第24話 現場報告と葛様
前回の現場の依頼書を見せろと言うので見せて見た所、何とも言えない顔をしていた。
更に仕事する上での契約書も寄越せと言われ、見せた所、更に顔の皺が深くなり、首が傾いて来た。
「何でこの条件でお主単独行動だったんじゃ?」
「なんだか相方が見つからなかったけど、淀みを祓うだけだから危険は無いだろうって言われて・・・」
「淀みがしっかり実体化しとっただろうが、刀持ってかれとるし」
「そうなんですけどね・・・」
あの刀、如何しよう? 何処に飛ばされたんだろう?
「そもそもお主、報告は入れんで良いのか?」
「何と言うか、土日と深夜に連絡入れると結構嫌がられるんで、平日昼間に連絡しろって言われてますね」
「緩んどるなあ・・・・」
葛様が呆れた様子で片手で頭を抱えて項垂れる。
「居る事は居るんですけどね?」
毎度土日や深夜に連絡すると小言付きでチクチク言われるのだ。
「ならさっさと連絡せい」
「はい」
せかされて連絡用のスマホを取り出す、仕事中はこのスマホのGPSで捕捉されて居るので色々落ち付かないが、そう言う物だと諦める事にしている。
「もしもし、どうもお世話に成って居ます、三門陽希です、先日指示された現場について報告が・・・」
音量上げろと葛様が横で持って居るスマホのボリュームを操作する。
「はい、此方本部、報告ですか? 急ぎで無いのなら出来れば後日に・・・」
「急ぎは無いですが、あの現場は無事状況完了しましたので、その報告です」
面倒くさそうに拒否する電話番の事務方さんの言葉を遮って報告だけ入れる。
「・・・分かりました、無事でしたら何よりです、後日報告書をお願いします」
諦め気味に報告を受ける事務方さん、恐らく聞いただけで有るのだろうが・・・
「ちょっとかわれ・・・」
「すいません、少し話したい人が居るようですので・・・」
横で聞き耳を立てていた葛様が小声で代わるように要求する、言われるままにスマホを渡すと言うか、スルっと手元から抜き取られた。
「え? 何です?」
「久しぶりじゃなあ? 一三(かずみ)? お主の所は第一情報部だったか? 責任者は・・・えーっと、多津沙(たずさ)だったか? 今居るかのう?」
「って? 葛様?! 何で?!」
電話の向こうで混乱しているのが漏れてくる声で判る。
「ちょっとこっちの陽希と合流してのう、色々気に成ったから今代わってもらったんじゃ、んで、多津沙のひよっこは居るか?」
「は、はい! 少々お待ちください!」
保留音に切り替わる事無く、バタバタと駆け回る足音が聞こえる。
「全く・・・ たるんどるなあ・・・・」
呆れ気味に葛様が呟きつつため息を付く。
「真坂、全員の名前覚えてるんですか?」
「極論大体身内じゃからな? 感覚として孫の顔と名前ぐらい覚えてるんもんじゃろう?」
葛様が得意気に胸を張る、成程?
いや、覚えてるだけ凄いと思うのだけど?
「はい、代わりました、葛様? 何かありましたか?」
「おう、有るからこうして連絡しとる、先日の三門陽希の現場、都市部に出て来た初現場で単独行動させるとはどう言う了見じゃ?」
「・・・少し待って下さい、資料を・・・」
パラパラと紙をめくる音がする。
「はい、前段階では淀みが溜まって居るだけと言う報告でしたので、一人でも大丈夫だと言う事で単独行動だったようですね?」
「淀み所か、落書きに偽装した召喚陣付きのナイトゴーントじゃったぞ? 目一杯実体化しとったわい、刀もどっかに持ってかれたからな?」
「ちょ、ちょっと待って下さい、そんな事に?」
「ああ、儂がすぐ横で見とったから間違い無いぞ」
「分かりました、確かに其れでは一人では荷が重かったですね、私の所の裏取り失敗です、すいません」
声がゆがんで聞こえる、電話の向こうでお辞儀して居るのだろうか?
「そもそも基本単独行動禁止でツーマンセル基本に組む様に言って有るじゃろうが、何処見てヨシ言っとるんじゃ? お主は現場猫か?」
因みに現場猫と言うのは、色々な現場で働く人々の悲哀を義猫化でシュールに表したキャラクターだ、37枚重ねパレットをフォークで持ち上げ、其れを足場にして高所の電球を変えようとして大事故を起こすシーンがとても印象的なアレだ。
「そんな事言われても、最近人手不足でして・・・」
「今居る人手を大事に使わんか、怪我でもされて引退された方が状況悪化するじゃろうが? ブラック企業じみた言い訳にも成らん言い訳をするつもりか?」
「いえ、そんな事は・・・」
段々としどろもどろに成って来る、電話の向こうの土御門多津沙と言う人とはこの間会った事が有る、本家筋で大分偉そうなオーラを出している人だと言うのが印象的だったが、葛様相手だと形無しに成るらしい。
と言うか、今回矛先がこっちに来ていないだけで、こうなるのも有りそうなので結構怖い。
「更に、単独行動させた割に三門陽希の契約条件が見習い扱いってのはどう言う了見じゃ? お主らは契約更新もせずに子供のお小遣いでこやつを使い潰すつもりか?」
段々と葛様の声にドスが聞いて来る。
因みに、現在の見習い給料は一現場5000円だ、このランクだと実働は先輩方が居るので、見習いは文字通り見ているだけと言うのがお約束だ。
見て居るだけでお金がもらえると実家に居た頃はウハウハだったが、こっちに出てから生活費を色々出すように成って見て、成程生活キツイなと実感してきた所だ。
因みに、現在のこの仕事、時給制や月給制では無く、個人事業主扱いで一現場幾らで雇われる形と成って居る。
地元に居た時に世話に成った先輩曰く、一人前扱いの実働組なら一現場何万円らしいのだが、今の所そんな話は聞いて居ない。
「いえ・・・そんな事は・・・・」
「むしろ無理な現場に回して後腐れなく止めさせるつもりか? 死ねば儲けか? どっちにしても儂に喧嘩でも売っとるのか? お主らに預けてる出資金引き揚げてやろうか?」
いよいよ怖い事を言いだした。
「・・・・」
電話の向こうで息をのむ気配を感じる。
「さあて、諸々おぬしらは儂と陽希に誠意を見せてもらおうか? 誤魔化せると思うなよ?」
何と言うか、邪悪な笑みを浮かべる葛様と言うのを始めて見た気がする。
追伸
葛様は実権自体は無いけど、家系図と神と言う存在+財布のお陰で問答無用の上司特攻が付いて居ます、虎の威を借る以前に本人自体が虎(神)なので止めようが有りません。
因みに、下っ端虐めても上に行かない事は知って居るので、上司に厳しく下っ端には優しいです。
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