『翼』の物語
悠 武 (はるか たける)
第1話
ここは天界。
天使を中心に多くの生物が存在する世界。
様々な環境を持つもっとも広い世界。
そして僕(カルタス)もここにいる。
僕は天使だ。
だが、僕にはないものがある。
天使らしい顔、体格、髪の色を僕は持っているが、一つ足りないものがある。
それは翼だ。
天使には皆、鳥よりも大きな白い翼が生えている。
翼は天使の象徴であり、空を飛ぶのに必要なパーツである。
僕には翼がない。
なぜないのかは分からない。
別になくても困らないんじゃない? と思う者もいるだろう。
だけど翼がないせいで僕はひどい目にあっている。
まず長い距離を移動するのが大変だ。
他の天使達は空を飛んで速く移動できるが、僕にはできない。
まあこの問題はそこまで深刻に思ってない。
もう一つ問題がある。
それは差別だ。
天使に翼があることは普通であり証明であるため、翼がない天使は異常なのだ。
そのことで、僕は差別(いじめ)を受けている。
辛いことだ。
そもそも天使なのか? と思ったことがあるが、神は間違いなく天使だと言う。
僕は用事がある為、天使の街にある僕の家から外に出た。
?
その時僕の前に誰か現れた。
いや、その正体はすぐわかった。
「やい! 翼無しのカルタス!」
いつも僕を馬鹿にしに来る天使、ヤネスだ。
今日も馬鹿にしに来たのだろう。
「お前に伝えたいことがあって来た!」
…………何?
「それはだな! 翼が手に入る場所を見つけたんだよ!」
え?
「へへへ、驚いただろ? お前のこと翼がないから馬鹿にしてたけどなんか罪悪感が芽生えてなあ。だから馬鹿にするのやめようと思った時あるうわさを聞いたんだよ。その噂は天使の翼が手に入る花があるってやつよ! その花の場所をお前に教えに来たんだよ!」
…………どういう風の吹き回しだ?
本当なのか?
「本当に?」
「本当さ! いつも悪かったな。カルタス!」
…………なんだよ急に、どうしたんだ?
だが僕は素直に嬉しかった。
「その場所教えてやるからついてこい!」
僕はヤネスについていく。
僕らは歩いて天使の街から抜けて進むと、草原が広がる風の気持ちいい場所に来た。
どうやらここに花があるらしい。
「その花ってどういうのなの?」
「それは虹色に光る花でな。それを食べるとどんな生物でも翼が生えるんだよ。な? すごいだろ」
へー。
そんなすごい花見つかるのかな。
僕らは花を探し回る。
三十分後、なかなか見つからないなと思っていた時、遠くに何か光るものが見える。
あれはなんだ?
草原に合わない光る物。
もしかして。
もしかして。
あれは虹色の花じゃないか!?
僕は急いで光の方へ向かう。
興奮しながら全力で走る。
これで僕は変われる!!
そう思いながら走る。
走る。
走る。
走る。
落ちる。
ズバン!!!
え?
急に視界が暗くなる。
目の前にあるものが黒いのかもしれない。
重力に引っ張られたような感覚。
尻もちをついたのか体が痛い。
何が起こったのかよく分からない。
僕はキョトンとしていると、上から声が聞こえる。
「やーい! やーい! 引っかかった!」
その声はヤネスだ。
なんで上から聞こえるんだ?
そもそも僕はどこにいる?
「騙されやがった! まさか本当に引っかかるとはな!」
騙す?
何のこと?
「まだわからないのか! お前は俺が作った落とし穴に落ちたんだよ! ぎゃはは」
…………は?
「虹色の花なんてねえんだよ! お前は俺に誘導されて落とし穴にまんまと落ちたんだとよ! ぎゃはは! ぎゃはは!」
なんとなく状況が分かってきた。
理解するにつれて頭に血が上り怒りがわいてくる。
あ。
あ。
ああああああああああああああ。
「怖! お前そんな顔できるんだな! ぎゃはは!」
ああああああああああああああ!!
僕の何かが壊れ、ヤネスに向かおうとする。
が、落とし穴から上ることができない。
「ぎゃはは! 人の手借りなきゃ上れねえよ! 明日助けにいくからな! 待っていやがれ! ぎゃはは!」
そのままヤネスは去っていき、ぼくは落とし穴に残される。
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