第15話 窓口の混乱(役所の職員視点)

「すいませーん」

 可愛らしい女の子の二人組が人の少ない土曜の窓口に現れた。

「はい、どうしました?」

 此処はお役所、住人の色々な申請窓口として何かにつけて忙しく駆け回って居る。

 私はそんな職員の一人だ、今回は半分時間外の総合受付を担当して居る。

 この役所は土曜も書類を受け取るだけの時間外窓口では無く、ちゃんと窓口で対応できるのだ、流石に土曜日は人員が少ないので今日は自分と同僚の2人だけの業務と成って居るのだが、土曜は人が少なく上の人の目が無いので其れなりに気楽に業務が出来る。

「これを提出したいのじゃが、証人欄に署名お願いするのじゃ」

 何故か時代がかったのじゃ口調の少女の手から、しっかり書き込まれた婚姻届けが出て来たが、証人欄は空欄だ、手続き上必須なのだが・・・・

「おや、ご結婚ですか?」

 見れば分かると言われるが、念の為要件を確認する。

「そうじゃ」

「はい」

 二人が返事をする、元気の良い小さな方の少女は小学生の高学年ぐらい、真面目そうな大きな方の少女は高校生位か、年齢的に如何なのだろう? それ以前に性別がアレだ、この国では未だ同性婚は認められていないのだが・・・・

「分かりました、此方で伺いますね」

 面白そうなので自分で受け持つ事にする、書類を預かったまま横の申請窓口に移動する。

「窓口お願いしまーす」

「はーい」

 手が空いて居る同僚に一言声をかけると、以心伝心と言った感じで席が入れ替わる。

「身分証明書と、婚姻届、戸籍謄本、身分証明書と印鑑をお願いします」

「はい」

 小さな少女の手から必要な書類が机の上に並べられる。

 身分証明書はマイナンバーカードか、未成年なら確かに之が一番手っ取り早い身分証明だ。

「はい、確認させていただきます」

 顔写真も入って居るし、リーダーに読ませたICチップのデータも異常無し、偽造では無いと・・・

 確かに登録されて居る生年月日は特に問題無い。

 16歳と30歳?

 誕生日では無く登録日時?

 ん?

 通常12桁なのに13桁?

 頭に分類のアルファベット入り? 

 Aって事は?

 甲種神霊?!

 予想外の大物の出現に内心沸く。

 一般的に神霊やら妖怪、人外の類は表向き認知されて居ない事に成って居るが、あくまで表向きと言う事で、政府や役所もそれらの存在を認識自体はしている、半分都市伝説と成って居るが、マニュアルに存在自体はしているのだ、アメリカのドーナッツの穴を売るな的な良く分からない予防線な州法的な物だろうと言われて居るが、実際有るんだ? 私自体半信半疑だったのだが、こうして居るのだから・・・

 因みに、A・甲種は神霊、B・乙種は妖怪、C・丙種はその他人外と言う事に成って居て、それぞれマイナンバーの頭に有るアルファベット、ABCで区別されている、普通に使用する場合は頭のアルファベットを抜くので特に問題無く使われて居る、らしい。

 何でも有名所の甲種では、立川辺りに救世主(メシア)と救済者(セイヴァー)が居て、其れに合わせる様に甲種・仏や天使らしいのが出現して居るらしいのだが、基本的に変な規制などで接触する事は無い様に、神として扱ったりせずに、失礼のない様に一定の配慮をしつつ放置で良いと厳命されて居る。

「妻と成るのは、土御門葛(つちみかどかずら)、夫と成るのは三門陽希(みかどはるき)、間違いありませんか?」

 この名前を真に受けると、土御門の祖である葛の葉の君? ああ、歴史の証明がこんな所に・・・

 今まで遠かった歴史が突然身近に成ったような不思議な感慨が有る。

「其れで間違いないのじゃ」

「失礼ですけど、本当に男性ですか?」

 私の言葉に真面目そうな少女(?)陽希が傷ついた様子でガックリとうなだれた。

「こんな格好じゃが確かに男子(おのこ)じゃぞ」

 小さい方の少女、葛がその様子を楽しそうな笑みを浮かべながら陽希のほっぺをぷにぷにしてからかって居る、仲は良さそうだ。

「分かりました」

 男の娘と、納得して置こう。

「証人の欄が空欄ですけど、これは・・・」

 お約束の空欄を指摘する、お役所仕事なので空欄有りだと書類の受付が出来ないのだ。

「お主の名前でお願いする」

 この欄は、所謂無理矢理結婚させられた等のトラブルを防止する為と言う名目で作られて居る、友人知人、両親等の名前を記入してもらうのが一般的なお約束では有るが、実はその友人や何やらの関係性を証明する事は無いので、誰の名前でも特に問題に成る事は無いのだ。

 つまり当然、私の名前でも同僚の名前でも問題無い。

 ちょっとこっちこっちと、手招きして同僚を呼ぶ、署名欄は2つあるので、巻き込まれてもらおう。入り口が開いてしまうが、今は未だ他のお客さんは居ないので大丈夫だろう。

 どうしたどうしたと直ぐに寄って来てくれた。

「では、仲の良い証明をお願いします」

 実はそこまでする必要は無いが、自分の名前をこの欄に記入するのは業務の範囲外なので、おまけを要求して見る。

「ふむ・・・・」

 不意に葛が陽希に近づき、頬にチュッとキスを落とした。

 キマシタワー

 内心で百合センサーが発動して、脳内で謎の擬音を奏でる。

 これは美味しい。

「これで良いかな?」

 葛が此方を見てニヤリと笑みを浮かべた、キスされた方の陽希は一瞬固まった後、トマトの様に真っ赤に成って俯いている。

 イタダキマシタ!

