第12話
『はい』を押した瞬間に水晶からいくつもの道具が飛び出してくる。
ビーカーや混ぜ棒、スポイト、更に水や色とりどりの色の液体。
それらを見た瞬間に『あっ、これはダメなやつだ……』と理解できてしまう。
おそらくこの液体が回復薬の素材。
それをビーカーにちゃんとした量を加えて、混ぜれば作れるわけか。
――たった一回でそのぴったりの量がわかるはずないだろう!?
思わず心の中で怒りを露わにしてしまう。
品質が一つ上がっただけで難易度が跳ね上がってないか?
いや、これもぴったりの量がわかれば失敗しなくなる。
最初の難易度が高すぎるだけのやつだ。
あとは時間。
『00:05:00』
ほとんどない。試せて数回だろう。
これは辛いな。いつ成功するのか……。
「ソーマさん。それ、どこから取り出したのですか!?」
水晶から出てきた鍛冶道具を眺めていると隣から驚いた表情のクルシュが聞いてくる。
しまった、そういえばここにはクルシュもいたんだった。
「これは……そうだな。俺の領主としての能力だな」
詳しいことを言わずに説明する。
「はえぇ……、凄いです。そんな能力があるのですね……」
詳しいことを説明しなくてもあっさり信じてくれる。
まぁ、嘘は言ってないもんな。詳細を伝えていないだけで。
「これを混ぜたら良いのですよね? 私がやりましょうか?」
「あっ、ちょっと待て! さすがにそれは危ない……」
「大丈夫ですよ。混ぜるだけなら私にもできますから」
「い、いや、そういう訳じゃ……」
……でも、色々と試さないといけないのか。
それならクルシュにも頼んでみるのは良いかもしれない。
それに混ぜたときの反応をじっくり見ることで何かわかるかも知れない。
ここは見る方に回るのが正しいか……。
「そうだな。一回目はお願いしても良いか?」
「はいっ! では早速――」
クルシュが色とりどりの液体を
い、いや、、いきなり全部混ぜるのは危ない気も……。
まぁ、どちらにしても全部混ぜたときの反応が見ておきたいか。
俺は薬がどんな反応を見せるのか、じっくり観察する。
クルシュ、楽しそうだな……。
鼻歌交じりに液体を混ぜているとビーカーが突然光だす。
「危ない! クルシュ、それを捨てろ!」
「は、はいっ……」
慌てたクルシュがビーカーを捨てると、その瞬間に爆発を起こしていた。
ドゴォォォン!!
まともに受けていたら怪我程度じゃすまないほど、高い威力。
これが鍛冶を失敗したときに起きる現象か……。
当然使った素材もなくなっている。
実害が出る可能性があるなら下手に失敗はできないな。
「な、な、何が起きたのですか!?」
「これは混ぜるのに失敗したら爆発するようだな。クルシュが無事でよかったよ……」
「そ、ソーマさんも危ないですよ!?」
「必要なことだからな。ただ、爆発するとわかった以上クルシュは触らない方が良いな。後は俺がするよ」
「ご、ごめんなさい……」
クルシュはシュンと落ち込んでしまう。
「いや、クルシュのおかげで色々とわかった。ただ、あまり危険なことはしてほしくないからな。クルシュの代わりはいないんだから……」
「あっ……は、はい。わかりました……」
「うん、わかってくれたらいい。あっ、そうだ。クルシュに一つ聞きたいことがあったんだ」
「えっと、何でしょうか?」
「今回のものとは関係ないのだが、釣り竿を作るのに必要な物ってわかるか?」
「それならわかります。木の棒……はありますし、あとは糸と針さえあれば……って、私が持ってきた荷物にあったと思いますよ。お魚を釣るのですか?」
「ちょうど近くに小川があるからな。魚が捕れたら食卓が華やかになるなって思ったんだ」
「それなら私に任せてください! たくさん釣ってきますから」
両手を握り、気合いを入れるクルシュ。
少し心配ではあるが、クルシュには『釣り』スキルがある。
俺がするよりも成果を上げてくれるはず。
「わかったよ。ただ、釣りに行くのは明日だな。今日はもうすぐ暗くなる」
「はい。では、そろそろ家に戻りましょうか」
「いや、先に戻って置いてくれるか? 俺はちょっとやりたいことがあるからな」
「わかりました。では、先に失礼しますね」
クルシュが頭を下げた後、先に家へと向かっていった。
後に残った俺は畑の方へと向かう。
あとは畑を強化するだけ……なのだが。
さっきの鍛冶を見ていて思ったことが少しある。
もし、畑の開拓度を上げるのを失敗したら同じように爆発してしまうのだろうか?
畑が爆発……。
つまり、俺たちの生命線である食料を失ってしまうことに他ならない。
……いや、さっきの鍛冶は最初から、いかにも失敗しそうだった。
でも畑の方は違う。
E級の開拓度上昇だと種をまくだけなので、まず失敗しない。
「よしっ! やるか」
いつまでも迷っていても仕方ない。
結局俺はこの領地を広げていくしかないのだから。
いつも通り畑の画面を表示して、出てきた種を畑に植える。
これで完了だな。
畑に種を植え終えた俺は山になった『いやし草』を眺める。
「あの威力の爆発は素材を一度に混ぜたから起こったものだよな? その辺りも爆発するとわかってるなら試せるか……」
俺自身、開拓度を上げるときに怪我をする可能性があるとわかった以上、回復薬は早めに作れるようになりたい。
危険は承知の上だ。
俺は再び『いやし草』を使って鍛冶を行った。
幾度となく挑戦してきたが、やはりD級から一気に難易度が跳ね上がっている。
山のようにあった『いやし草』はもう数えるほどしか残っていなかった。
ただ、混ぜた液体の量によって爆発の威力も変わると言うことが分かった。
極端に量を少なくしていれば、音が鳴る程度で何度も挑戦することができた。
そして、ついに『いやし草』がなくなるタイミングで爆発しない割合を見つけ出すことができた。
【名前】 回復薬
【品質】 D[薬]
【損傷度】 0/100
【必要素材】 C級魔石(0/50)
【能力】 傷を治す[D級]
「よし、ついに完成だ!!」
思わず片手を挙げて喜んでしまう。
すると、後ろから突然声をかけられる。
「おめでとうございます、ソーマさん。……本当に完成したのですね」
どうやらクルシュが心配して見に来てくれたようだ。
結構長時間、鍛治を試していたし、何度も爆発音をさせていたわけだからな。
「あぁ、これもクルシュのおかげだな」
「いえ、私は邪魔してばかりで――」
「何を言ってるんだ。この『いやし草』はクルシュがいなかったら採れなかったんだぞ。だから、こうして無事に回復薬が作れるようになったのもクルシュのおかげだ」
俺が褒めるとクルシュは少し恥ずかしそうに頷く。
「それなら私とソーマさんの二人いたからできた……ということでどうでしょうか?」
ただ、その言葉を言った瞬間にクルシュの顔が真っ赤に染まっていく。
「あっ、いえ、その……。わ、私が言いたいのはその……」
「わかってるよ。俺とクルシュが協力してできた成果がこれだからな」
「は、はいっ!!」
クルシュは嬉しそうに大きく頷いた。
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