惑星テラ 神々の箱庭 兄貴とサブと不死鳥

中村屋

第1話 プロローグ1


ハァハァハァ・・・

弓を肩に背負い左手に短剣を握りしめ右腕から血を流しながら懸命に逃げている少女が息も絶え々に呟いていた。


「何故11階にA級魔物のエンプーサが居るの?・・」


少女の後には立ち姿が2mは有るA級のカマキリ型魔物、エンプーサが迫っていた。

エンプーサは黒光する両腕の鎌をギリギリ擦り合わせさ不気味な音を立てながら猫が獲物を弄ぶ様に両腕の鎌を鳴らし少女を追い詰めて居た。


エンプーサはカマキリ型で体長3mくらい有り6本足で2本の切れ味鋭い鎌、顔も複眼に強力な顎を持ち残虐性が特徴的な凶悪A級魔物、一度標的にされれば逃げきるのは至難の業だ。


「ハァハァハァ 何とか逃げないと・・・  マルコ、待ってなさい・・・ 私が必ず・・・ 」



★☆★☆★☆


白で統一された建物の中で両膝を付き両指を絡ませ翼の生えた純白の女性の像に祈る少女が居た。

少女は何十回、何百回、何千回と教会で祈っていた。


「神父様、またマルコの具合が悪くなって来ました・・・」


「そうですか・・・ 今回も一ヶ月も持ちませんでしたね・・・」


神父は顔を歪ませながらに少女に答えていた。


「しかし、明日は旅の上級司祭様がマルコの不調の原因を調べに来て頂けます。司祭様の鑑定でマルコの不調の原因が分かれば必ず対処方法が有る筈です。 希望だけは捨てずに神に祈りましょう・・・」


「神父様・・・ ありがとうございます・・・」


少女は涙ながらに神父様に頭を下げた。


少女の弟、マルコは4年前の10才の時に姉、妹と共にこの開拓村に流れて来た。

マルコと妹で農作業に従事して姉は冒険者として命をチップに辺境のダンジョン捜索で生計を立てて居た。

マルコの不調は2年前、12才の誕生日の日に突然倒れ、それから2年間、開拓村に有る教会の神父に治療魔法、回復魔法を掛けてもらう日々が続いていた。 

治療魔法、回復魔法を掛けてもらい一時的に症状が緩和して数週間は現状維持を続けるも、また同じ症状が出てしまう。

寝たきり状態なのである。

開拓村の神父に月に一度回復魔法、状態異常解除魔法を掛けてもらって緩和状態の現状維持。


半年前に開拓村の神父は教会本部に手紙を出し旅の上級司祭にマルコの鑑定を頼んでいた。


「神父様、明後日マルコを連れて教会にお伺いいたします。」


少女は涙を拭きながら神父に答え教会を後にした。


「女神ミヤ様の御加護を・・・」


少女の後ろ姿に神父は祈りを捧げた。


2日後、マルコを背負い妹の手を引き教会に向かう少女が居た。


「もうすぐ教会で偉い司祭様に見てもらえるからね・・・」


身体の力を全く感じさせない背負われているマルコ。

目の焦点も合わない様な無表情で話しを理解しているのか分からない状態のマルコに話しかける少女。

手を引いている妹も俯きながらトボトボと教会に向かっている。

教会に着き扉を開けると直ぐに目に入る神父に少女と妹は無言で頭を下げる。


「お待ちしておりましたよ。ささっ、どうぞこちらに」


神父は少女達をいつも治療魔法を施術している奥の個室に案内をする。

少女達が治療室に入ると目の前に金色の長髪に緑の瞳をした純白の神官服を身に纏った若い男が居た。

透き通る様な白い肌に長い耳のエルフ族の神官。

そのエルフ族の神官が椅子から立ち上がり


「わしは教会の旅の司祭ラーセンじゃ。 マルコ君の事は神父より詳細は聞いておる。 先ずはマルコ君をそこに寝かせなさい。」


少女はラーセン司祭の指示通りにマルコをベッドに寝かせ、優しくマルコの髪を撫でた。


「神父より詳細を聞きいたが病気、怪我、毒、虫では無く鑑定でも虚弱としか出て居なと・・・」


少女はラーセン司祭の言葉に頷いた。


「回復魔法と状態異常解除魔法を毎月掛けて現状維持、また徐々に衰弱で間違い無いかの?」


少女は涙を滲ませながらラーセン司祭の言葉に頷いた。


「では! マルコ君の状態を鑑定して原因をつけとめてみるのじゃ。」


ラーセン司祭は優しい微笑みを少女に掛け詠唱を唱え始めた。

長い詠唱を唱えラーセン司祭の額に汗が滲んだ時、光輝く魔方陣がマルコを中心に回転を始める。

一重、二重、三重の魔方陣が回転を早めながら重なり一際激しく光輝きラーセン司祭が「鑑定」と小さく呟いて光が弾けた。



「こっ! これは・・・」


ラーセン司祭は見る見る白い肌の顔を青ざめさせていく。


「司祭様?」


神父は予想外のラーセン司祭の態度に驚き声を掛けた。


少女と妹は司祭の顔の変化を見て覚悟を決めてラーセン司祭に問い掛けた。


「ラーセン司祭様、マルコは・・・ マルコの虚弱の原因は何なのですか?」


青ざめた顔のまま何も話さないラーセン司祭。


「すまぬ。 マルコ君の状態、虚弱の原因なじゃがのぉ・・・」


神父、少女、妹の目がラーセン司祭の次の言葉を待つ。


「・・・呪いじゃな・・・ それも強力な・・・」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る