 又脳内で謎の歓声が上がる、之は良いネタに成りそうだ・・・

「十分です、仲が良くて何よりです」

 サラサラと証人の欄に自分の名前を署名して判子を押し、同僚にお前も書けと書類を押し付ける。

 ああ、成程と言った様子で同僚も署名して判子を押してくれた。

「では、確かに受領しました、お焚き上げは何方で?」

 神霊等の時には裏マニュアルで、1部余計にコピーして、敷地内の社でお焚き上げにすると言う謎の風習が有るのだ。

 尤も、初めてだし、相手が自分でやると言われればそのまま預けて終わりなのだが。

「手っ取り早くお主の方で頼む」

 任された。

「はい、わかりました、確かに受領しました、お幸せにどうぞ」

 特に書類に不備はない、之なら受け取って問題無いだろう。

「あ、婚姻届の記念品と言うか、記念撮影有りますけど、如何します?」

 同僚が思い出したように言う。確かにそんなのも有った。

「どうせだから頼もうかのう?」

 どうやら乗り気だ。

 何時もは証明写真用の撮影ブースに移動する。

 部屋の端っこに白のスクリーンと反射式のライト付きレフ版が有るだけだが、只撮影するだけよりかなり良く撮れるので何かにつけて利用されて居る。

「ほら、折角の撮影じゃ、もっとくっつけ」

 葛の方が陽希にくっつく、葛が積極的で、陽希が受け身なようだが、どうやら嫌がって居る訳では無く、少し戸惑って居るだけで内心嬉しそうなので問題無さそうだ。

「はい、2回撮りまーす」

 備え付けの型落ち一眼レフを構える。

 ぴ ぱしゃ

 陽希はぎこちない笑みを浮かべて居る

「はい、もう一回」

 葛が改めて陽希に抱き着く、陽希がわあと言う感じのリアクションと表情を浮かべた。

 ぴ ぱしゃ

 中々良い感じの写りだ。流石ロリバアアの葛様、からかい方と雰囲気を解って居る。

 と、謎の関心をしつつ印刷に回る。

 デジカメのデータからWIFIで勝手にデータ転送でPCに表示される。

 一々USB繋げたりカード差し替えたりしなくて良いなんて、最近は便利に成った物だ。

 ピンぼけチェック・・・・

 うん、問題無しと。

 2Lの写真用光沢紙に2枚纏めて印刷する、微妙に雑なのはお役所クオリティだ。

「はい、此方です、お幸せに」

 クリアファイルと一緒に渡す、フレーム無しなのはコスト削減的な物だ、大事にする場合は最寄りの雑貨屋やら何やらでフレームを買って欲しい。

「ふむ、良く映っとるな、有難く貰って置くぞ」

 上機嫌で受け取ってくれた。

「有り難うございました」

 陽希の方もぺこりと頭を下げる、初心っぽい動きが一々可愛い。


 二人が居なくなってぐったりと机に突っ伏す、一人でテンションが上がり過ぎた反動のギャップで疲れる。

「何と言うか、ロリと男の娘だなんて、珍しいカップルだったねえ・・・」

 同僚が呟く。

「珍しい所じゃないよ、初めて見たよ」

(肩書見ると神と人のトンデモカップルだよ)

 後半の言葉を飲み込む、個人情報の塊なので当人の居ない所で話す訳に行かない。

「あ、忘れてた、お焚き上げ・・」

「何?」

「窓口お願い、ちょっと上行って来る」

 窓口を無人にする訳に行かないので、同僚に留守番を頼む。

 先程受け取った婚姻届のコピーと、何故か冷蔵庫に常備してあるお酒を持って屋上に上がる、当直の人が飲んでいると言う噂だったのだが、これの時に使うのか・・・

 社を壊す訳に行かなくて屋上に移動させたらしいが、こんな出番が有るとは思わなかった。

 社に有るお皿にお神酒を注いで、パンパンと手を合わせる。

 書類にライターで火を着ける動作をすると、何故か凄い勢いでぱっと燃え上がった。

「うわぃ」

 手が焼けるかと思わず慌てて手を離すと、青い炎を出して一瞬で灰も残さず燃え尽きた。

 火傷したかと思ってじっと手を見るが、特に痛みも無いし、火傷した様子も無い、面妖な・・・・


 ぽつ


 ぽつ


 ざああぁぁぁ


 今迄快晴だったのだが、いきなり雨が降って来た、天気雨? いや・・・

「狐の嫁入り?」

 成程、長く生きていると色々有る物だ。

 暫く経ったら同人誌のネタにさせてもらおう。

 願わくば、あの二人が末永く幸せでありますように・・・

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