一部の債権を持って居る為、これを下手な所に流されると偉い事に成るのだ。

 その上、商売の神でもある稲荷の加護も含まれる、不興を買っては其れこそ一族郎党が路頭に迷いかねないので、対応には慎重を要する。

「こんな感じですね」

 一三(かずみ)がPCのデータベースから問題の三門陽希のデータを呼び出す。

 ざっと目を通す。

「・・・・・本気で何で此奴が見習い扱いだったんだ?」

 双性の加護が有るお陰で初期段階では悪霊の類からは認識されない事から、偵察や初激担当、他の先輩達を囮にしてのバックアタック等々。

 見鬼としての適性は薄い様だが、田舎の山育ちのお陰か、妙に鼻が利くので穢れや淀みの発見にも貢献している。

 見習いを言う物は本当に見て習うと言う前提の教育期間だ、現場で手を出す様に成った時点で一人前扱いの筈なのだが・・・

 まあ、一人前と言っても完全に現場で独り立ちできるかと言うと怪しいので、其処から突っぱねれば、ある程度此方の正論も主張できるかもしれないが・・・

「彼の所属していた地方部署の報告書、活躍が目立たない様に他の人の方が大きく書いて有りますね? 分家筋の三門ですし。目立たせるつもりも無かったと言う事でしょうか?」

 地方ほど血筋で判断している様な古い風習が残って居るので、手柄を横取りされている類か・・・・

「それにしても・・・」

「あっちの地方、田舎ですし、本家筋のアレが昔のつもりで出張ってますよね?」

「今更だな・・・・」

「出撃回数だけ見て単独行動させた私達が言えたもんじゃないですけどね・・・」

 其処は言い訳のしようが無い。

「全くだ・・・」

「契約更新、階級と契約料何処まで上げましょう?」

「今の契約段階は丙種の3等級で見習いか・・・・」

「見習いの一番下じゃ無いですか・・・・」

 階級と契約料の一覧を見比べる。

 親元に居る時期なら特に問題に成り難いが、都市部に出て来てこれでは生活出来ないだろう。

「乙種の2までか?」

 一現場5万程度の扱いだ。

「まあ、順当ですかね?」

 下手に上げ過ぎると他の物の目も有る。

「後は、昇進祝いと、葛様のご機嫌取りか・・・」

「何包みましょう? 油揚げ?」

 一三が何も考えていない様な事を言う。

「葛様に素の油揚げお供えしたら、あの神、本気で臍曲げるからな?」

 そもそも油揚げは動物の身体に宜しく無い、油が消化に悪いためそもそも食えんと怒られるのだ。

「そんなもんですか・・・」

「良く油抜きしていなり寿司にしておけば、まあ食えるか程度の扱いに成るが、其れなりに腕の良い料理人じゃ無いとやはりへそを曲げるな」

「それじゃあ何お供えしましょう?」

「甘味が一番当り障りないが・・・・」

 実は良い感じの赤身肉の方が喜ばれたりするが、下手なA5牛より流通が無いので困り物だ。

 何でも脂っこすぎて味がしないらしい。

「虎屋の羊羹ですか?」

「その方向では多分飽きたとか言われる・・・」

 と言うか前回言われた。御用菓子の類が鉄板では有るのだが、ご機嫌取りにしても頻度が高過ぎたらしい。


 こういった時にはと、二人でデパートで物産展を覗き込む。

 二本松玉島屋の本練羊羹詰め合わせが目に飛び込んで来た。

「これか?」

「其れも羊羹では?」

「此処のはちょっと珍しいから、恐らく行けるな」

 福島県二本松の御用菓子だ、羊羹に砂糖の衣が付いて居て、食感がシャリシャリジャリジャリとしていて、すっきりと甘い、古い作り方だとこう成るらしいのだが、意外と最近では見ない作りだ。

 因みに、ゴム風船に入っている玉羊羹の方が可愛らしく手軽な為有名であるが、糖衣が付いて居るのは本練だけなので注意が必要だ。

 自分用も含めて2つ買った。


 後日、峠道で車が落下した事故現場で。証拠品として警察に押収されていた陽希が無くした刀を回収して、それも手土産として契約更新の手続きを行う、何故か葛様が三門陽希と一緒に居たが、細かくは突っ込まない事にした。

 因みに、フロントガラスに突き刺さって居た刀の持ち主として三門陽希が事故の原因として捜査線に上がったらしいが、物理的に距離が有る事と、その時間のアリバイを此方が主張し、保証したので、あくまで事故として処理された。

 事故の内容としては、質の悪いナンパに巻き込まれた女性をハイエナしようと車で追いかけ、ハンドル操作をミスして崖下に落下、乗っていた3人はシートベルトもしていなかった為、落下時に当たり所が悪く揃って即死と言う状態だった。

 乗っていた3人中2人がインマウス系の丙種人外だったが、丙種は警察沙汰に成った時点で戸籍の個人ナンバーが登録消去と成る事と、あくまで事故として処理された為特に問題に成る事は無かった。



 陽希視点

「如何じゃ? 儂が居てよかったじゃろう?」

 葛様が上機嫌で羊羹を一口齧って笑顔を浮かべる。

「はい、有り難うございます」

 収入がいきなり10倍に成ってしまったので、呆然と契約書類を見つめる。

「お主は未だ一人前には遠いが、少なくとも見習いランクでは無いな」

 お茶を飲みつつそんな事を言う、何気に評価が高い様で嬉しい。

「でもこんなに貰って良いんでしょうか?」

 かなり気後れが有る。

「正当な評価じゃ、今時スズメバチの駆除業者が雑に一現場10万稼ぐんじゃから特に問題に成らんわい」

 そう言われると納得するしか無いのだが。

「まさかお主、金子(きんす)が汚いなどと言う寝言を言う類じゃ無かろうな?」

 呆れ顔で此方を見て来る。

「いえ、そんな事は・・・」

「なら大人しく貰って置け、単なる危険手当じゃ」

「・・・はい、それでは有難く頂きます」

 大人しく受け取ることにした。


 追伸

 本家では葛様を下に置かなすぎて扱いが色々ゲシュタルト崩壊を起こして居ます、結果として居心地微妙と言う事で葛様は居付かず、勝手にふらふらうろついて居ます。

 で、名目上お飾りの為、発言権中途半端で微妙な扱いと成って居ます。


 因みに、二本松羊羹に関しては地元産のステマで。只の作者のお気に入りです。

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