二話

 研究施設は、空から見ても全貌はわからないんじゃないか、というほど広かった。施設の三つのゲートのうち、二つは今俺がいる大駐車場にある。もうひとつはちょうど反対側にあり、秘密裏に車が出入りするときにしか使われない。〈桜〉はその裏ゲート周辺から襲撃を始めたらしい。

 空は曇って薄暗い。生ぬるい風がゆるゆると吹いて、隊長の持つ施設の見取り図を裏返そうとしている。隊長は無線機と自分の左手で地図を地面に押さえつけ、何か考え込んでいた。四人は隊長の指示を待ったが、彼はずっとうつむいていて何も言わなかった。

「隊長、組分けはどうする? 前と同じか?」

 ウルフが話しかけると、隊長はやっと顔をあげた。寝ぼけているみたいにぼんやりしている。

「隊長、しっかり~」

 黒狐がはやし立てるように言うと、隊長はやっと口を開いた。

「組は分けない。四人で裏ゲートへ行って、特攻隊の役目を果たす。〈桜〉の戦士たちの待機場所があるはずだから、探して奇襲すること。〈秋桜〉の一番隊が協力してくれる。一番隊はどんな人がいるか知らないけど、僕らがどんな戦い方をしようが合わせてくれるはずだから心配しないで」

 平淡だが案外はきはきした声で隊長は命じた。さっきまで心ここにあらずだったとは思えない。一同は頷いて、無線機を受け取った。隊長が建物内の作戦本部に行こうとして、何か思い出して振り返った。

「今回は緊急事態だから、僕が出ることになるかもしれない。僕から無線機の返事が無くなったら、各自で判断して行動して。何かあったときの責任は僕が負う」

 隊長はそれだけ言うと、小走りでエントランスの方へ行ってしまった。

「何か、今のちょっとカッコよくね? 『責任は僕が負う』だってさ」

 黒狐が茶化した。ウルフがフッと笑って頷く。

「たいてい、こういうときは『死なないでね』だったのにね」

 涼子が隊長の声真似をしながら言った。全然似ていなかったので笑ってしまう。

「最近、隊長が少しだけ事務仕事をちゃんとやるようになったんだ」

 ウルフはエントランスをちらりと見た。

「マジか。隊長も成長したなぁ~、俺は嬉しいぞ~」

 ちっとも嬉しいとか思っていなさそうな、バカにしたような口調で黒狐が言った。俺は黙っていたけど、何だか楽しくてニヤニヤしていた。

「行こう。一番隊が待ってるだろう」

 歩き出すウルフに俺は頷き、その後についた。


 「十五番隊が到着だ!」

「やっと来たか」

「数人しかいないんだし、いっそのこと本部に常駐すればいいのにな」

 僕が会議室に入ると、視線と共に期待の言葉が投げつけられる。全て無視して空いていた席にどさりと座る。十も数えないうちに無線機と資料を並べると、ヘッドホンを着けて外野の声を遮断した。

 目を閉じておよそ五年前までさかのぼる。初めて〈死神〉と出会った日だ。あのとき、世界でたった一人、心から信頼できる親友を喪ったかと思って本気で絶望した。実際は僕の早とちりだったけど、もうあんな思いはしたくない。誰も死んでほしくない。そのためには僕がしっかりしなきゃならないんだ。

 あの日から僕は〈龍〉と呼ばれるようになった。だけどそんなに僕は強くないし、僕が来ただけで戦況が良い方へ進むとは限らないし、実際仲間のおかげでここまで来れたようなものなのに、過ぎた期待はしてほしくなかった。僕ひとりでできることなんてそんなに無い。むしろ、僕は誰かがいなきゃ何にもできない。そのくせ、その「誰か」を傷付け、失望させてしまう酷い奴だ。

