歯ブラシ

はぶらし

歯ブラシを強く握り過ぎて、歯茎が腫れた。

薄皮がペロリと剥けてトマトの果肉のような色になっている。

痛いはずなのに、傷口を舌でつつく。

この痛みが、何故だか心を落ち着ける。

好きなものを食べている時も、嫌いなものを食べている時も、痛みは常に付き纏う。

そこを庇って食べていると、時々別の場所を噛んでしまう。

ガリッと噛んでしまった頬は、薄い粘膜から血を流す。

あっという間に口の中に広がる鉄の味。

唾液と混ざって、傷ついた歯茎に染みる。



小さな空間でまわる。



生。



体内を巡り

外に出て

また取り込まれる。




生きているということ。



ふと、そんなことを思う。

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歯ブラシ @pochimaru

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