魔王光臨⑥
王都に街灯はなく、人っ子一人歩いていなかった。
とはいえ、
ちらほらと窓から灯りが漏れている家では、一体誰が何をしているのだろうか。
そういえば、ここは異世界だが、太陽も月もあるのだなと今更ながら気が付いた。
指定された民家は何の
その玄関先に、人影が佇んでいた。
「よくぞ来てくれました」
こちらからはまだ向こうの容姿を
夜目が利くのだろうか。
近付いて姿を確認すると、ダークエルフの青年だった。
「とりあえず中へ、族長が待っています」
「族長? ダークエルフの?」
「はい」
「俺に何の用ですか?」
「詳しいことは中で話します」
家屋内に案内された。
一応必要最低限の家具は備えられているが、人が生活していますよとアピールしているような感じがした。
「こちらです」
ダークエルフの青年は床の一部を持ち上げながらいった。
床下には地下へと続く階段があった。
王政に牙を剥くレジスタンスの隠れ家、そういう風にしか見えなかった。
「そういえば、あなたのお名前は?」
「自分はソルと言います」
名前を聞いたからといって、そこから何か話題が広がるわけではなかった。
ただ、名乗れるということは、少なくとも俺に対して何か疚しい感情はないと見ていいだろう。
偽名の可能性も捨てきれないが、そこまで疑っているなら
地下室は通気性が悪く、
ここも普段は使われていなさそうだった。
地下室の灯りは数本の
目を
「この先へお進みください」
「まさかそのまま帰ってこられないなんてことにはなりませんよね?」
俺は無駄に明るく振舞ったが、その声が薄暗い通路に吸い込まれていくようだった。
「はい、恐らく」
(そこは嘘でも断言して欲しいんだけどな)
裏を返せば、ソルは嘘をつけない性格をしているということだ。
「この先でダークエルフの族長が待っているんですか?」
「はい」
「奥から出てきてもらえないんですか?」
「来てもらった方が、言葉で説明するよりも手っ取り早いといっておりました」
「そうですか」
俺は意を決して細い暗闇の中に足を踏み入れた。
一歩、二歩、三歩、いきなり地面が抜けて、奈落の底へ真っ逆さまなどという展開にはならなかった。
(どこまで続いているんだ……?)
時間にすると数分、手探りで暗闇を進んでいると、冷たくて硬い物が手に当たった。
(これはガラスか……?)
行き止まりになっている。
そう思った瞬間、不意に視界が光に包まれた。
「
ゆっくりと
王都で一般的に見られる建築様式とは違った印象を受けた。
王都に木造の建物などあっただろうか。
何より、気温が低く、少し肌寒さすら感じた。
「ようこそおいでくださいました、魔王様」
少しつり目の少女が出迎えてくれた。
どちらかというと美形の多いダークエルフだが、目の前の少女は幼く可愛らしい印象を受けた。
「あなたは……?」
「私はダークエルフ族長ガイホウの娘、チルリレーゼと申します。先に、族長がこの場に居合わせていないことを謝ります」
「それは構わないんですけど、ここはどこですか?」
別に族長と会う約束をしていたわけではないので、居ないといわれても何とも思わなかった。
「ここは迷界の森、人間のいうダークエルフの森です」
「ダークエルフの森!? 王都から蒸気機関車を走らせても一週間はかかる距離にある場所ですよね!? そもそも、ダークエルフの森方面に線路を
「
取り乱している俺に、チルリレーゼはそっと答えを置いた。
「龍脈……。さっきのがそうなんですか」
魔族を研究した書物の中で、そのようなことが書いてあった。
魔族はパラでなく、龍脈の力を借りて魔法という能力を発現させるのだ。
そして、パラと龍脈はとにかく相性が悪く、パラの因子を持つ者はこの転移装置に乗れないことも知っていた。
「ところで、魔王様。なぜあのような呼び出しに応じたのでしょうか。私でしたら罠を疑って、絶対に出向いたりなどしませんので」
チルリレーゼはこちらを試すようにいった。実際、試されているのだろう。
「俺も最初は無視しようかと思いました。でも、人間と同程度の知能を有しているダークエルフの仕掛ける罠にしては
「恐れ入りました。物事を見抜く思慮深さに胆力まで
「
魔王は、王国全土が
おまけに、その首にはあらゆる願いが叶うというとんでもない褒章までかけられている。
魔王でもないのに魔王呼ばわりされるのは、迷惑以外の何物でもなかった。
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