 僕は誰よりもちっぽけな人間だ。

 謝らないといけないな、とわかっている。わかっていても、それができなかった。過去のことはもう思い出したくもなかった。頭の片隅をよぎるだけでさえ苦しくて、悲しくて、そして怒りが溢れそうになる。真っ暗な水の中で溺れているみたいな感覚に陥る。喉をかきむしりたくなる。だから話せなかった。泣きたかった。わかってほしかった。でもそんなのは甘えだとも、すでに気づいていた。

『第三ゲート裏、待機場所に到着。一番隊と合流』

 ウルフさんの低い落ち着いた声がして、薄く目を開いた。マイクを押して応える。

「一番隊の指示に従って」

『了解』

 ブツッと愛想の無い音がして、通信が切れた。無事に戻ってきてね、と祈ってからちゃんと目を開ける。電灯の光が眩しくて、何度かぱちぱち瞬きをした。マイクを切りながらひそかに自分に約束する。イツキくんが無事に帰ってきたら、ちゃんと謝って話をしよう。僕よりきっとイツキくんの方が苦しいはずなんだ。イツキくんに嫌われたくなくて、離れてほしくなくて今まで隠してきたけど、そんなわがままはもうやめよう。もっと大人にならなくちゃ。

「おい、本当か!?」

 ふと、強張った驚きの声が耳に入ってきた。会長だ。よく通る声だからヘッドホン越しでもはっきり聞こえる。

「全隊長へ連絡だ。聞いてくれ!」

 会議室にいた者全員がヘッドホンを外して、会長の方へ目を向ける。ヘッドホンを外さなかったのは僕だけだった。

「〈マザー〉と〈死神〉が現れた。二人で行動しているそうだ」

 会長の隣にいた女性が何か耳打ちする。どこかの隊の隊長だということは覚えていたけれど、どこの隊かは忘れた。女性の言葉に会長は頷くと、なぜかまっすぐ僕の目を見つめた。

「彼らは〈龍〉を──十五番隊隊長を呼んでいるそうだ」

 その場にいた何十もの瞳が一斉にこちらを振り向いた。僕は身じろぎひとつせず、会長の目を見つめ返していた。

 僕に荷を負わせないで。

 僕に期待をしないで。

 僕をそんなに見ないで──。

 そんな念も全部払いのけて、会長は僕に言った。

「行ってくれ……お願いだ。十五番隊の指揮は一番隊に任せるから」

 僕は一度目をふせた。そしてゆっくり首を振り、ヘッドホンを外した。一番隊に代わっても大丈夫、なんて悲しい。そこはわがままを言わせてほしかった。

「僕だけで行くのは嫌。勝てない」

「でも他の隊は出られないんだ」

 僕は会長を睨んだ。暗に「他の人は行っても無駄だ」と決めつけている。裏を返せば僕はこの場にいなくても大丈夫だということだ。それに僕なら二人ともやっつけられると思っている。無理に決まっている。〈マザー〉が僕の母親だとはすでに報告したのに、僕に戦わせようとしているのは嫌がらせとしか思えない。

「嫌。行かない」

 言ってから子どもっぽさに気づく。駄々をこねてるようにしか聴こえないだろう。こんなのじゃだめだ。

「誰か一緒に戦ってくれないと、僕は死んじゃう」

 どうしても理屈っぽい説明ができなくて苛立つ。言いたいのはそういうことじゃない。

「そんなこと言わないで、な? 後で俺が行くから」

 会長は手を合わせて優しく言った。結局子ども扱いされてしまった。ため息をついて、椅子を蹴飛ばすように席を立った。

「早く来てよ」

 それだけ言って、僕は会議室を出た。


 「お前一人で来させるなんて、〈秋桜〉の会長はとんだ愚か者なんだな」

 珍しくフードを被った死神がケタケタと嗤う。まったくその通りだ。

 本部から裏ゲートに行く途中にある、少し広いアスファルトの道で彼らは待っていた。会長が来るまで時間稼ぎを、と思ったが、〈マザー〉の前では何も話したくなくて、僕は冷ややかな態度を取っていた。

