第22話 朴念仁でヘタレのボヤキ(部長視点)

 葛様については、見鬼(けんき)である自分にとって、初見で実物見た瞬間に驚き過ぎて動きが不審者に成った、妖怪や幽霊の類は其処等辺に居るのだが、流石に神霊の類はあまり見る事は無いし、大抵お社等の其れなりの場所に居るのだが、あの人(?)に関しては当然の顔をして人里に居るのだ、驚くなと言われる方が無理だ。

 因みに見鬼とは、霊やら神霊、妖怪やらが所謂色々見える人の事である、一般的にあまり認識されないレアスキルで、退魔や創作、研究界隈以外では全く役に立たない物ではある。

「氣の循環的に器小さい方が楽なんだとか言ってました」

「人外は揃ってそんな事を言うな・・・」

 実家の寺にも何か居る。

「其処まで分るなら、自分の葛藤も納得が・・・」

「甘ったれるな」

 此処はバッサリと切り捨てる、流石に此処は擁護する余地が無い。

「好きか嫌いか以前に、相手の気持ちを考えろ、家柄はどうでも良い、お前が嘘をついた時、どんな顔をした」

 そもそも神相手の約束だ、条件を満たした時点で拒否できる線はそもそも無い。

「泣かれました」

「他にも何か言って居ただろう?」

「万難排して待ってたって・・」

「で、10年待ってウキウキ聞いた相手に、当り障りなく覚えていないと言う、一目で分かる様な下手糞な嘘をついたと?」

「はい・・・」

「死ねば良いのに」

 思わず呟く、女相手で有れば当り障りなく言う所だが、こいつ、陽希に関しては見た目が女かも知れないが、中身は男なので遠慮する事も無い。

 何故かウ=ス異本で俺とカップリングされているらしいが、そっちの趣味は無い。

「はい・・・・」

 出ばなを挫かれたので、しゅんとしている。

「神霊相手に嘘が通じる筈が無いだろう、しかも相手の心理を読んで理想形に化けられる狐だぞ? 内心迄筒抜けだ、自分も騙せない様な嘘なんざ無意味の上に不興を買うだけだ」

 神霊相手に嘘を付く場合、自己暗示でその嘘が本当だと自分で信じ切っている場合か、本気で息をする様に嘘を付くような天然の詐欺師しか通じないし、約束の形を取り付けた場合、其れも通じない。

 見た所こいつ、三門陽希は嘘が下手だ、此方の言葉一つ一つに反応して表情をくるくると変えている、神相手に保身の為に嘘を付いたうつけ物だと言う前提が無ければ好ましい特徴で有るのだが・・・

「尚且つ、神様相手に指切り? 縁が絡まって祝福の祝いが呪いに転じて魂ごと持って行かれてるぞ」

『見鬼』として『視』た所、右手小指に絡まった縁が見える、無意識だろうと害意が無かろうと神霊との約束が生きている場合、其れを反故にした場合呪いじみたしっぺ返しが飛んで来るのは昔話に有るように、枚挙にいとまがない。

「で、指切りげんまんの約束に嘘ついた割に生きてるって事は、拳万受けたか針千本でも飲んだか?」

 そうなら無い為に、最低限契約通りの行動をとる必要が有る、指切りげんまんの嘘つきへの代償行為は万回の拳骨か、千本の針を飲み込む事と成る、生きていると思えないが。

「ハリセンボンの形した符を飲み込みました・・・」

「其処は本来、魚のハリセンボンじゃ無くて裁縫針なんだがな・・・・」

 どうやら言葉合わせで誤魔化したらしい、恐らくそれ以外だと殺してしまうと言う事で、形だけでも其れで契約の反故を受け入れたと言う事なのだろう。

 ・・・・陽希の小指に絡まった縁が解け切って居ない事から、あくまで誤魔化し程度、放置すると呪いが其の内全身に回ってお亡くなりと、ああ、其れで女装か、双性状態ならある程度呪い除けも出来るので、直ぐに死んだり、腕ごと無くなったりは無いだろう。

「保身考えるなら素直に婚約を受け入れろ、世間体以前にそのうち死ぬぞ」

 其の内、縁の祝いが、黒く淀んで呪いに変わる、神相手に約束してしまった以上、約束を守る以外の護身は無い。

 因みに、この神相手の約束による呪いは神本人の意思とは余り関係が無い、純粋にそう言うルールとして存在して居るだけだ、巨大タンカーが動く事で周囲に波が立つぐらいの単純な反作用で、相手の力が強すぎるので単純に思いが実際の作用を持ってしまうだけである。

 一般的にこの手加減が下手な神が祟り神や荒神として扱われるが、その神に対する護身はそもそも関わらない事である、例えば平将門何かは未だに怒って居る様なので誰も手を付けられない。

「書類上はもう結婚しました」

「そりゃあおめでとう」

 その割に困り顔だし、呪いの残滓が残っている、恐らくもう一息足りていない。

「相手が嫌いか?」

「いいえ、間違いなく好きな方です」

 其処は否定した。

「なら何で誤魔化した?」

「だから立場が・・・」

「其れを本人に言われたか? それまでに出世して置けとか」

「・・・いいえ」

「なら其処を論じるのは無意味だ、恐らくだが相手は一切気にしてないぞ」

 神が人相手に稼ぎやら立場を要求するパターンは余り無い、妖怪なら兎も角、相手の同じ狐だからと言って同一視される大陸産の金毛白面九尾の狐な妲己と、同じく同一扱いされる玉藻の前に関しては上皇の命を吸っていたとか言われて居るので悪事のランクが高い、病に臥せったのを擦り付けられた説が有力だと思うが・・・

 葛の葉の君に関しては、元から紳使の狐で、息子の安倍晴明を産んだら、その息子に正体がバレたので居なくなっただけである、探しに行った時に葛の葉の向こう側から話しただけで、悪い要素は一切無い。

「それじゃあ、如何すれば・・・・」

「其処は自分で考えろ」

 流石に此処から先はこっちで口出す事ではない、素直にくっ付いてラブラブしていてくれるのが理想なのだが。

「分かりました、もう一つ良いですか?」

「話すだけなら聞くが?」

「男らしくってどういうことだと思います?」

「はあ・・・・」

 思わずため息を付いて片手で頭を抱える、先ず間違い無く、嘘を付いた分の意趣返しだ。一連の行動に漢気と言う物が足りない。

「お前はどう考えた?」

「この女装を辞めて、男らしい格好を・・・」

 うん、恐らく其処では無い、明らかに突っ込み待ちだが、恐らくそれを具体的に突っ込める葛様に直接確認するのも憚られたと言う所だろう。

「お前の女装は命懸けだろうが?」

 呆れ気味にツッコミを入れる。

「だから、女装辞められる位に強く成れば・・・」

 何年かかるのだろう? RPGやゲームの世界では無いので、レベルアップみたいな簡単なルートは無い。身体の傷より因果や縁の傷、業は死ぬ迄所か、死んでも残る、何なら来世で因果応報も在り得る。

「お前の呪いは、嘘ついた分で悪化してる、この状態で女装辞めたら先ず死ぬぞ、もっと違う方向だ」

 呪いの残滓分だけでも、普通の一般人だったらもっと酷い事に成って居る、恐らく葛様が色々気を回した結果だろう。

「じゃあ?」

「答えを俺が言うのはルール違反だ、自分で考えろ」

 何だか仏門の作麼生切羽をしている気に成って来る、アレも間違っていても正否で答えるだけで、考えるのは弟子の仕事だ。

「分かりました、有り難うございます」

 幾分すっきりした様子でペコリと頭を下げて屋上から出て行った。

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