作家モドキの思ふところ。
鵲
1言目「ボクの名は」
「いやね? ボクだって自覚はあるんですよ?」
空になったジョッキを掲げて店員さんを呼ぶ。おかわりと、ついでにツマミを適当に追加で注文する。割り勘(の予定)なので値段は気にしない。
「はぁ。それはなによりですね」
目の前に座る女性、山口さんも同じくらい飲んでいたハズなのに顔色に変化は見られない。対応も終始フラットなままだ。
「とりあえず次のプロットを書いて下さい」
「了解であります!明日から本気出すであります!」
このやりとりも今日だけで何回繰り返したか。ビールのおかわりと同じくらいしていたかもしれない。言っている間にも次のビールが運ばれてくる。おっとこっちも負けちゃいられねー。ぐびぐび。
「先生、あまりお酒強くないんですから。ほどほどにしてくれると助かるんですけどね。せっかく打ち合わせに来ているというのに、すぐに酔いが回ってほとんど覚えてくれてませんものね」
ため息まじりのお小言を頂戴する。しかし、なんだかんだ文句は言いつつも毎回律義に付き合ってくれる人の良い編集さんである。人が良いのは確かだけど、良い編集さんであるかはよくわからない。なぜなら原稿を回収できていないから。原因の一部であるボクが言うんだから間違いない。
ちなみにボクはダメな作家である。わはは。
・・・
「先生。そろそろ帰った方が良いんじゃありませんか」
肩を優しくゆすられる。伴って揺れる頭がぐわんぐわんいって気持ち悪い。
どうやら少し寝てしまっていたらしい。えーと、何の話してたっけ。
「知ってますか山口さん。ボクだってちゃんと本出してる作家なんですよ?」
またその話ですか、と小さく聞こえた気がしたけれど気にしない。
「知ってますよ。残念な事にあまり売れ行きが芳しくなかったことも含めて」
「なのに同期のやつらはガンガン売れて、一人だけ売れてねぇボクは『作家もどき』とか『自称作家』とか揶揄されて・・・」
手慣れた動作で懐から自分の名刺を取り出し、呆れ果てた目の山口さんの眼前に突き出す。
「『モドキ』じゃねぇよ『シゲトキ』だっ、つってね。がははは」
そう。「茂時」と書いて「シゲトキ」と読むのがボクの本名だ。それを含めての『モドキ』というあだ名でもある。
「でもね~、これが地味にウケが良くて困ってんですよねぇホント。不本意ながら」
というショートコントをよく綺麗なおねーちゃんのいっぱいいる店で披露している。
同期のやつらと一緒にな。結構仲良くさせていただいてます。
「はぁー、売れたい」
あぁ、本日も酒がうまい。
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