「なぁ、今日はさ、ただお前と戦うためだけに来たんじゃあないんだ。ちょっといつもと違うことしに……」

「〈死神〉。貴方、何を言おうとしているの? 余計なことは言わないで頂戴」

 マザーが死神の言葉を遮った。死神は明らかに不満そうな顔をする。

「いいだろ、別に。……へへ、〈龍〉の捕獲だって」

 今度はマザーが怒ったような顔をする。僕はそのやりとりを表情ひとつ変えずに聞いていた。

 〈龍〉の捕獲、とは僕を捕まえに来たということなんだろうか。どうせマザーの「愛情」なんだろう。考えただけで反吐が出る。早く帰りたい。

「終わらせるわよ」

 マザーがそう言って懐に手を突っ込んだ。その手が外に出るや否や僕は斧を楕円に振り回して飛んできた物体を弾き飛ばす。ナイフだ。それもただのナイフじゃなく、怪しい液体が塗られている。たぶん、かすりでもしたら終わりだ。

「流石は私の息子ね」

 僕はマザーを睨み付けた。しかし死神が間に割り込んでくる。

「俺の存在を忘れるなよ!」

 彼は大鎌を片手で振り下ろし、僕が避けるともう一方の手に持ち換えてさらにもう一撃を繰り出した。それをすんなりかわすと、死神のローブの首もとをひっつかみ、足を伸ばしてくるぶしを引っかけた。ローブを離すと死神は後ろ向きにバランスを崩す。斧の柄を自分の体に当て、テコの要領で勢いを付けて死神を切り付けた。彼は後ろに倒れる力を利用して宙返りを披露し、僕との間合いを広げ、辛うじて攻撃を避ける。また何か飛んできた。今度はしゃがんでやりすごす。そのとき、黒い影が地を這ってくるのが見えた。空いていた左手の指を曲げ、その影が飛びかかってきたときに爪で引き裂いた。あの蛇だ。霧となって消えるその姿を見て一ヶ月前を思い出す。

 蛇に気をとられていたせいで、死神に後ろを取られたのに気づくのが遅れた。ぎりぎりのところで横に転がって立ち上がる。マザーと死神に挟まれた格好になって、完全に不利な戦況に陥る。ちらりと建物の方を見て会長の姿を期待した。当然のごとくまだ来ていない。汗がこめかみを流れる。

 死神が大股で駆けてきて、鎌をぐっと引く。斧で受け止めようと右足を前に出そうとした。が、何かに足を後ろに引っ張られた。ぐらり、と体が揺れて前に倒れる。さらに後ろからドンと押されて地面に顔をずりずりと擦った。もがいて起き上がろうとすると、両腕と首を押し潰されそうなくらいに地面に押さえ付けられた。左の中指に激しい痛みが走る。死神が上に乗っていた。

「大人しくしてろ」

 死神は何かごそごそやっている。中指の痛みが鈍痛に変わって左手全体に広がる。折れたかもしれない。

「離せ」

 喋ると口のなかに砂や小石が入ってじゃりっと気持ち悪い感触がした。うなりながら足掻いたが、足首しか動かない。

「だからじっとしてろって。針が折れちまうだろ」

 針? なんとか目を動かして状況を把握しようとする。死神がわざわざ僕の目の前で注射器のようなものを振った。恐怖に戦いて必死で地面を引っ掻いた。そのとき、ふいに建物の中に人影を見付けた。

「たすけ……がはっ、たすけて!」

 首筋にチクリと刺激を感じた。いっそう激しく地面をかきむしったが、人影も自分の体も動かない。

「誰も助けてくれないさ。ほら、あそこにいるやつ、お前も気づいてるだろ? 見てるだけじゃないか」

 死神が嗤う。僕は目を見開いていた。そうこうしているうちに注射針のピストンが一番下まで降りた。針を抜くとき、死神が耳元で囁いた。

「ごめんよ」

 それは今まで聞いたことのない、哀しい声だった。驚いて目だけで見上げたとき、僕の目に会長の姿が映った。

 人影の正体。

「え……あ……」

 目の前が真っ白になる。頭も氷に浸けられたみたいに冷たくなる。死神が退いた。それなのに、まだ何かにのしかかられている気がする。

 なんで?

