メイドは親身になる⑧
あっという間に一ヶ月が過ぎた。
今日は運命の学級振り分け日である。教室内の空気は、さながら高校受験の合格発表日のような緊張感に包まれていた。
俺を除いた二十九人の振り分けは、神階級が六人、天階級が十人、山階級が十三人、地階級と底階級は居なかった。
流石は勇者の卵である。
俺はというと、皆の想像通りである。
ただお前の努力は無駄だったと告げられただけである。
俺が全くパラを使えないというのは、既に皆の知るところであり、
階級の発表後、俺はこの一ヶ月間通い詰めた別館に呼び出された。
そこには検査官を務めていたちょび髭の男が居た。
名前は知らないが、一番親身になって相談に乗ってくれた人だ。
「テンコウ、非常に言いにくいが、パラに関して君には全く何の才能も認められなかった。過去にも勇者の卵を召喚したことがあるが、パラが発現しなかったことは初めての事態、異例中の異例だ。我々としても非常に対処に困っている」
(勝手に召喚しておいて、何が困るだ。ショーウィンドウの前まで連れられて、何も買ってもらえない子供の気分だ)
もちろん、そのような反抗的な態度は取らずに、俺は
先程、俺には勇者として何の価値もないと宣告されてきたばかりだからだ。
いつ処分されてもおかしくない、それくらいの心構えで居たからだ。
「俺はこれからどうすればいいんでしょうか」
「そう落胆することはない。新しい人生を始めればいい。どうやら君には座学の才能があるようだ」
「勉強をがんばれば、パラ研究所で働くことができますか?」
一ヶ月の間に、俺の目標はパラ研究所の一員になるところになっていた。
「正直、パラ研究所を目指すのはやめた方がいいと思うよ」
「どうしてですか?」
俺がパラと関わって生きて行くには、最早それくらいしか選択肢は残されていなかった。
「パラ研究所は君という人材を歓迎すると思う。でもそれは、君だからというより、勇者の卵という存在に興味があるからだ」
ちょび髭は神妙な面持ちでいった。
「俺が実験台になるかも知れないという意味ですか」
「ああ、そうだ。あそこの人たちは一本ネジが外れているからね。できれば関わらない方がいい」
「ご忠告、感謝します」
「いや、結局僕は何の力にもなれなかった。すまない」
この人は本当にお人好しなんだろうなと思った。
「もうここへは通えないんでしょうか」
俺は本館の方を
いい年こいて、夢見ている路上ミュージシャンのようだなと自嘲気味に思った。
「明日からより実践的な修練に移行する。パラが使えない君が残っても、辛い思いをするだけだ」
ちょび髭は
「構いません。パラを諦めて生きていく方が辛いですから」
「本当にいいんだね」
「はい」
「わかった。呼び出したのは、君の意志を確認したかったからだ。ライネル卿より、言伝を承っていてな。もしパラの修練を続けたいといった場合、君には追加で二ヶ月の期間、修練に励んでもらおうと思っていた。高い志を持って、自己研鑽に勤しみなさい」
「ありがとうございます」
規則に則るのであれば、底階級の修練生は軍学校から去らなければならないのだが、俺は異世界から招かれたということで、特例で在籍が認められた。
向こうにどのような意図があるのか定かではないが、
もしかしたら、俺がパラを諦めるまで、心が折れるまで二ヶ月の
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
家に帰ると、タヅサが平時と変わらぬ調子で挨拶した。今朝、学級の振り分けがあるということは既に伝えてあった。
「やっぱりダメでした。けれど、特例として二ヶ月だけ軍学校に通っていいことになりました。タヅサさん、もう少しだけ俺の修練に付き合ってもらえますか」
「わかりました」
タヅサは嫌な顔一つせずに頷いた。
「それと、料理はできませんけど、これからは俺が部屋の掃除をしますよ」
ここへは勇者の卵をサポートするようにと命じられて来ているはずだ。
そして、俺は勇者の無精卵だったわけだ。
もう何もかもを全面的に世話してもらうのは違う気がした。
「お気になさらないでください。それなりのお金は頂いているので、その分はきちんとお仕事させてください。もしテンコウ様が勇者と認められなかった際には、私も一緒に路頭に迷うことになってしまうので、その時は養ってもらえますか?」
後半、タヅサはお茶目っぽくいった。
「それも悪くないかも知れませんね」
俺は冗談っぽくそう返した。
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