 助けてって言ったのに。

 みすてられた?

 うらぎられた?

「う……」

 会長と目が合う。何も読み取れない。

 ぼくはどうしてみすてられた。

 ぼくはどうしてうらぎられた。

 いっしょだ。

 ああ、昔と一緒だ。誰も助けてくれないのだ。味方だと信じていたのに。信じていたのに。

 信じていたのに!!

「うヴァあ゛アあぁあああああああ!!!」

 全身が痛かった。熱かった。冷たかった。

 淀んだ怒りがほとばしり出る。喉が裂けそうなくらいの怒りを吐き出す。手の爪の先から足の爪の先まで力がみなぎって、それでいてこのままアスファルトの上で眠りたいくらいだるかった。

「〈死神〉、どうして怒らせたの? 厄介じゃない」

「俺は怒らせてねぇよ。最初から怒ってただろ」

 何か声が聴こえる。羽虫のようにぶんぶんと頭の中でうるさい。首だけで振り返って睨み付ける。羽虫たちは水を打ったように静まり返る。

 ──死んじゃえ。

 僕は飛びそうな意識の中で斧を探す。死神が蹴飛ばしたのか、かなり遠いところに落ちていた。諦めて死神のほうを再び振り返った。

「はは、でもこりゃ面白いな……相手してやんよ」

 死神が猟奇的な笑みを見せた。そのときにはすでに僕は空中に高く飛び上がり、彼に殴りかかろうとしていた。

 ──壊してしまえ。

 彼は大鎌を僕の右手側に振るった。僕は逆方向に体を一回転させ、左手の拳を繰り出した。彼は驚いて前に身を翻す。低く唸って右のかかとを振り下ろした。死神はもっと前に進み出て、僕と十歩ほど間をあける。

 ──何もかも無くなってしまえ。

 再び怒りで意識を失いそうになる。目の前が真っ暗になりかける。くらくらする。

 僕は舌の端を思いっきり噛んだ。血の味が広がる。痺れと引き換えに視界が戻ってくる。

 ──破壊をもたらせ。

  マザーが死神の横にいた。建物の人影が右手に見える。両腕に魔力を集中させる。周りの音が遠のいていく。

 死神が何か怒鳴りながら下がった。視界がぐにゃりと歪み、だんだんぼやけていく。握った拳からだらだらと血が流れていた。指をゆっくり開いて鉤爪のように曲げると、後ろに引いて左足を踏み出し、前に振ってエネルギーを全て解き放った。

 窓ガラスが割れる。

 壁が砕ける。

 地面が揺れる。

 死神が地面にひざまずくようにうつむいていた。マザーは腕で顔を覆っている。会長も同じように腕でガラスの破片を防いでいた。

 咆哮が聴こえる。


 僕のだった。


 「隊長だけで!?」

 俺は思わず素っ頓狂な声をあげる。

「何考えてんだ、って俺も思うさ。〈マザー〉と隊長を会わせるなんてな。残酷って言っても差し支えない」

 黒狐が無線機を片付けながらぼそぼそと言う。いつの間にか黒狐は〈マザー〉の正体を知っていた。

「そんでだな、俺は隊長を放って置けないわけだ。俺たちの誰かが助太刀しに行こうと思う」

「しかし、そんなことをすれば迷惑がかかるだろう。一番隊もいるんだ」

 ウルフも同じくぼそりと言う。言っていることとは裏腹にすがるような目をしていた。

「はは、隊長自らが言ってたことを思い出せよ。『僕が責任を負う』だぜ?」

「あら? 『責任は僕が負う』じゃなかったかしら」

「どっちでも同じだろ……。とにかく、誰が行く? さすがに全員は止められちまうからな」

「俺は行く」

 ウルフが食い気味に言った。

「ま、当然だよな。もう一人はどうすっべ。俺が行くかね」

 黒狐が立ち上がろうとしたとき、俺は黒狐の腕を掴んで引っ張った。

「俺も行きたい」

 黒狐は片眉を上げて俺の目を見据えた。それから口の端を歪めた。

「じゃ、任せるか。一番隊には俺が言い訳しておこう」

「感謝する」

 ウルフが目を閉じて言った。

「さ、早く行け。隊長が寂しくて泣いてるかもしれないからな」

 俺はウルフと頷き合って、その場を後にした。


 隊長のいる場所はわからなかったが、だいたいの場所は見当がついていた。慎重に、しかし素早く移動する。

「今、何か聞こえなかったか」

 ウルフが突然尋ねてきた。俺は首をかしげる。

「何も? どんな音が聞こえたんだ?」

「いや……なんだろう、叫び声というか」

 よほど形容しがたいものなんだろうか。はっきりとはしないが、俺よりウルフの方が耳がいいのは確実だ。俺たちは声のした方に向かった。

 しばらく進むと建物の隅っこまで来た。屋内なのに風を感じる。

「風?」

「あのガラス、割れてないか?」

 ウルフが指差した場所にはガラス片が散らばっていた。光を受けてきらめいている。ウルフが何かを感じてそばまで駆け寄る。

「隊長!」

 ウルフが叫んで銃を抜き、何発か撃った。俺も駆け寄って窓ガラスを潜り抜ける。隊長はマザーに引きずられて、ぐったりと頭を垂れていた。

「待て! 隊長を返せ!」

 俺は走りながら抜刀し、マザーに向けて突きだした。しかし、横から誰かに弾かれる。

「お前の相手はこの俺だ」

 死神の好戦的な瞳がフードから覗いた。

「何で邪魔するんだ!?」

「当たり前だろ? 所詮は敵だってこと、忘れたか?」

 鎌が空を切り裂く。俺は刀でうまく軌跡を誘導して避けた。

「なんだ、なかなかやるじゃないか、お前も。こんなときじゃなけりゃ、ちゃんと一対一で殺り合いたかったな」

 死神がぶつぶつと呟きながら、踊るようにひらりひらりと俺の刀をかわす。ウルフが何度も掩護射撃してくれたが、死神は未来予知でもしているかのように全て避けていた。そうこうしているうちに隊長の姿が木蔭に消えていく。

「なあ、なんであいつをそんなにかばうんだ? もう薄々気づいてるだろ、あいつが何なのかは。それとも、もう聞いたか?」

 死神が低い声で尋ねた。さっきからずっと喋っているが、息は切れないし勢いは衰えない。

「純粋にわからないな。俺ならもう諦めてる。だって嫌いだろ」

 俺はすり足で距離を取り、鼻を鳴らした。

「確かに、俺は隊長にムカついてる。けどな、それとこれは違うんだよ!」

 言いながら気づく。

 そうか、俺はなんだかんだで、あいつを好いていたんだな。友人として、仲間として。だから喧嘩して、こんなにも悲しいんだ。

「一度仲間として戦ったんだ。俺が隊長を嫌いになろうが、それは変わらないんだよ!」

 俺は死神のふところに飛びこみ、刀を打った。死神はなぜか鎌を使わず、腕でそれを受け止めた。鈍い金属音がした。俺は慌ててエビのように飛びのいた。死神はちょっと顔をしかめる。

「……いいなぁ、そんな格好いいこと、俺も言いたかった」

 彼の表情はフードに隠れて見えなかった。俺はいささか拍子抜けして固まる。死神は自分の手首を目の前に一瞬だけ寄せて、また下ろした。

「もう時間だ。じゃあな……また会おう」

 彼はひらりと身を翻すと、幽霊のごとく姿を消した。俺は追いかけて森に足を踏み入れたが、死神の姿も隊長の姿も消えて、辺りには静けさしか残っていなかった。

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